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灰かぶりのレオン ー悪役令嬢に捧ぐー  作者: ルル・ルー


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18/27

18.孤児院

ケーキを食べ終わり店を出てしばらく腹ごなしに観光を続けていると、子供の声が響く区画に入った。


「?子供の声がする」


「孤児院からの声がろうな」


「孤児院……」


王子は少し気になるようだが、ケヴィンはどこか嫌そうな顔をしていた。

まぁ孤児院の子供が綺麗なところなんて見たことないしな……。


「見るだけだぞ」


「うん」


手を差し出すと一回り小さな手が握られた。


大通りから一本奥に入った小道の突き当たりにあるのは、庭付きの一軒家。

柵の中では王子や俺ぐらいの子供が元気に走り回っていた。

基本この国の孤児院の子供は10を過ぎると追い出されてしまうらしい。その後はどこかで住み込みで働くか、この辺りだとニコラス=ファミリアに加入したりと様々だ。


耳が痛くなるほどの声が響く。

近所からよく苦情が出ないものだ。


柵の外で大人しく身を潜めている王子は、同年代の子供が駆け回っているのを初めて見たのだろう。混ざりたくてうずうずしているのが分かる。


それを確認してからケヴィンを見る。


「だ、ダメだぞ」


やんごとなき生まれの王子を、見るからに不潔な平民の孤児集団に触れさせるわけにはいけないのだろう。

しかし孤児たちが思ったより楽しそうに遊んでいるので、ケヴィン自身もぐらついているようだ。

王子もケヴィンもこんなに馬鹿騒ぎして遊んだことがないのだろう。


「ま、怒られたらその時だろ。一回ぐらいいいんじゃないのか?」


「だが……、あっ、殿下ッ!」


俺の言葉を聞くや否や、王子が走り出してしまった。

門を潜り庭に入って行く。


「お?誰か来たぞ!」


「だーれ?」


「綺麗な服着てる」


「貴族の子供かな?」


そしてあっという間に王子は子供たちに囲まれてしまった。

そのあとをケヴィンと俺が追うように庭に足を踏み入れる。


「僕も遊ぶ!」


「いいぞー」


「いいよ!」


子供のあっけらかんとしたやりとりにほんわかしていると、俺たちの方に視線が集まった。


王子も同じ歳ぐらいなら人見知りはしないんだななんて思っていたのだが、揃いも揃って絶望した表情を浮かべる。


「あ?」


明らかに俺の顔を見ての変化に声が漏れる。


子供たちは緊迫した面持ちのままジリジリと後退していき、初めて会った王子も背中で守るように押して行く。


「??」


何が起きているのか理解できない王子がされるがままに離れて行く。

一歩踏み出すと、一斉にピャッと体を竦みあがらせた。

俺は魔王か何かか?


「ッ、ジュード兄!」


「んー?」


子供たちから呼ばれたのは少し離れた場所でひとりで剣を振っていた少年だった。

俺と同じ背丈ぐらいのジュードと呼ばれた少年は、俺を見るや否や鬼の形相で子供達の前に立ち塞がった。

そしてその手に持つ剣を俺に向けて構える。


そんな様子に俺の横にいるケヴィンが恐る恐る尋ねてきた。


「顔見知りなのか?お前を怖がってるぞ?」


「あー、いや。こいつらとは初対面だよ」


「何をしにきた!子獅子め!」


「子獅子?」


「……」


初対面だが身に覚えのある呼び方にどうしたものかと考える。

大人たちから何か聞いているのだろう。

王子に知られるのは教育上あまりよろしくないかもしれない。


「子供を攫いにきたのか!」


「んなわけあるか」


何に尾鰭がついてそんなことになったのだ。

子供に危害は加えたことないんだが?


「俺たちは絶対に屈しないぞ!ジュード騎士団、今こそ訓練の成果を見せる時だ!出陣!」


「「「わー‼︎」」」


あっという間にママゴトが始まってしまった。


ジュードの掛け声と共に子供たちの輪から少年3人が飛び出して来る。

王子は少年たちを止めた方がいいのだろうかとあたふたしていた。


「ケヴィンは離れてろ」


「わ、分かった……」


やれやれ、怒涛の展開だな、なんて考えながら対処していく。


ジュードの軽い剣筋を指で摘み横に流しながら、体当たりしてくる子供たちを体術で転がしていく。


ジュードは俺と同じぐらいだが、他の少年は俺に比べて一回りほど小さい。

まだ6,7歳ぐらいだろうか。


「あっ!ジュード騎士団がッ。俺たちもいくぞ!」


「「「「わー‼︎」」」」


その様子を見ていたらしい他の子供達も勇ましく声を上げながらやって来た。

その全てを薙ぎ倒していく。


「おいおい弱すぎるぞ。そんなことで何が騎士団か」


「このやろー!」


「ミックおじさんの敵ー‼︎」


ミックおじさんが誰なのかは知らないが、十中八九ニコラス=ファミリアのメンツなのだろう。


わーわーうるさい子供達をひっくり返しては離れてひっくり返しては離れてを繰り返す。

俺は完全に遊んでいるが、子供たちはいたって真剣である。

ほぼ全ての子供たちが俺の周りに集り始め、何かしなければと思ったのか、王子が駆け寄って来た。


「わ、わー?」


「おわっ。ちょ、殿下、怪我するから向こうにッ」


俺が攻撃できないため、ひっつき虫と化した王子。

いくら鍛えているとはいえ、5歳の子供を引っ付けたまま、しかも子供たちの手が王子に当たらないように立ち回るのは、9歳児の俺には不可能だった。

バシバシ当たってくる剣と子供達からの体当たりにバランスを崩す。

王子に怪我をさせないよう覆い被さる形で転んだのだが、なおも続く容赦ない攻撃に声を上げる。


「だー‼︎いい加減にせんか‼︎」


『⁉︎』


ピリッとした声に子供たちの体が固まった。


ようやく止んだ攻撃にため息を吐きながら立ち上がり、びっくりしている王子を立たせる。

その高そうな服についた土を叩き怪我がないか確認しながら口を開く。


「ここの責任者は誰だ?」


「ッ、悪いやつに教えるかよ!」


「俺が何をしたって言うんだ……」


なおも剣を向けて警戒してくるジュードの言葉に若干傷つく。


「ミックおじさんが言ってたぞ!子獅子はニコラス=ファミリアに土足で踏み込んで甘い蜜を吸ってるって!」


残念ながら、甘い蜜を吸っているのはニコラス=ファミリアの方である。

ここ最近では他の魔法薬の情報も渡しているため、それはそれは儲けていることだろう。

それに比べて俺の悪巧みなんて微々たるものだ。


「なるほど?それを知っていながら俺に剣を向けたのか?」


目を細めて見てやると今にも泣き出しそうな顔になる。

それでも剣先は迷いなく俺の方に向いていた。


怯えながらも守るべきものの為に立ち向かうのは大した根性である。

さすがはニコラス=ファミリアのある街の子供だ。


どう料理しようかと足を踏み出したところで、庭に誰かが入って来た。


「あ!ミックおじさん!」


「なぜお前がここに……」


振り向くと50代ぐらいのくたびれたおっさんが引き攣った顔をして立っていた。

確かに言われてみれば見たこともあるような?

初期の1ヶ月間の中でいちゃもんをつけて来たグループの中の誰かだろう。


「いいや、俺の友達が子供たちと遊びたいって言うからついて来ただけだよ」


そう言って横にある王子の頭に手を乗せると、ミックはその顔を見て眉を顰めた。

悪人顔の顰めっ面にビビったのか王子が俺の後ろに隠れた。そしてそれに便乗してしれっと俺を盾にするケヴィン。


「怖がってるだろ、その顔やめろよ」


「あいにく生まれつきなんでね。……、友達ねぇ。まぁお前がガキらに何もしねえってんなら遊ぶぐらい構わないが」


「俺が子供に手を出すほど節操なしに見えてるのか?」


「まぁな、女子供関係ねえって噂だぞ」


「ひでぇ……」


何から派生してそんな話になってるんだ。

心外すぎる言葉に少し遠い目をしていると王子が俺の服を引いた。


「ん?」


「遊んでもいいの?」


「あぁ。怪我だけはしないようにな」


「うん」


嬉しそうにふんわりと笑う王子にほっこりしながら、子供たちの方に駆け出していく背中を見送った。


「おい、アイツに虐められたら俺たちに言えよ?懲らしめてやるから」


「?うん」


よく分かっていないのか王子の気のない返事に、子供達は満足したように頷いた。

手も足も出なかったくせによく言うよ。



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