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灰かぶりのレオン ー悪役令嬢に捧ぐー  作者: ルル・ルー


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12/28

12.罠



初めてやってきた隣町。

改めて考えると、隣町に初めていくのが8歳ってやばいよな。間に森とかがあるわけでもないのに。

どんだけ引きこもってたんだって話だよ。

まぁ屋敷が広いし、欲しいものなんてすぐに用意してくれたからあまり外の世界に目が向かなかったのもあるだろうが。


ただ、うちの街と違ってマフィアの拠点だからか、何となくまとう空気感が違う気がする。


街の中を進み案内されたのはウチと同じ大きさぐらいの屋敷だった。


逃げも隠れもしていない様子に、国に見逃されてるマフィアって、ここまで堂々としても良いんだと少し感心する。



じじいの恋愛観についてよーく分かったが、本当に興味がない話だったので20分ほどしか経っていないはずの馬車の旅も相当長く感じた。

停車した途端馬車から飛び降りてしまったほどには窮屈だった。


「やっと解放された……」


「先人の話は最後まで聞かんか!」


「うるせえ。仕事をしろよじいさん」


馬車の中から叫ぶアーダルベルトにそう言い残し、カミルだけを連れて馬車から離れる。

散々な目に遭ったと、げっそりとしていると、ライトがひょっこりと現れた。


「先代と仲良くなったみたいっすね」


「これが仲良く見えるのか?」


「見えるっすよ」


人懐っこい笑顔でにっこりと笑うライト。

眼科行った方がいいんじゃないか?


そんなことを考えていると長身の男がヌッと視界に入ってきた。


「お、ロホスっすか。じゃ、ここからはこの人についついってくださいっす」


「お前がレオンだな。案内する」


「ああ」


案内役は2メートル以上はあるだろう背丈の頑丈そうな男だった。

ライトは手を振って馬車の方に帰って行った。


扉をくぐると広いホールに抜けた。

かなり古い屋敷である。

壁は一面木が使われており、派手な印象はないが、調度品の一つ一つは年代物で価値のあるものだとわかる。

メンバーも廊下を行き交っているが、こちらを向いて、そして俺の後ろにいる顔にギョッとしている。


どうやら先代様はここに来ることを知らせていないらしい。


いつの間にか追いついていたアーダルベルトにちらりと視線を向ける。

本人は飄々としているが、先代がいるとやりずらいんだろうななんて考えていると、目的の部屋の前に辿り着いた。


「ボス、例のガキを連れてきたぜ」


「入れ」


扉の中にはデスクに座りふんぞり変えるボスと思われる男と、それを守るように左右に立つ6人の男。

完全に威圧してかかっている。

普通の子供なら泣くぞ?


そして光魔法のために呼ばれたのであろうローブを着た青年に目をやる。


Uh-huh?

なるほどね、そのパターンできますか。


「なあ、これってじいさんもグルなのか?」


背後に立つアーダルベルトに問いかける。


「あ?……って何でいんだよ、親父」


「話が見えんな。何か気に食わんかったか?」


その声色に嘘は見えない。


「んー、なるほど。じいさん2人は蚊帳の外か」


まあアーダルベルトに限って言えば、ここに来るって言ってなかったみたいだしな。

そんなことを思いながら話を進める。


「はじめまして、レオン・ベルティエだ。お願いしてた材料は揃ったか?」


「報告通り口の悪いガキだな。確認してくれ」


カミルを後ろに残したまま前に出ると、持ってこられた2つの木箱の中身を見せられた。

水晶花も丸い星露晶もゲームの情報通り元来の物から色が変わっている。

そして問題は光魔法使いだが。


胸ポケットから封のしていない封筒を取り出し2本指で立てて見せる。


「ここに術式が書かれてある。この術式通りに光魔法を使えば完成する訳だが……、その魔法使いに任せて本当に大丈夫か?」


バレないとでも思っていたのか、俺の言葉に場の空気が一変する。


魔法が不十分でも普通は気づくことはできない。

相手が魔法も使えない歳のガキともなると尚のこと。

そこを利用して情報だけ抜き取って取引を反故にしようとしたようだが、そう簡単に嵌められてたまるかってんだよ。


そう考えボスの顔を見つめていると、突然風が吹いた。

次の瞬間には指から封筒がなくなっており、いつの間にかボスの横に立っている男の手に収まっている。

どうやら隠れていたらしいあの男が超スピードで駆け抜けた風だったらしい。


「ボス」


「ああ。勘のいいガキは嫌いだが、つめが甘いな」


どっかで聞き覚えのあるセリフを吐きながら、手渡された封筒を開けて中身を取り出す。

紙を広げるとそこに書いてある言葉を見たのか、ボスの額にピキッと青筋が立った。


「あ?」


その隙を見計らって、準備しておいたスイッチをカチリと押す。

バフンと音を立てて煙が立ち込め、男たちがむせる声が響いた。


「ッッ⁉︎んだこれはーー、ガッ⁉︎」


「はい、終了。カミル、風」


「はい」


カミルの魔法により煙幕が取り払われ視界がクリアになる。

そこにある光景に息を呑む音が聞こえる。

じいさん2人は揃ってため息をついていた。


ニコラス=ファミリアのボスを跪かせ、その背に乗る8歳の少年と言う構図である。


「なぁじいさん。乗っ取るつもりはないが、ボスがこれで大丈夫なのか不安なんだが。俺はお前たちを過大評価し過ぎたか?」


子供騙しの罠にこんなに簡単に引っかかるとか、天下のニコラス=ファミリアなのに本当にやめて欲しい。


「儂も同感だな……」


封筒と紙は力尽きたように床に落ちていた。


紙にデカデカ書いていたのは、『バカ』の文字とあっかんべーするイラストである。こんなん見たら誰でもピキるだろう。

封筒に爆発して煙幕になる仕掛けを入れており、それをモロに食らった持ち主は勢いで息ができなくなると言う仕組みだ。

その様子を観察していた俺が、背後に回り込み背中をとればいっちょ上がりである。


「つめが甘いのはそちら側だったな。ガキに嵌められてどんな気持ちだ?」


「……、降りやがれ」


「はいはい」


そう言って素直に降りて元の位置に戻る。


「それで、まだ取引する気はあるのか?俺としては顔も知らない人間がどうなろうと知ったこっちゃないんだが」


もう一枚懐から封筒を取り出す。

同じことをしてもいいが、それが本物か、もし奪い取ったとしてもどんな仕掛けがあるのか読みきれないのか、お互いじっと見つめ合う時間が流れる。


今日の俺の機嫌が良くてよかったな。

この前ぐらい不機嫌なら、とうの昔にタイムアップでこの場所から切り上げている。


「……、分かった。おい、お前、シェロを呼んでこい」


「了解です」


これでやっと話を進められるな。


ソファにどかっと座り足を組むと隣にアーダルベルトが座ってきた。

そして懐から葉巻を取り出し火魔法で着火する。


「おい、それやめろって言っただろ」


「部屋も広いし一本ぐらい許せ。息子の不出来を見せつけられたんだ、吸わんとやってられんわ」


「おい、言われてるぞ」


「……、はぁ。親父と対等に話せるってんなら、んなことしなかったってのに……」


まあそうだろうな。


はじめのやり取りでは、じいさんがいたことに気を取られて、俺たちのやり取りに目がいってなかったのが敗因だろうか。


ボスのはずなのに実質中間管理職のような勢力図に、少し同情する。


その後はすぐに新しい魔法使いがやってきて、ボスの後ろに立った。


「さて、これが術式だ。確認してくれ」


「今度は仕掛けてないだろうな」


「さあ?」


俺の分かりやすい顔にため息を吐く。


「わざとかよ、タチ悪いな」


疑うことなく封を開け紙を取り出す。

小難しいことが書かれているためボスは仕掛けがないことだけ確認してから、背後の魔法使いに紙を渡した。

しんと静まりかえった部屋に、アーダルベルトが煙を吐き出す音だけが響く。


「……、なるほど。ボス、これは試してみる価値ありますよ」


「本当か?」


一筋の光が見えたようにぱあっと華やぐボスの顔に、光魔法使いは優しげな笑顔を返す。

慕われている証拠だろう。


「ええ、早速作業に取り掛かっても?」


「ああ」


「んじゃ、俺はやることやったし失礼するな」


「は?使うとこまで見ないのか?」


よっこらせと立ち上がる俺に怪訝な顔を向けるボスにフッと笑いかける。


「光の魔法使いに試してみる価値があると思わせるところまでが、今日の俺の役目だったんだよ。ここまでくると試さざるを得ないだろう?まぁ怪しいのはわかるが、効果が出なかったら暗殺にでもきてくれ。お前たちなら恩を仇で返すような不義理はしないだろうしな」


失敗する可能性は限りなく0である。

唯一の不安要素は、作成時に『ヒロインでなければならない』と言う条件が存在しないという証明ができていない一点のみである。

ま、変に拗れてもカミルが守ってくれるだろう。


俺の思い切りの良すぎる言葉に、ポカンと口を開けるボスはやはり頼りなく見える。

アーダルベルトの息子のはずなんだが、次のボス、床に伏せる一人娘の方に期待するしかないな。


不安だなーと少し悩んでいるとアーダルベルトが徐に立ち上がった。


「儂が送ろう」


「いーよ別に。散歩がてら歩いて帰るから。じじいはここで孫娘の回復でも見守ってろ」


「……、恩にきる」


「頼み事をするタイミングになったら、ジークフリードの店に行くよ。それでいいだろ?」


「ああ」


「酒の入っていない飲み物でも準備しておくとしよう」


「そうしてくれ、じゃあな」


そう言って最強の駒を手に入れたにしては軽い挨拶でその場を後にしたのだった。


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