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灰かぶりのレオン ー悪役令嬢に捧ぐー  作者: ルル・ルー


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11/28

11.豪傑



それから6日後、約束の日なのでそろそろ連絡が来るかなーなんて考えながら朝の支度を整えていると、窓がコンコンとノックされた。

カミルが窓を開くと、ひょいと窓枠を跨ぎ小柄な青年が部屋に入ってきた。

猫のような顔で八重歯が何度も人懐っこい印象を与える。


「おはようございまーす。初めまして、ニコラス=ファミリアのライトっす。じいさんに頼まれて連絡に来たっすよ」


「……軽いな」


「そっすか?」


なんかこう、お堅いマフィアの想像が崩れ落ちそうな気がする。


「それで、材料は揃ったのか?昨日の晩は晴れていた様に見えたが」


「はいっす。準備万端っすよ。それで俺が案内役に任命されたっす」


「?あの拠点じゃないのか?」


「ちょーっと人数増えそうなんで、隣町の本部まで馬車に乗ってもらうっす。もちろん、街の路地に停めてるから家族さんにバレる心配はないっすよ」


「ならいいが、馬車が停まってる場所は?」


「2番街の酒屋の裏っす」


「分かった、朝食が終わったら向かう」


「了解っす、じゃ失礼するっすね」


そう言って来た時と同じ場所から帰って行った。


「ここ2階なんだが……」


「隠密に長けた人間のようですね。身軽でしたし、何より、気配がまるでしなかった」


「そうだな」



ライトが言っていた通りの場所に馬車がひっそりと停めてあった。

俺に気付いたのかライトが元気に手を振ってくる。

本当に裏社会の人間なのか疑うレベルで純真そうな顔をしている。

まぁ、それがライトの役割なんだろうが。


「待ってたっすよ。じゃ、この馬車に乗ってもらうっすけど、後ろの騎士っぽい従者はいいとして、そのまた後ろで隠れてる護衛たちはどうするっすか?」


「あぁ、多分監視してるだけだから手は出してこないと思うぞ。建物の中に入ってくるわけじゃないだろうし、放置でいいんじゃないか?」


「ふーん、了解っす」


さすがと言うべきか、気配を消すのが上手い人間は人の気配を察知するのも上手いらしい。

だいぶ離れてるのにすぐに気付いてきた。


まぁ父に報告は行くだろうが、この前も特に何も言われなかったので多分大丈夫。多分。


暗い茶色でシックにまとめられている馬車を見て、少し顔を傾げる。

ライトに扉を開けてもらうと何となくレザーのような香りを感じた。

乗り込みながら問いかける。


「ただの子供の送迎にしては馬車が上質過ぎないか?」


「それはーー」


「儂が乗っておるからな」


その威圧の乗った声に、後ろからカミルの腕が伸び引き戻される。

踏み台のところにどうにか足をかけバランスを取りながら、馬車の声の主を見た。


「あー、なるほど」


カミルの腕の中から見えるのはディートフリードの横に座るもう1人の初老の男。

長めの白髪をオールバックにし、シワの乗った顔は歴戦の猛者の形相で、ガタイの良い体はスーツを着こなし葉巻を吹かしている。


確か名前はアーダルベルトだったか。

何と様になる姿か。

マフィアのトップを想像しろと言われたら大体の人間が挙げるであろうイメージ通りの出立である。

男として一度は憧れる姿でもあるが。


力の入ったままのカミルの腕を外し、改めて馬車に乗り込む。

カミルも外にいればいいものを、警戒心マックスで横に座る始末である。


「これはまた、大層なお迎えをどうも。先代ボスがこんなガキのお守りに駆り出されるなんて、ニコラス=ファミリアの一粒ダイヤは大事に大事に育てられているらしい」


「ハッ、これはまた肝の据わったガキが釣れたもんだ」


「お褒めに預かり光栄だな」


馬車が動き出し外を眺める。

そう言えば、街の外に出るなんて初めてじゃないか?


葉巻の煙を吐き出すじいさんに視線を向ける。

臭い訳じゃないのはその葉巻が最高品質である証なのだろうが、流石に煙い。


「こちとら絶賛成長途中の子供なんでね、健康に悪いものは遠慮して頂きたい」


「それもそうだな」


手際のいいディートフリードに用意された灰皿で火を消すアーダルベルト。

素直な行動に、孫のいるじいさんでもあることを思い出す。


肘掛けに肘をつきながらその姿を眺める。

ほんと、かっけーな。


「それで?今のボスより先に先代が出てきたわけだが、何か話したいことでもあるのか?」


「いや、お前の第一声で知りたいことは知れた。合格だよ」


「ふーん?」


どんな基準があったのかは知らないが、貰えるものは貰っておこう。


「お眼鏡に適ったようで何よりだ」


と言うことで話すことがなくなった。

そもそも俺はコミュ力が高いわけではない。

目的があったり、話したがりが一緒にいれば話は続くんだが。


渋くて魅力的なじいさんをじっと見ていても不自然だろうし、馬車の外でも眺めてぼーっとして暇を潰そうかななんて考えていると声を掛けられた。


「一つ聞いておきたいことがある」


何だ、話したいことあるんじゃないか。


「どうした?」


「お前の最終的な目的は何だ?」


おー、それ聞くか。

何に関する目的なのか、言っていないのが何ともいやらしいが、椅子に深く座り背もたれにもたれながら腕を組む。


「んー……。俺自身、どこを最終とするべきか、決めあぐねているからな。ニコラス=ファミリアに限って言えば、ちょっと人員を借りてやりたいことがある、ぐらいか?」


「ほう?」


「動きやすいようにちょっとずつ恩を売っていくつもりではあるが、乗っ取っるほどのことをするつもりもないし」


乗っ取った方がやりやすくはあるだろうが、やることが多くて大変そうだし。

ゲームがエンディングを迎えてもラフィリアの人生は続くしな。


そんなことを考えながら、ふわっとした俺の行動計画を話すとアーダルベルトが片眉を上げた。


「そう簡単に乗っ取れると思うのか?」


「まぁ手持ちのカードを全部出せば難しくはないだろうな」


サラッと言った言葉に場の空気が一層重くなる。


「舐められたものだ」


心臓が止まりそうなほどギラついたオーラを真正面から受ける。


ニコラス=ファミリアはこの国で一番古い組織であり、その歴史の中でならずものの集団をまとめ上げてきた。

そのトップを40年守り切る中で勢力も拡大し、噂では国王とタメで飲めるほどだと言う。

その噂もこのオーラなら、あながち嘘でもないのだろう。


そんな人間に脅威であると認識してもらえるなんて光栄じゃないか。


少しおかしくなって髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら前髪を上げる。

明るくなった視界の中で愉快げに笑っている俺を見て、少し驚いた表情を浮かべるアーダルベルトがいた。


「ははっ、そう睨むなよじいさん」


このオーラに耐えられているのはこの目のおかげか、前世で生みの母に呪いを当てられたからか。


「ーー舐めるなんてとんでもない。武力、組織力、影響力、ニコラス=ファミリアはどれを取っても一級品、故に一等魅力的なんだ。だからこそ、俺は動いた。結果、この国で王と並ぶ権力者とこうやってサシで話ができてるんだから、出張った甲斐があったってもんだろ?」


アーダルベルト以上の目でその目を見据える。


ラフィリアを守るためには、ニコラス=ファミリアはどうしても揃えたい駒である。

この駒を使ってラフィリアの守りを固め、ヒロインのバッドエンドを絶対に阻止する。


他のマフィアでは力不足もいいところ。

どうせなら最高級品で揃えたい。


唯一譲れない場所、

欲のこもった目で、自分の何倍もの人生を裏の世界で生きた豪傑を見据える。

じっと見つめていると、険しかった顔がふと弛んだ


「ハッ、なるほど。これはお前には手に余る相手だったな、ディートフリード」


「ええ、本当に」


「レオン、お前その髪はできるだけ下ろしておけよ。普通の人生を送りたいのならな」


やっぱなんかあるのかこの目。


「せっかくの色男がもったいないが、仕方ない、諦めろ」


がははと豪快に笑うアーダルベルトに虚を突かれながらも、髪を手櫛で戻しジト目を送る。


「んなのどうでもいいわ」


「あ?はっはーん?さては、お前にあの目をさせたのは女だな」


「うぜえ……」


なんか急にめんどくさい爺さんになったんだが。

図星だから何とも言えない。


「ほれ、言ってみろ。どこの娘だ?」


至近距離でニマニマと笑われると腹が立つな。

この組織を使ってラフィリアの守りを固めるのだから、いずればれてしまうというのも余計に腹立たしい。


「おいカミル。このじいさん黙らせろ」


「私には荷が重いです」


「臆病者め……」


「なぜ手に入れようとしない。お前ぐらいならたとえ王女だろうと手を回して自分の女にできるだろ」


そもそも自分のものにしたら意味ないからな。


「そう言うのじゃないからな。ほっとけよ」


「カーッ、最近の子供は歪んどるなァ!もっと真っ直ぐ欲に従わんか‼︎」


「あー、うぜぇー……」


それから隣町に着く間、ずっと女性関係の武勇伝を聞かされる羽目になったのだった。


そんなもの子供に聞かせるなよと言ったのだが、全く聞く耳を持たなかったな、あのじいさん。


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