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氷の令嬢の初恋と白き残響  作者: 錆猫てん


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9/9

09. エピローグ

 春の夜、湖畔は静かだった。

 あの日と同じ──だけれど、あの日とはまったく違う空気が流れている。


 空には無数の星が散らばり、淡い夜風が髪を撫でた。

 遠くで虫の声が聞こえ、湖面には空の光がゆらゆらと揺れて映っている。


 私はその光を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。


 あれから、何年もの時が経った。

 王都に戻ることはなく、私はこの伯爵領で生き続けている。


 庭には花が咲き乱れ、子どもたちの笑い声が風に乗って届く。

 あの頃、怖くて仕方なかった「幸福」は、今はもう、私の掌にある。


 夜空を見上げると、ひときわ明るい星がひとつ、まるで私を見下ろすように輝いていた。

 ──あの夜、BLANCが「故郷」だと嘘をついた星。


(……久しぶりね、ブラン)


 胸の奥は、もう何の声も響かない。

 けれど、あの夜に交わした言葉も、笑いも、温度も、全部覚えている。

 ふと、口元がやわらかく緩んだ。


「ねえ、ブラン。……私、ちゃんと幸せよ」


 風が吹き抜け、春の夜気が頬を撫でた。

 まるであの声が、静かに返してくれたような気がした。


 私は星を見上げながら、そっと囁く。


「──ありがとう」


 湖面に映る星が、少しだけ瞬いた。

 それはきっと、錯覚なんかじゃなかった。


 この世界に、BLANCはいない。けれど、彼は消えていない。

 私が歩いてきたこの道のすべてに、あの夜の光は、静かに灯っている。


 夜空を見上げる私の瞳に、もう恐れはなかった。

 幸福を恐れることも、拒むことも、もう──ない。


最後までお読みいただきありがとうございました。

クラウディアの物語はここでいったん終わりとなります。

描きたかった起伏の少ない静かな物語を書けたかなと思っています。

もしよろしければ評価、感想を頂けると幸いです。

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