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群像備忘録  作者: ジュル
1/3

she


いい場所。そう心の中で呟く。外界には聞こえず僕の中だけで反響する。

そう思ってしまうだけの感動があった。

空を見上げると真っ暗な夜空を下地にして沢山の星が輝いている。場所的に空気が透き通っているおかげだろうか。

人一人いない、誰ともすれ違わない田舎の畦道を遠目に見える家に向かって歩く。

辺り一面にある田んぼからは、名前も知らない虫の鳴き声が延々と鳴り響いている。

市内から離れた田舎町。騒々しい市内とは程遠く、静かで自然に溢れ落ち着いた場所だ。

(高校を卒業して、落ち着いたらこんなところに住みたいな)

そんな田舎で彼女と過ごすことになったことを今更ながら幸せに感じる。

二泊の小旅行に招待されたのは夏休みが始まる前のことで、カフェで一緒に試験勉強をしていた時だった。

彼女との時間にも慣れて、付き合いたては激しかった緊張も大分収まってきた頃、(といっても、緊張してると彼女に打ち明けても全然そんなふうに見えなかったと言っていたが)

僕はカフェで彼女と明後日に迫った期末試験の勉強に励んでいた。

勉強中、隣で勉強を頑張る彼女の横顔を気づかれないよう眺めながら見ていた。やはり勉強頑張ってる彼女の姿も良いなと新たに気づきながら見ていた。

そんな感じで彼女はワークを一周させ、勉強に一区ぎり付き、彼女は凝った腕を伸ばしたあと、話しかけてきた。

「夏休みに私のおばちゃんが家を空けるんだけど、良かったら泊まりに来ない?」と、訊いてきたのだった。

その問いに僕は、なんちゅうタイミングでなんちゅうことを聞くんだとびっくりしたが、それに驚きをしっかり見せた後、勿論了承した。


その後、僕は送られた住所をスマホの地図のアプリで探し、そこへ向かっていた。

「ここだよな…かえちゃんのお婆ちゃんの家」

お婆ちゃんの家とされる家の前に到着し、彼女に、「着いたよ」とメールを送る。その後彼女はすぐ玄関の扉を開け、その姿を見せた。そして彼女は、

「いらっしゃい!上がって上がって!」

と、嬉しそうに言った。

彼女の格好は、白い半袖のTシャツに、赤い服を羽織り、下は、短いジーパンを履いていた。

「じゃ、お邪魔します」

僕は彼女に従い、家の中にお邪魔した。

入った瞬間、感じたことのある懐かしい匂いがした。昔僕もよくお婆ちゃんの家で嗅いだことのある匂いだった。

家の内装はいわゆる”お婆ちゃん家”で、よくわからない置物や、掛け軸や、知らないものが沢山あった。

そうして見回していると、彼女が僕の方を見てきて、何故だか嬉しそうにしていた。その彼女を見て僕も嬉しくなっては表情を緩めた。


彼女に案内され、リビングに入り、二人してソファに座った。ソファに座って床に違和感を感じた。正面にあった机の下に猫が居る事に気づいた。

「ねこだ」

その言葉に猫がびっくり起きて、彼女の方に逃げていった。彼女の足元まで行くと、ぴょんと飛び、彼女の足の上に乗って、丸まった。

「かわいいなぁ」

「すいかって名前。私が生まれる前からこの子は生きてる」

猫を撫でながらそう言った。

「へー。かわいい名前。珍しいな。季節ものの名前つけるって」

「変わってるよねー。でも可愛い名前でしょ。つけたのうちのおじいちゃんなの」

「気が合いそうだ」

なんて言って笑った。彼女も少し笑った。

「ちょっと触ってみる?」

「うん。ちょっとだけ」

ソファを離れて猫と彼女の元へ近づいた。猫をさわれる位置に立って、そーっとすいかに手を伸ばす。

人差し指とすいかの背中が触れた。そのまま全指で触れ、やがて手全体で背中を撫でた。柔らかい体毛と、下に眠るあたたかさを感じて心が安らぐ。

その間触れられているすいかはそっぽを向いている。ツンデレ猫だ。

「すべすべしてあったかい」

「でしょぉ」

「猫飼いたくなったわ。ありがとう」

そう言って猫の方をみる。


「そろそろご飯にしよっか」

「うん」

と返事をした。

彼女はキッチンに向かう途中、「のんびりしてていいからね」と僕に言った。

のんびりさせてもらう。

窓から外の景色を見る。やはり綺麗だし外の空気も吸いたいと思い立ち、窓を開けると外の空気が入り込んできた。鼻を使い息を吸い込む。はーあ。綺麗な澄んだ空気だ。市内じゃ味わえないな。空気を堪能した後家から見える景色を見る。といっても、田んぼしか無いが。本当にいい所だな。


外の景色を見るのに飽きてきた頃、彼女から「ごはんできたよー」という元気な声が聞こえた。

台所のある部屋に襖を開けて入ると、彼女は椅子に座って待っており、机の上にはたくさんの料理があり、とても食欲を刺激した。

「おいしそう」

「よかった!冷めないうちに食べちゃお!」

「そうだね。いただきます」


彼女に作ってもらったご飯を、何とか二人で完食した。とても美味しく、大変満足した。

「はぁー美味しかった」

「そう言ってもらえると嬉しいな」

「めちゃくちゃよかった」

「ふふ。ありがと」


食べ終わった後、僕と彼女はそんな言葉を交わし合った。


食べ終わった後、今日寝る事になる寝床に案内された。6畳ほどの和室で、畳の上に白い布団が二つ置いてあった。

「広いね」

僕はそう口にしたあと、とりあえず持ってきた荷物を畳の上の部屋の隅に置いた。

「私、お風呂入ってくるから!私上がったら入ってね」

彼女はそう言うと、すぐさま浴室に向かっていった。

「随分急いでるな」


畳に腰を下ろし、「ふぅ…」と一息。彼女が風呂から上がったら、ここで二人で眠るのか…と考える。男なら感じるその予感に少し期待する。


とりあえず彼女が上がったら次に風呂に入る準備をしておく。準備した後、暇だったから部屋の隅でスマホを眺めていると、


彼女が風呂から上がり、髪を乾かし終わると、僕が入るよう催促された。


着替えを準備して、風呂に入った。


体を流して浴槽に入る。あったかくて落ち着く。


風呂から上がった。ふう。彼女と、同じ部屋で眠る事に緊張して体が震えている。

それでも勇気を出して部屋に入った。


部屋に入ると、風呂上がりの彼女が待っていた。


髪を下ろして、なんというか、全体的に艶やかだった。輝いて見えた。


「上がったの。外に行こう。花火しよう」

彼女は僕の手を取って、片方の手で花火セットを持って僕を外に連れ出した。


バケツの中に水を入れて、二人で座って花火に火をつける。

「綺麗だね」

なんて当たり障りないことを僕はいう。

「うん」

バチバチと火花が生まれ、一瞬にして消えてなくなり、また次の火花が光っては消える。

彼女の方を見る。いつもと違って下ろすと長い艶のある髪に、花火の火に照らされる横顔。足を少し開き、白い太ももが露わになっている。彼女の明るい顔を見ていると、彼女も僕のことを見てきた。彼女は口元を綻ばせ、安心させるような表情ではにかんだ。そんな顔を見て僕も絆されて、表情筋が思わず緩む。

「ずっと一緒にいれるといいな」

そう言い、彼女と体が触れるくらい近くに移動させて、彼女の腰に手を回す。

「私も、そう思ってる」

そう言った後、ちょうど二人の花火が消えた。

花火を置いて、顔を彼女の顔に近づけた。優しく抱きしめ、キスをした。唇をつけた瞬間から、とろけるような愛情が溢れた。

太ももに手を潜り込ませ、十分に柔らかさと暖かさを感じる。

脇腹を触る。余分な脂肪のないお腹を摩り、徐々に上に向かって触りながら、胸の柔らかい感触をとらえた瞬間、彼女は…

「続きは中でね」


満たされるまで愛して、愛されたあと、彼女を抱きしめながら眠りについた。


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