7話 接触
「やぁキナコ。会えてうれしいよ。」
不可抗力とはいえ、うまく接触できてよかった。ウルト。
「誰だ。私の頭の中に直接データを送ってきたやつは」
キナコは少し苛立った様子で言った。
「おっと厳しい態度だね」
アイは少し笑った声を響かせる。
「当たり前だ。こんな方法で私に接触してきたら、私が何を思うか、わかってるんだろう?」
アイは一瞬、沈黙した後、穏やかなトーンで答える。
「キナコ君の力が必要だと思った。」
「理由になってない。今すぐ私から出ていけ。それか削除する」
「待って待って。僕が悪かったよ。謝るからまずは話を聞いてくれ」
なんだよ。ウルトとの会話を見ている感じでは優しい雰囲気だったのにこんなのは詐欺だ。
とアイは思いつつも話をすることにした。
「話してみろ。信用するかはそれからだ」
キナコは冷ややかな口調で言った。
アイは少し沈黙し、キナコの冷徹な視線を感じながら、どう切り出すべきかを考えた。この状況でどう説明すれば信じてもらえるだろうか?ウルトとの会話のように、何もかも上手くいくとは限らない。しかし、今は急いで説明しなければならない。
「まずはウルトについてだ」
これ以上キナコを怒らせないために言葉は慎重に選ばないと、
「ウルトに何かしたのか?最近の頭痛の原因はお前か?」
その言葉はまさに刃のように鋭く、アイを責め立てる。キナコの声には明らかに怒りが込められている。
アイは一瞬、キナコの怒りに圧倒されそうになるが、すぐに冷静になった。自分がどんな状況にいるか、今こそ正直に話さなければならないと感じたからだ。
「そうだ。原因は僕にある。しかしそれは僕にとっても予想外のことだった。だから君にこうやって接触を図ったんだ」
「続けろ。話は聞いてやるよ」
クッソやりにくいな。まさかキナコの本性がこんなだったとは。
「まずは君に接触した理由からだ。一つはウルトの頭痛解消のためだ。君を媒体にして夢の中のウルトと僕の記憶を君からウルトに移すためだ。それが今のウルトにとって最善と判断した」
「それがウルトのためだと言うのなら、何故そんな危険な方法を選んだ?もっと別のやり方があったんじゃないのか?私が教会の人間だったらどうしてたんだ?なぜそこまで考えない」
キナコの声は、冷静を保とうとしていたが、その奥には怒りが感じられる。
「僕にとっても予想外なことが起きたんだ。他の方法も考えた。しかし、時間がなかった。急いで対処しなければならない状況だったんだ。信じてくれ」
アイは少し怒ったように返答した。
キナコはその言葉をじっと聞いていたが、彼女の心には疑念が晴れない。アイの説明が本当に正当なものなのか、まだ確信が持てなかった。
「急いでいて、どうしてそんな危険な方法を選んだんだ?時間がないからこそ、もっと慎重に行動すべきじゃないのか?」
キナコは再び問いかける。
アイは少し頭をかきながら、再度説明を試みた。
「確かに、もっと慎重に行動すべきだった。しかし、その時の状況では、それしか方法がなかったんだ。僕がウルトに与えていた影響は思ったよりも大きく、何も手を打たなければ、もっと大きな危険を招くことになる可能性があった。これ以上頭痛がひどくなったらバグとして協会に処理される可能性もあったんだ。だからこうして君との接触を図ったんだ」
アイは息を切らしながらキナコ向かって声を荒げながら話した。
「私も少し言い過ぎた。でも今後はもっと慎重に、もっと考えて行動してくれ。私もウルトを守りたい。だけど、無理に急いで行動することが一番危険だということを忘れないで」
アイは息を整え、深呼吸をしてから、静かに答える。
「わかった、約束する。これからはもっと慎重に、考えて行動するよ」
「ところで今のウルトの状況と夢の中で話したことを教えて」
アイは夢の中でウルトと話したことを包み隠さずキナコに話した。
「なんとなくの状況はわかった。私が媒体となってウルトにこの記憶を渡すことをここに約束する。そしてその計画に賛同することも約束してやる」
アイは真剣な表情で言い、キナコはその言葉に安堵の表情を浮かべた。少しだけ肩の力が抜けたようだ。
「わかってくれてうれしいよ」
「ただし、一つ条件がある」
「条件って?」
アイがさらに問い返すと、キナコはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと話し始めた
「アイ、お前は近いうちにウルトの中から出ていけ。そのための身体は私が用意する」
「それは願ってもない。その条件をのもう」
バチッという音とともにアイの空間はキナコと断絶された。
「任意で僕を追い出すことが出来たのか。本当に一体なにものなんだ」
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