3話 バグ
「やっぱり面白いよ。ウルト、僕たちは世界にとっての癌だね。この世界風に言うと、世界にとってのバグってやつだ。さぁ、僕たちがバグだって分かって、世界の本質にも触れたことで、今から僕の目的を話すよ。」
「目的?」
その問いに、アイは一瞬だけ軽く笑みを浮かべ、真剣な眼差しで僕を見つめ直した。
「あぁ、そうだ。これらのことが分かっただけで、何もしなかったら、それはもう死んでいるのと同じだ。だから僕の目的は――」
アイは言葉を少しだけ切った後、ゆっくりと深い息を吐き、言葉を続けた。
「この世界を壊すことだ!」
その言葉が空気を震わせ、僕の胸にまで届いた。彼の眼差しの中にあったのは、ただの破壊欲ではなく、確固たる信念と目的。
その瞬間、僕はその言葉が何を意味するのか、しっかりと理解したような気がした。
「その様子だと理解してくれたようだね。しかしここで問題が一つある。君の意識が覚醒してこの世界を出た後にここでの記憶を忘れてしまう事だ」
「解決方法はあるのか?」
シンプルな疑問をアイに投げかけてみる。言葉は軽く口をついて出たが、心の中ではその答えを切実に求めていた。
「あるにはあるんだが……」
さっきまでとは違い自信満々な様子ではなく、少し言葉を濁しているようだった。
「方法二つだ。一つ目は長い時間をかけて少しずつ記憶を覚醒させていく事。もう一つは合言葉を設定して一気に記憶を覚醒させる方法」
「まぁありきたりな二択だな」
ウルトは少し皮肉を込めて言った。
「そう。しかもどちらもデメリットがでかいんだ。ほんとうまくできてるよ。この世界は」
その口調に、どこか諦めにも似た響きがあった。
僕はその言葉を噛みしめながら、アイを見つめた。どちらの方法も一長一短があり、どれが最も適切かを判断することは、簡単にはできそうにない。
アイは少し呆れたように話を続ける。
「長い時間をかけて記憶を覚醒させるのなら、確実に安全だろうが、本当に時間がかかりすぎてしまう可能性だ。正直どのくらいの時間がかかるのかは僕にもわからない」
「なんとなくの目安も分からないのか?」
「あぁ。一年か、二年か、十年かもしれない」
ため息交じりでアイはその質問に答えた。
「そしてもう一つの方法のデメリットは君のコアがどのくらいの負荷に耐えられるかわからないのが問題だ。結論を言うと一気に記憶を覚醒させた場合は三日三晩寝込んでしまう可能性があるという事だ」
「それはまずいな……」
僕は思わず声を漏らす。三日三晩寝込んでしまうという事は水を運ぶ仕事が出来なくなるという事。それはつまり、教会にウルトの存在はバグとして処理されてしまうという事だ。
「そういう事。君が決めるんだ」
その言葉には重みがあった。
「教会にバグとして処理される…それだけは避けたい」
ウルトが小さな声でつぶやく。その言葉には深い恐怖がこもっていた。それはキナコや町のヒトたちから忘れられてしまう。
「だが、覚醒しなければここでの記憶を取り戻すこともできない…」
ウルトは自問自答するように続ける。その言葉に、どこか絶望が混じっている。
「ウルト、決めなきゃならないのは君だ。君が決断するんだ」
ウルトの目を見て、アイはもう一度強く言った。彼の決断を促すために。
「まぁ今決めなくてもまだ時間はある。今回決めなくてもこれから毎晩ここで会えるわけだしね。それにまだまだ君には教えないといけないことがたくさんあるんだ」
「そうなのか?」
ウルトは少し首をかしげ、アイを見つめる。その目には疑問が浮かんでいたが、少しだけ興味を示しているようにも見えた。
「うん、君が覚醒したとき、それに備えた準備が必要だからね。そして、君が覚醒することが、君にとっても周りにとっても意味のあることだ。真の自由を手に入れるためのね」
ウルトはしばらく黙って、アイの言葉を噛み締めるようにしていた。その瞳はどこか遠くを見つめ、考え込んでいる様子だった。
「自由か……」
彼は小さな声で呟き、少しだけ眉をひそめた。どうやらその言葉には、彼自身の中で解きほぐされていない何かがあるようだった。
「自由って、僕にとって本当に手に入れたいものなのか?」
「自由は、ただ単に束縛から解放されることではない。君が自分で選ぶ力を持つことだ。何をすべきか、どう生きるべきかを、君自身の意志で決められること。水を運ぶ仕事は楽しいかい?」
ウルトは少し考え込んだ。
「楽しいわけじゃないけど……」
ウルトは言いながら、目を伏せた。
「じゃあ、どうしてやっているんだ?」
アイは尋ねた。その答えがウルト自身の考えを整理する手助けになるかもしれないと思ったからだ。
ウルトは少しだけ唇を噛んだ。
誰かがやらなきゃいけないから…それがなんとなく僕の役割だと思っていた。というかその考えが出来なかった。でも、もし僕に選択肢があったら、もっと違うことをしているかもしれない。
ウルトは少しだけ微笑んだ。
「その反応だけで君が自由を求めていることがわかるよ。おっと。そろそろ夢の時間は終わりだ。」
その言葉を最後にウルトは夢から目覚めた。
初日という事もあり連投しています。
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