24話 管理された世界に、自由を求めて その2
――静寂の中に響いたのは、かすかな電子の歪みだった。
ジーオンが動くたび、周囲の空間が歪み、重力が軋む。浮かぶ球体からは細やかな光子がこぼれ落ち、まるで“星が死ぬとき”のような荘厳な光景が広がっていた。
「これが……“世界を造る者”の力か」
ライザが低く呟く。対峙するだけで、精神が焼かれていくような存在。呼吸ひとつ、思考ひとつが、すべて未来に読まれているような錯覚。
「今は僕から離れるな!チャンスは来る」
アイの絶対防御の展開を合図にライザ、キナコは即座にアイを中心として陣形を取った。
幾度となく繰り返してきた戦いの所作。
「来るぞ……!」
ここら一体の重力がきしむ。ジーオンの攻撃に連動するようにその球体は脈動し、その球体から光線があふれ出す。
その光線は空間そのものを侵食しながら網のように広がっていく。
「全方位展開型未来干渉砲」
その攻撃は未来における“回避行動”すら計算に入れ、想定される“ありうる”すべての逃げ道を塗りつぶす、絶対予測の殺意。
「と言っても今の君たちにはこの程度通用しないか。君の絶対防御がある限りどんな攻撃をしても無駄だよね」
「よくわかってるじゃないか。しかも今の僕は範囲など関係ないんだ。僕が攻撃と認識したものすべてが通らなくなる」
「最高級のバグだね君は」
ジーオンは嘲笑混じりに言いながらも、その声にはわずかな羨望すら混じっていた。
何もかもを予測し、制御し、計画の上で完結させることを至上とした彼にとって、
“認識”ひとつで世界の法則すらねじ曲げる存在は、最も忌むべきものでありながら、
同時に――“手が届かなかった可能性”の象徴でもあった。
「バグで結構。君がどんな理想を積み重ねようが、それが“管理された平和”である限り、僕たちは受け入れない」
アイの瞳には一切の迷いがなかった。
《絶対防御》の光が脈打つたび、空間のノイズが洗い流されるように揺らぎ、
ジーオンの放った攻撃がなかったかのように消える。
「でも一つだけ教えてよ、アイ。君が守ろうとしている“自由”には、制御不能の未来がついて回る。ウルトのような犠牲も、破滅の選択も、いくらでも起こり得るんだ。そんな世界を、本当に“救い”と呼べるのかい?」
その問いに、アイはしばし沈黙し――
そして、静かに、しかし力強く答えた。
「呼べるさ。なぜなら、“誰かの選択が尊重される世界”こそが、僕らの望んだ未来だからだ。
それがたとえ過ちだとしても、それを乗り越える意志がある限り、何度でもやり直せる。
それが、“ヒト”だ」
続けてアイが合図を出す。
「ライザ、キナコ!見ての通り攻撃は僕がすべて無効にする。ジーオンに攻撃をするんだ!」
アイの絶対防御は、今この瞬間、戦場のすべての“敵意”を飲み込み、打ち消す。
それはまるで時が止まったかのような静寂――だが、その中心で、二人の仲間が走り出す。
ライザはテレポートでその球体に近づき、キナコはビームで攻撃を始める。
「読めない……? 未来が……視えない……!」
「気づいたかい?僕の絶対防御は物理的な攻撃だけでなく、未来予測という行為そのものを攻撃として認識して拒絶している」
すなわち――この一瞬、ジーオンは“未来を視る力”を封じられていた。
「しかし、それいつまで持つんだい?オーバーヒートするんじゃないのか?」
ジーオンの声が空間を震わせる。
その挑発に対し、アイは冷徹に答えた。
「僕が生きている限りいつまでもだ。死ぬまで死なない!」
アイの絶対防御の間二人は攻撃を続けているが、、
「硬すぎる」
「攻撃が通らない」
二人の攻撃が全く聞いていない。
「攻撃を封じたくらいで勝てると思ったのか?」
ジーオンの冷笑が空間に響く。その言葉には、ただの挑発以上の、深い自信と狂気が込められていた。
アイの絶対防御がどれほど強力であろうと、ジーオンには他の手段があった。
「君たちは私の力を甘く見ている。未来を見通せないなら、直接的な攻撃を封じたところで、僕の力はまだまだ健在だ」
ジーオンは背後の暗黒空間に手をかざし、空間の歪みが広がり始める。
その歪みから、無数の光線や虚無の波動が現れ、周囲を襲い始めた。
アイの絶対防御では、物理的な攻撃や未来予測を無効化しているが、ジーオンの力はその枠を超えていた。
彼の能力は、物理法則すら歪める力。それに対して、アイの防御はどこまで通用するのか。
「まずい。ここから離れろ!!!!」
アイの声が戦場に響き渡る。その声には、今まで以上の緊迫感が込められていた。
ジーオンが放った攻撃は、もはや単なる光線や波動にとどまらず、時空そのものを歪め、強力な重力場が展開され始めた。
「ライザ!」
アイの叫び声が空間を貫く。その瞬間、ライザは迷うことなく動いた。
キナコをテレポートで掴み、引き寄せて、ジーオンが作り出した強力な重力場から離脱する。
重力の引力が強く、まるで空間そのものが引き裂かれようとしているかのような感覚が襲う。テレポートにより、二人は何とかジーオンの力が及ばない範囲に飛び出すことができた。
「うっ……間一髪だ!」
キナコが息を切らしながら言うと、ライザは冷静に頷く。
「アイ!無事か?」
「無事だ。範囲を周囲30センチまで縮めるころで何とか無事で済んだ」
アイの冷静な声が通信越しに返ってくる。
その声には、普段通りの落ち着きがあり、ライザは一瞬、安堵の息をついた。だが、すぐにその表情が引き締まる。
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