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20話 最終決戦前

時は進み3年後の話になります。


現在ウルトたちがいる作戦指令室は、無機質な蛍光灯の光に照らされている。壁一面に張り巡らされたスクリーンには、セカイ各地の戦況が映し出されていた。


「状況は?」


ライザが尋ねると、若いオペレーターが即座に答える。


「北部のラインが突破されました! アイさんの第二部隊がほぼ壊滅。押し切られるのも時間の問題です」

「ジーオンも本気でここを潰そうと動いてるんだ」


アイが、この場にいる全員に聞こえるように言った。


「通信が入りました。映します」

「撤退命令は不要です。我々はここで踏みとどまります。逃げることはできない。……これ以上、背を向けるわけにはいきません」


画面越しでも分かる。アイの第二部隊はすでに半壊状態。だが、それでも彼らは下がらなかった。敵の主力を引きつけ戦火の中を必死に戦っている、一人でも多くの敵を倒すために。


「私が行こう。これ以上仲間を失うのはごめんだ」


ライザが静かに言った瞬間、室内の空気が変わった。

誰もがその言葉の重さを理解していた。


ライザはこの半年の間、ずっと指揮官として最前線には立たなかった。

その決断が、どれだけの覚悟に裏打ちされたものかを、皆が知っている。


「待てライザ。俺が行く。指令室の要がいなくなったら、前線がもっと崩れてくる可能性がある」


ウルトの声には、焦りではなく確かな決意が込められていた。

それは、かつての少年の声ではない。

この戦いを通して多くを背負い、多くを失い、それでも前に進む者の声だった。

ライザは彼をまっすぐに見つめ、ほんの一瞬だけ表情を緩めた。


「……成長したな、ウルト」

「今さら子供扱いか?」

「いや、もうできないな」


わずかに微笑んだあと、ライザはすぐに顔を引き締め、短く命令を下した。


「任せた」


その一言にウルトは深くうなずいた。


「セブン部隊、すぐに出られるよう準備を整えておけ! 全員、五分以内に集合!」


ウルトの号令に、若い兵たちが即座に動き出す。

作戦指令室の一角が騒然としながらも、準備が始まっていく。


ウルトはその部屋にいるアイとキナコ目を向ける。


「無事に戻ってきてね。ウルト」

「さすがに僕は防衛の要として、ここを離れられないからね。頼んだよ」


ウルトは少しだけ頷き、キナコの言葉を受け止めた。彼女の瞳には、ただの戦友以上の感情が込められていることを、ウルトは痛いほど理解していた。だが、今はその気持ちに応える時間も余裕もない。


「戻ってくるさ。約束する。」


ウルトは黙ってアイを見つめた。その目は、もう昔のような若さを感じさせることはない。数々の戦いを乗り越えてきた、その証だった。


それから、ウルトは部屋を出て、準備を進めていたセブン小隊のもとに向かう。その足音が静かな作戦指令室に響く。彼が去った後、ライザは部屋に残ったメンバーを見回し、口を開いた。


「キナコも準備はできているか?おそらく近いうちにキナコもここを出ないといけない状況になる」


「もちろん。私ももう何もできない昔のままじゃない。いつでも出れる」


キナコも今や戦闘のサポートしてではなく戦況に応じて最前線を張る実力がある。

アイに負けたあの日々からどれだけ変わったのか、その変化をライザはよく知っていた。彼女が成し遂げてきたもの、そしてどれだけ苦しい戦いを乗り越えてきたのか。そのすべてが、今のキナコを作り上げていた。


ライザはモニターに映し出された戦況をじっと見つめ、状況を把握していた。戦況は日々、予想以上に厳しくなりつつある。アイスリー部隊は先の戦いで壊滅、アイファイブ部隊のほぼ壊滅、そしてウルトがその壊滅した部隊の救援に向かっている。これ以上の損失を出さないためには、迅速かつ正確な指揮が求められる。


「……ウルトが向かっているアイファイブ部隊の回収。できればそこから前線を引き上げたいな」


ライザは再び小さく呟き、頭の中で状況を整理した。

アイナイン部隊とナイン部隊は後方支援を担い、ここで守りを固めている。しかし、司令部を守るオペレーターのアイセブン部隊は、どんな動きがあってもすぐに対応できるように最前線の動きを常に把握していなければならない。

目の前のモニターに映る戦況は、ますます厳しくなっていた。


「ファイブ部隊、ウルトと合流前線を引き上げる指示、負傷したアイファイブ部隊を回収しろ」


ライザは冷徹に命じた。その言葉は、無駄のない、迅速な行動を求めるものだった。


その後、ライザは再度モニターを凝視した。最前線の状況は刻一刻と変化していく。ウルトとファイブ部隊が合流するまで、敵の動きに細心の注意を払い、後ろで支援し続ける必要がある。


「キナコ、準備はできているか?」


ライザは冷静にキナコに声をかけた。

キナコはすでに戦闘準備を整えていた。彼女の目は戦場に向かう覚悟で満ちている。


「ウルトと合流しセブン部隊と共に前線を引きあげろ」


「わかった」

「キナコ。昔から何度も何度も言っているが攻撃中であっても防御することは忘れるな。常に周りを警戒しろ」


アイの言葉には、長年の戦闘経験から来る深い教訓が込められていた。キナコはその言葉を胸に刻み込む。戦場では攻撃と防御のバランスが重要であり、特に今のような局面では、ほんの一瞬の油断が命取りになる可能性がある。アイの言葉は、何度も耳にしたものだが、どれだけ危機的な状況でも忘れてはならない重要な教訓だった。


「わかっている、アイ」

「気をつけろよ、キナコ」


ライザとアイはキナコが部屋から出るのを静かに見送った。


「……キナコ、変わったな」


ライザがぽつりと呟いた。


アイはその言葉に少しだけ微笑み、しかしその表情には深い思索の色が浮かんでいた。


「あの頃は、まだ未熟だった。しかし、今の彼女は立派な戦士だ。経験を積んで、恐れず前に進んでいる。僕たちの教えが、少しでも役に立ったなら、それだけで満足だ」


読んでいただきありがとうございます。

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