15話 作戦会議
「まずは作戦だ。正直キナコの出来ることがまだわからない」
「なあ、アイ。ちょっとだけ作戦タイム、もらっていいか?」
「戦闘で考える時間があるとでも思っているのか?と言いたいところだがキナコはさっきの僕との戦いでコアが熱くなっているだろうから10分だけ待ってあげるよ」
「このままでは、オーバーヒートになる。まずは水を浴びてコアを冷やそう。そこで作戦会議だ」
キナコは無言でうなずき、近くの川に向かって小走りで駆けていった。それにウルトもついて行き説明を始める。
「まずは俺の能力について。ラプラスという能力を、ライザ博士からもらった。簡単に言うと――高速移動と未来予知だ」
「未来予知?」キナコが水をかぶりながら顔だけこちらに向けた。
「そう。能力発動中の体感時間はかなり長い。けど、現実ではせいぜい“3秒先”までしか読めない」
「3秒……短いようで、長い……」
「そう、戦闘では十分な時間だ。特に相手が強ければ強いほど、一瞬の差が命取りになるからな。次はキナコの能力について教えてくれ」
「私の能力はビームを縦横無尽に放ったり、それをシールドにしたり、あんまり役に立たないけど剣にしたりできる能力」
「いやいや、十分すごいだろ、それ」
ウルトは少し興奮気味で答えた。
「ビームってだけでも火力あるのに、防御もできて近接もいけるって、なんなんだよ万能型かよ」
「でも……全部が中途半端なの。コアの熱もすぐ上がっちゃうし、シールドって言っても防御力がそこまであるわけじゃないの」
キナコの声が少しだけかすれる。水に濡れた髪の隙間から覗く目に、わずかな不安が揺れていた。
「使える力は、全部使おう。コアが熱くなるなら、冷やしながら戦えばいい。ビームが不安定なら、タイミングと位置取りで補えばいい。俺が隙を作る。キナコは、その一撃に全力を込めてくれ」
「うん……!」
キナコがうなずいた直後、ふと何かを思い出したように顔を上げた。
「そうだ、ウルト……言い忘れてた。アイには“絶対防御”って呼ばれてる能力があるの」
「絶対防御……?」
「うん。私が最初に戦ったときも、全然攻撃が通らなかった。どんな攻撃でも、あの人の“周囲3メートル”以内に入った瞬間に、全部無効化されるの。しかも前からの攻撃しか来なかったら前方6メートルにもできる」
「それ……マジで?」
ウルトの表情が引き締まる。
「ね?厄介でしょ……。私も全然近づけなかった」
キナコが少し唇を噛んで言った。
「でも……完璧じゃないかもしれない。その絶対防御を使っているときはその場から動くことも、攻撃することもしてこなかった。何かしらの制約があるのかもしれない」
キナコが唇をかすかに噛みながら、慎重に言葉を選んでいく。まるで頭の中で、その時のアイの姿を思い浮かべているかのように。
ウルトは黙って聞いていたが、その目は鋭く細められていた。
「……動かない、防御だけに集中する、攻撃もしてこない」
ぽつりと繰り返したあと、彼はふと言った。
「だとすれば、“防御中は自分自身を封じてる”ってことになる。つまり、アイの絶対防御は、攻防一体じゃなくて“防御専用”のスタンスだ」
「うん。だから、たぶんだけど……あの能力を解除しないと、攻撃にも転じられない。そこが隙になる」
「なるほど。だったら、選択を迫ればいい」
「選択?」
「そう。防御を維持するか、攻撃に転じるか。アイに“どっちかしか選べない”状況を作ってやるんだ。防御を選択するなら物理攻撃だ」
ウルトは地面に指で戦術の図を描きながら、静かに言う。
「俺が囮になる。正面から突っ込んで、アイに防御を使わせる。完全に防御に入った瞬間、キナコ、お前は横から回り込んで、ギリギリ3メートル圏外から一点集中のビームを撃て。俺は隙を作ってアイが攻撃せざる負えない、状況にする。その瞬間絶対防御が一瞬外れるはずだ」
「でも……正面からって、それじゃウルトが……」
「ラプラスの力を使えば、アイの反応より少しだけ先を読める。3秒の未来があれば、十分攻撃をかわせる」
その目に、迷いはなかった。
キナコはしばらく黙っていたが――やがて、ゆっくりとうなずいた。
「わかった。私、絶対に当てる」
「よし。じゃあ、行こうぜ」
しばらく静けさが支配していた。
風が止まり、まるで時間が凍りついたかのような空気が二人を包み込む。
そして、少しずつ――
コツ、コツ、コツ。
その足音が響いた瞬間、二人は一斉に振り向いた。
最初に見えたのは、陽の光を反射してきらめく髪の先端、次にその背中。
そして、少しずつ姿を現したアイは、いつも通りの軽やかな歩調で歩いてきていた。
「来たか」
ウルトが低く呟く。
アイは、いつもの飄々とした笑顔を浮かべているが、その目はどこか冷たく、鋭い刃のようだった。
その視線が、ウルトとキナコを一度ずつ見て――
「さぁ、そろそろ始めようか?」
アイが声をかける。
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