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14話 厳しさの理由

「今度はさっきみたいにぬるい攻撃をするつもりはない。本気で守らないと死ぬよ?」


そう言ってアイ世界ワールドの展開をやめキナコに攻撃が当たるとダメージが入るようにした。


アイの冷徹な声がキナコに響く。キナコの心にさらに深い圧力をかけた。


キナコは必死に心を落ち着けようとする。だが、身体は言うことを聞かない。少しオーバーヒートぎみになっているかもしれない。手のひらにじんわりと汗がにじみ出てきて、心臓が激しく鼓動を打つのを感じる。恐怖。無力感。それが、今の彼女を包み込んでいた。


「大丈夫さ。僕は防御面では鉄壁と言ってもいいけど攻撃はそんなになんだ」


アイの言葉は、まるで余裕を見せるかのように軽く、しかしその奥に潜む冷徹さがキナコの背筋を凍らせた。


キナコの目の前で、アイはゆっくりと銃を両手に構える。その動作はあまりにも冷静で、まるで戦いそのものを楽しんでいるかのようだった。アイの手が銃をしっかりと握りしめ、次の瞬間、キナコに向けて発砲した。


「――っく!」


銃声が耳をつんざき、キナコは反射的に身を引こうとした。しかし、体が言うことを聞かず、銃弾はすぐそこに迫っていた。時間が遅く感じられ、動こうとしても、まるで足元が重くなるような感覚に捉えられる。

弾丸がキナコの肩をかすめて通り抜け、周囲の空気を切り裂く。痛みが一瞬、身体を駆け抜けると同時に、キナコはその痛みを強烈に感じた。だが、すぐにその痛みを押し込めるように気を引き締める。


「ちっ…!」


キナコは歯を食いしばり、肩を押さえた。その瞬間、冷徹なアイの目線が、キナコの全身を貫いていく。彼女がどんな反応を見せようと、アイには何の意味もないようだった。


「まだ動ける?」アイの声が冷たく響く。


「動けないって言ったら?」


アイはにやりと笑い、


「やめない!」

「さっきの質問の意味あった?」


キナコは苛立ちながらもアイの無意味な質問に返答する。


「おいおいすごい音がしたから来てみたけど、あんまりキナコをいじめすぎるなよ」


ライザ博士が二人の間に割って入った。


アイはその登場に少しだけ動きを止め、ライザ博士を見つめた。


「ライザ。なんでここに。キナコの修行は僕に一任するんじゃなかったのか?」

「キナコ大丈夫か?」

「うん。こんなのかすり傷だよ」


ウルトはキナコを心配して声をかけた。


キナコは痛みに耐えながらも、何とか笑顔を作り、ウルトに答える。けれど、その笑顔はまだ痛々しく、明らかに無理をしていた。しかし、ウルトはそれに軽くうなずいてから、アイの方に視線を向けた。


「なんだよ。みんなして僕を悪者にしようとしてさ。僕の攻撃くらい軽く避けてもらわないとこの先の戦いで真っ先に死ぬことになるんだぞ」


アイの言葉には、少しの苛立ちと共に、どこか冷徹な現実的な考えが込められていた


「それはそうだが、キナコの真骨頂は攻撃力にある。かたやアイの真骨頂は防御の強さにある。もし戦いで君たち二人が組んだら最強だとは思わないか?」

「確かに、最強だろうね。でも戦いの場ではなにが起こるかわからない。僕たちの思いも知らない能力で切り離されるかもしれない。そんな時僕程度の攻撃も軽くいなせない程度の防御力でどうするんだ」


その言葉に、キナコは反射的に顔をしかめた。悔しさと、痛みと、アイの正論が心の奥を刺す。


「君の攻撃力がいくら高くても、それを使い切るまで生きていられるかどうかは、別の話だ。まずは“生き残ること”を考えたほうがいい。戦場では、最強の一撃より、一瞬の耐久力が勝敗を分けることもある」


キナコはその言葉を、まるで氷のように冷たい水を浴びせられたかのように受け止める。しかし、同時にその中に込められた真剣な“忠告”を感じ取っていた。


「おいおい、アイさすがに言いすぎだ」

「僕たちでさえ——10年前の“あの戦い”で、ボロボロになったじゃないか。仲間は失われ、希望は潰え、それでもなお僕たちは最後の賭けに出た。“次の時代”に、託すしかなかった。あの時のこと、忘れたわけじゃないだろ?」


ライザ博士の表情が僅かに曇る。思い出したくもない過去が、その言葉で引きずり出された。


「だからと言って。今ここでキナコが潰れてしまったら元も子もない」

「その甘さのせいで次は、間に合わなくなるとしたら?次は託すことすらできず、全員が何も残さずに終わるかもしれない。そうなってからじゃ、遅いんだ」


アイは感情をむき出しにしてライザに言葉を放った。しかしその言葉の一つ一つ鋭く心を刺す。かつて戦場で命をすり減らしながら戦った、重みのある言葉だった。


キナコとウルトは黙って二人のやり取りを聞いていた。「10年前の戦い」が何を意味するのかは分からない。ただ、その出来事がアイやライザの心に深く残っていることは確かだった。


ウルトは、拳をぎゅっと握りしめた。知らないはずの痛みが、なぜか胸の奥で共鳴している。言葉にできない重みが、アイの声の中にあった。


「そんな戦いを経験してきた人たちが、それでも託そうとしてくれてる。それを……受け取る覚悟があるのか?」


不意に、ウルトが小さくつぶやいた。


「それじゃ、ここからは2:1だ。二人係で僕にかかってこい」


その言葉に、キナコは驚いてウルトを見た。だが、彼の表情にはいつものふざけた調子はない。真剣な眼差し。冗談ではないことが一目でわかった。


「おいおいアイ、ウルトは今日能力を使えるようになったんだ。あんまり無茶はさせてはいけない」


ライザが焦ったように口を挟むが、


「甘い事言ってる場合じゃないだろ。それより早く僕の身体を用意しろ」

「はいはい」


少し呆れた表情を浮かべながら、ライザ博士は家の方に歩いて行った。



読んでいただきありがとうございます。

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