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13話 『絶対防御』

「はぁ……」


大きくため息をついて、アイはキナコとの修行に向けて腰を上げた。


「ねえ、私だってあんたと修行するのは正直イヤ。でもさ、そんなに露骨にイヤな顔しないでくれる?」


アイは無言のまま、キナコを一瞥しただけで地面に腰を下ろす。

その態度にキナコはますます眉をひそめた。


「……はぁ?なに座ってんの?やる気ない態度をとって!」

「キナコ君は僕に教えてもらう立場という事をわかっているのか?」


不意に口を開いたアイの声音は、驚くほど冷静だった。

その目は感情をほとんど浮かべておらず、ただ淡々と真実だけを突きつける。

キナコは一瞬言葉を失い、思わず視線をそらした。

けれど、すぐに口を尖らせて言い返す。


「……そういう言い方する? 教えるっていうか、命令口調じゃん。誰がそんなの、素直に聞くかっての」


アイは小さくため息をつくと、その何もない空間から銃が現れた。黒く、重厚な光沢を放つそれは、現実感を伴ってアイの手に収まる。


「じゃあ防御しろ」


冷徹な声でアイが言う。


「いやいやいや!いきなり銃出して『防御しろ』って無理あるから!」


キナコが顔をしかめて叫ぶが、アイは相変わらず表情ひとつ動かさない。

銃を手の中でくるりと回すと、指先で引き金の位置を確認し、そして——ゆっくりとキナコに向けた。


「キナコ君。君の『反応』を見せてくれ。あの時僕との通信を無理やり切った君ならできる」


その言葉を言い終えると、銃口からまばゆい閃光が走った。

音はない。ただ、空気が焼けるような熱と、風のうねりだけがそこにあった。


「う、うそ……っ!」


キナコは咄嗟に手を前に突き出す。彼女の掌からは、青白いシールドのような光が展開される。


ビリビリと軋む音。空中で衝突する力と力。

アイは一歩も動かず、その様子をじっと見つめていた。


「……なるほど。ギリギリ、防御はできるみたいだね。」

「ちょ、ちょっとぉ……! いきなり撃つ!? 正気!? 殺す気か!?」

「安心しろよ。ここは僕の空間内だから怪我の心配はない」

「じゃあ次だ」


アイは銃を構え直すと、無造作に引き金を引いた。

一発、二発、三発――閃光が連続して走る。


「うわっ、ちょ、待っ、待ってってばぁ!!ってか銃弾、いい加減弾切れでしょ!」

「そんなもの僕の空間内だから自動で補充されるに決まっているじゃないか」


キナコは叫びながら、シールドを必死に展開する。

けれど、連続する攻撃にシールドの輝きは徐々に薄れていく。


「っ、くぅ……っ!」


――このままじゃ、防ぎきれない。


キナコのシールドが砕け散った。


「――っ、きゃあっ!!」


破片のように散った光が宙を舞い、キナコはその場に膝をつく。

息が荒く、肩が上下する。目の奥には、恐怖と、悔しさが入り混じっていた。


「これが僕と君との実力の差だ。僕に教えて戦いかとを教えてもらう気になったか?」

アイの声は静かだったが、否応なしに重く響いた。

現実を突きつけられたキナコは、唇を噛み、下を向いたまま動かない。

数秒の沈黙。


「……うざい。不意打ちで勝ち誇って調子にのるな」

「ん?」


アイがキナコの雰囲気を感じたのを感じ取った。この感覚あの時僕と接触した時みたいだ。面白くなってきた。


アイはその瞬間、ほんの少し楽しげな笑みを浮かべた。

しかし、キナコが何かを決意したように無言で動き出す。

次の瞬間、彼女の体から強烈なエネルギーが放たれ、周囲の空気が震えた。

キナコは無言のまま、シールドを何十枚にも展開し、それをアイに向けて一気に放った。

そのシールドは、剣のようなものや様々な武具に変形しアイに向かっていった。


アイはその攻撃を見極めるように、わずかな間を置いて静かに息を吸う。

そして、すかさず一歩後ろに下がりながら、手にした銃を素早く構えその変形した武具を次々と打つ。銃弾がシールドにぶつかると、激しい衝撃音とともにそのエネルギー波が弾け飛び、次々と打ち消されていく。


「ッチ」


キナコは舌打ちをしながら、再び手のひらを広げてシールドを展開しようとするが、その目には明らかな苛立ちが浮かんでいた。


「まさかあの間抜けなお前がここまでできるとは思っていなかった」


キナコの言葉が、アイに向けて鋭く飛んだ。

その目には、憤りと共に焦りが色濃く浮かんでいた。

しかし、彼女の体からは圧倒的な力がじわじわと湧き上がってきているのを感じていた。

自分の力、そしてアイへの憎しみが、彼女を動かしていた。


「セリフが完全に悪役だよキナコ」


アイの冷静な言葉が、キナコの心にさらに火をつけた。

その一言が、彼女をまるで爆弾のように引き金を引かせたのだ。


「――っ、黙れ!!」


キナコは怒鳴りながら、一気に力を解放した。


その手のひらから放たれたエネルギーは、まるで雷鳴のように周囲を揺らし、空気を引き裂き、空間が歪んで震える。


無数のビームが、目にも留まらぬ速さでアイに向かって放たれた。


「半径3メートルでこれは防げる?」

「僕は天才だからね」


その言葉には余裕が感じられたが、同時にほんのわずかに焦りが滲んでいた。


「半径3メートルと言ったが直線6メートルにすることもできるんだよ。まぁその分手薄になる箇所ができるけどね」


アイはそれを瞬時に切り替えキナコのビームを銃弾で打ち消している。銃弾が空気を切り裂き、ビームと激突するたびに爆発的な音が響く。


だが、アイの目は淡々としていた。まるでこの状況すら、「計算済み」であるかのように。


「まぁこのまま君の攻撃を打ち消しててもいいんだけどね。僕の力をもう一つ見せてあげるよ」


にやり、と口元を歪めながら、アイは使い慣れた銃を軽々と放り投げた。


「絶対防御!」


その言葉と同時に、アイの周囲、半径3メートルを中心に淡い光のバリアのようなものが展開された。

一見すると何もないかのようなその空間に、次の瞬間キナコのビームが飛び込む――が。

消えた。


まるで初めから存在しなかったかのように軌道に乗っていた無数のビームが、音も光も残さず霧のようにかき消えた。


「……は?」


キナコの目が見開かれる。自分のエネルギー波が、まったくの無力となった瞬間だった。


「ここから半径3メートル以内では、僕にはどんな攻撃も通じない。まさに“絶対”防御、ってね」


そう言って、アイは一歩前に進む。

まるで自分が中心となった世界が、完全に守られているとでも言うように、余裕を取り戻した笑みを浮かべながら。


「さて――次は、僕の番だ。防いでみて?」


読んでいただきありがとうございます。

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