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12話 『ラプラス』

 そう言って立ち上がると、ウルトの前に黒いケースを置いた。無骨な外装に、見たことのない型番が刻まれている。その中にはチップのようなものが入っていた。

「これは?」

「この訓練で使う、というか君の武器になるかもしれない。まずはそれをダウンロードするんだ。記憶のデータを変えた時と同じ感覚でそのチップをそこの記憶に入れればいい。なに、難しいことではない」

「これ、本当に安全なのか?」

「保証はしない。だが、君はもう、“安全”の外に立っているだろう?世界を壊そうとしているんだ。そのくらいのリスクは取ってもらわないと」


その言葉にウルトは黙ってうなずき、チップの中のデータを自分の記憶の中に入れた。


「……これは、、?」


ウルトの中には特に変わった様子はなかった。


「これはラプラス。非常に強力な能力だ。アイのアイ世界にもひきをとらない。しかしデメリットもあってね」


ライザ博士は少し肩をすくめて、話を続ける。


「便利な能力には当然落とし穴もある。ラプラスは、周囲の温度、音の振動、空気の流れ――すべてが“感じ取れるようになり、わずかな変化で未来の動きを計算する」

「つまり、未来予知みたいなものか?」

「そう、ただしこれは、常に変化し続ける膨大な情報をリアルタイムで処理し続けなければならない。当然、これには強い負荷がかかる。そこで注意しなければならないのは、過剰に能力を使うことでオーバーヒートすることがあるからだ」

「オーバーヒート?」


ライザ博士は軽く頷き、しばらく考え込むような素振りを見せた。


「そうだ。過度な負荷がかかると、コアが温まりすぎて正常に機能しなくなる。もしそれが起きると、しばらくは身体を使えなくなるから、休息が必要になる。そしれもう一つの最大のデメリット」


 ウルトはごくりと唾を飲んだ。博士は静かに続ける。


「これはあくまで予想、可能性の話だが、能力を使いすぎると現実と予測している未来のとの区別がつかなくなる。起きたことを起きていない。起きていないことを起きていること、と認識してしまったり、つまり、現実とのずれが生まれることになる」

「じゃあ……もし、そのズレが大きくなったら?」

「自己崩壊。意識の迷子になる。最悪、人格データそのものが壊れる」


 ウルトは自分の手を見つめた。わずかに震えていた。

 恐怖ではない――けれど、確かに何かが震えている。自己崩壊が怖い?人格が壊れるのがい怖い?冗談。使いこなせばいいだけの話だ!


「ラプラス、そう唱えるか、熟練されれば意識するだけでもその能力は使える」


ウルトは何の迷いもなくその言葉を唱えた。


その瞬間、頭の奥にノイズのようなものが走った。視界が白く染まり、次の瞬間には見慣れた室内が異様な解像度で迫ってくる。

 周囲の温度、音の振動、空気の流れ――すべてが“感じ取れる。


風が舞い、少し地面に落ちている葉が舞う。すべての動きがスローモーションのように感じる。


 ライザ博士の心拍が、距離と音圧とリズムから逆算され、鼓動として“聞こえる”。

 世界が、静かすぎるほどに“情報”で満たされていた。


「――これが……ラプラス……!」


ウルトは驚くほど冷静になっていた。


「さぁ私が次にする行動を当ててみるんだ」


そういいライザ博士は拳を握り込みウルトに向かって思いきり振りかざそうとする。


その瞬間ウルト迷いなく動いた。


 博士の肩の僅かな緊張、重心移動、拳に走る微弱な筋肉の変化――すべてが“始まる前に”わかっていた。

 彼はライザ博士の右腕を寸分違わず掴んで止めた。力ではない。先に知っていたからこそ間に合ったのだ。


「……止めた?すごい、初回でここまでの精度が出るとは……君のコアはとよほど適合性が高いらしい」


博士がわずかに目を見開き、すぐに笑みを浮かべた。


「……時間が遅くなったように感じる。でも、同時に……世界がうるさい」

「気を付けて能力を使うことだ」

「それが“ラプラス”。便利だけど危険。すでに副作用の一端が出てる」


 ライザ博士は腕を軽く振って、服のしわを直すと、淡々と続けた。


「今の反応速度と判断力なら、訓練ステージに入れる。次は実戦形式。仮想空間での模擬戦闘だ。そこでどの程度能力が使えて、どのくらいでオーバーヒートするのかなどの検証をしてく」


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
現代の技術でも似たような予知的なことできるのかな。 要は集合知的予測ってことですよね。 扱いが難しそうなそれを使いこなし 「世界がうるさい」 は中2心をくすぐられるものがあります。カッコイイ!
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