入れ替わりの親友が死んだあとに
これは僕の物語である。
僕には、親友がいた。親友の名前は、Kという。故人の名前を晒す勇気はないので、イニシャルの一文字で我慢していただきたい。『こころ』に影響なんて受けてない、とエクスキューズしておく。
親友は高校で病気になった。病名は僕は知らないが、余命3年はなかった。早ければ1年で死ぬと言われた。実際、Kはあっけなく1年で亡くなった。
高校生の僕にとって、親友の不治の病は、それこそドラマのワンシーンのような大事のイベントだ。
でも、それを覆うような、不思議なことが起こった。
その日も、親友の病室に入って、テレビゲームで人生の最後の時間を過ごしていた。何気ない日常というやつだ。
Kは、おもむろに2つのリングを見せてくれた。
Kはこれは入れ替わりの指輪だと言った。指輪をした人間同士を24時間だけ入れ替えてくれるそうだ
僕は呆れながらも、その冗談に付き合ったのだが、結果は、手品もビックリ。本当に入れ替わっていた。
その効果で僕達は何度か入れ替わることにした。
病室にずっといるのは暇だろうから。せめて楽しい高校の思い出をーーと僕は安請け合いした。
問題は、親友がなくなってから気づいた。
ホラー展開だと、死ぬ瞬間入れ替わって、魔女の家だけど。分からない人には、伝わらないか。
閑話休題。
さて。
あいつ、どんだけ女に手を出してんだーっ!
いや、見舞い相手が女子生徒ばかりだったイケメンなのはわかっていたが、まさか俺の体ですることも女遊びだとは思ってなかった。
お前のやり残しに、女遊びがまだあったのかよ。もう十分遊びまくっていただろう。
しかも一番の問題は俺の体で、俺の妹に愛の告白をしているし。
家庭内への置き土産が最悪すぎた。なんか妹に避けられていると思ったらーー。
俺の体は、清いままなのだろうか。それとも、心だけの清らかさなのだろうか。残念ながら、男の俺には確認のしようがない。童貞に膜はない。いらんけど。
そして、俺は俺の親友の彼女だった3人を親友から受け取ったのだ。他の有象無象の女子へのアタックはヤツの女遊び大好きの、ただのナンパみたいなものだったけど。
さてはて、で、俺に、どうしろと。
俺は他に好きな女子がいるのだが。親友のお見舞いにも何回か来ていた子が。入れ替わっているとき、楽しく談笑していたよ。ああ、世の中の顔面格差を知りました。
俺の前では、あんなに楽しそうにはしてなかったぞ。親友よ、生涯恨みます。墓場の下で待っていろ。『舞姫』の影響なんて石炭と一緒に捨てました。
「俺は、どうしたらいいんだ」
今日も彼女たちが弁当を作ってきて、仲良く四人で食事。ハーレムメンバーたちがいがみ合いながらも仲良くいる。
彼女たちは、俺の、いや親友のどこに惚れて、こんなゾッコン状態になっているのだろう。多大な恩でも売ったのか。
「みんな、聞いてくれ。今までの俺はどうかしていたんだ。俺、二重人格で、記憶にございませんで、許してくれないかな」
「知ってる。でも、記憶を失っても幸せにするって言ってくれた」
「わたしも」
「わたしも」
おーい、何、決めゼリフかましてるんだ。
俺、イケメンじゃないと許されないことしているよ。
もう百合していてよ。それで、許してよ。女子同士が楽しそうにしているだけでいいんだ。
「仕方ない。俺の名誉のためだ。入れ替わりの指輪が、この世にはあってだな」
ええ、もちろん、焼却炉になんて持って行かせません。これは、俺が便利に使う。
手始めに妹に信じてもらえるように使いました。
結論、効果なし。
俺は、完全に精神病扱い。家庭に居場所がありません。もう、ほんと家出したいレベル。学校に引きこもります。
さておき、だけど、きっと、そう同性同士にしか使えないんだ。きっとそうだ。
「ということで、それぞれ指輪をつけて、ザクシャイーいや、まぁ、なんでもいいから体の交換を願ってきてください」
「「変わらないね」」
指輪をつけあった美少女は、呟いた。
俺の人生、何も上手くいかない。
分かった。もう3股してやる。僕の愛する彼女より、美少女3人の方が価値がある。
愛は質より量。
きっと親友のKもそう思っている。
「で、その話をわたしに信じてほしいの」
ごめん。片思いをやめられない俺がいました。こじらせた男です。ハーレムより純愛。これ主人公の王道。ただし昔のーー。今は正妻戦争をしないハーレムクズなろう系主人公も息してる。
「わたし、Kのことが好きだったんだよ」
あのモテモテクズめ。死ぬ前に、天才ヴァイオリニストのように精算しておけ。キミを幸せにはできないと言っておけよ。
「僕も、好きだ。だから、両思いだ」
「それは、両想いとは言わないよ」
ごめんなさい。知ってました。
ベクトルの方向が位置しているじゃん、だめ。ダメか。
「でも、まぁ、Kも死んじゃったわけだし、君のハーレムに参加してあげてもいいよ」
「それは付き合ってくれるってーー」
「ううん、なんか楽しそうだから。男1人が、女子に囲まれてるのって、漫画っぽくていいよね」
僕の好きな人が、僕の女性関係に一ミリも嫉妬しない件について。ミャクミャク脈がない。
「それで結局、指輪は信じてくれるの」
入れ替わりという超常現象を、誰も信じてくれない。妹だけでも信じてほしかった。主に、家庭内の平和のために。K、お前、妹に何もしてないだろうな。妹の持ち物に触れてもギルティだからな。とりあえず、妹に新品のリコーダーを買ってあげよう。スク水も体操服も買い替えよう。
「そうだね。その指輪、ひとつ貸してくれる」
「いいけど」
僕が指輪を彼女に渡すと、それを左手の薬指につけた。
僕は、迷わず、自分の分の指輪を、薬指に着けた。
「何も起きないね。じゃあ、このまま、つけたまま生活してみようか。もしかして入れ替わるかもだし」
僕は、彼女のイタズラ好きなところも大好きだった。
僕は、結婚気分でハーレムする。正妻は君。
明日までの命じゃないよね。
屋上。アニメのような屋上。以下略。
「えー、ずるいー、わたしも指輪ほしい」
「わたしも」
「わたしも」
ハーレムメンバーが指輪をおねだりしてくる。なぁ、Kよ、どうしたら、ハーレムって形成できるんだ。俺に、教えてくれよ。
頼むから、なんで、これで崩壊しないんだ。おかしいだろう。
女というのは独占欲のない天使なのか。
俺は、理解できない名状できない不安の中にいる。
愛は質量がある気がしてきた。重い。
「わたしが一番彼に好かれているみたい」
「まぁ、それはどうでもいいけど」
「わたしも」
「わたしも」
美少女三人、僕の愛に興味ないんかーい。
なんだ、ハーレムってなんだ。
一位を争えよ。二番でいいんですか。
三番、四番打者でいいんですか。
あ、うん、全然良さそう。9人そろえてやろうか。
ああ、全世界がハーレムなら平和だ。
俺が達観していると、少女たちがお昼ご飯を広げていた。
弁当は、それぞれ同じもの。
おい、お前たち、何、楽しているんだ。
「一人分も4人分も変わらないよね」
「だねー」
「だねー」
不思議だね。弁当の中身が完全に一緒だなんて。というか、君等仲良すぎるだろう。俺の恋人とか体の良い隠れ蓑で、本当は、そっちの三人でデキているんだろう。百合の間に男をはさんでカモフラージュ。
百合界のサンドイッチなんて嫌だ。挟まったら死ぬ。
「ま、まぁ、女子も一人だろうと4人だろうと変わらないっていうか、モテて困るわー」
さあ、振るんだ。
積乱雲の入道雲のごとく、土砂降りで。
振るフリをしているんだ。見よ、あそこに雲が見える。
「「「そだねー」」」
こいつらっ。あまりにもやる気のないダウナー系彼女たちだ。争え、もっと争え、、、
「知ってる?彼氏彼女は、結婚と違って、何人でもオッケーなんだよ」
俺に百人の彼女でも作れとでも。
僕、男女は一次独立で結合する最小単位だと良いんだけど。ほら、刺されたくないし。
「いまさら別れたいとか言っても、もう遅いだねっ」
まだ、間に合う。命がもったいないっ!
解消しようよ。今なら致命傷で済むよ。こんなハーレム屋上空間をエンジョイしても、別れたら、いい感じに噂は75日で消えるよ。
男の人って35億いるねん。
「人は自分で口説いておいて、なぜ別れたがるのだろうか」
哲学する女子みたいなことを言い始めた。きっとアイドルを辞めて結婚宣言でもするのだろう。
だがな、人の気持ちって変わるねん。あのときは好きだった、終わり。
これが永遠に続くのが恋愛ゲームなの。好感度の最高瞬間風速が大事なゲームなの。一瞬ドキドキさせたら勝ち。
「今、俺は気づいた。これはモテる男はモテるスパイラル。モテスパに入ったのでは」
「「「大丈夫。ちょっと頭、冷やそうか」」」
あ、はい。
全員から咎められた。
というか、ぼくの片思いちゃん。助けて。3人が同じ反応で僕をいじめる。これ、怖いよ。3人が、すごい一体感を持ちすぎ。なんだろう、吹いている。風、スカートチラリしてほしい。
「付き合うってなんなんだろう」
僕の片思い様が、ポツリと呟いた。呆れられている。
まぁ、ハーレム王も、付き合ってないし。
とか、考えていたら、僕と彼女は入れ替わっていた。
それは、もう君の名を問いたくなるように。
「なるほど。修羅場になると入れ替わるのか」
僕は、少女の声で言った。あら、可愛い。
僕は、おっぱいを自然と揉みながら、感傷に浸った。
「私の好感度が、蛙化しました」
片思いちゃん、渾身のカエル化。
「俺の声で、私とか言う俺、気持ち悪い」
「私の声で、俺とか言わないで」
「あ、戻った」
僕の身体が、エンゲージリングを外していた。
もう一度、すかさずつけた。
「けれど、何もおきなかった」
「代わってもいいという意思と、何か命の危機というか逃げたいという気持ちがいるんじゃない?」
「俺の片思いまだ残ってる?」
「わたしは知らない」
彼女の薬指から人差し指に指輪が移っていた。
あれま、おっぱい鷲掴みは不味かったか。
しかし、そこにおっぱいがあったから。不可抗力なんだ、仕方なかった。誰だって揉む。ガンジーだって、裸足でガンジス川に飛び込んで、揉む。
「通称、修羅場離脱入れ替わり指輪、OPPAIと名付けよう」
「どこからイニシャル持ってきたの?」
「記憶にございません」
政治家のように言った。カッコいいだろう。
「いかんいかん。入れ替わりのせいでキャラブレしているな。コホン、まったくなんていう置き土産だ」
「隠してた素が出ただけじゃないの」
そうか。Kよ。
今、分かった。
お前は、俺にハーレム王になれ、と言いたかったんだな。
曲解?もういいでしょ。死人に口無し。
嘘だけど。
「君たち皆々、僕は健全にお一人と付き合いたい系の主人公です」
「「「私たち、みんなでひとり」」」
なんだ、それスポ根か。お得か。
「うんうん、こうしてるの。楽しいよ」
片思いちゃんは、もう永遠のモラトリアムを望むかのようなセリフを言っているし。
楽しいさ。しかし、漫画と違って、高校生活って3年しかないねん。
こんなところで若さを無駄にしていいのか?
俺が4人を手に入れた結果、付き合えない男子がどれだけいるのか。そう思うと、夜しか眠れない。
気づけば、指輪が消えていた。
片想いちゃん、渾身の窃盗。
やけにスリスリされると思っていたけど。
「ああ、ぼくのOPPAIがっ!」
「なんて、ひどい頭してるんだろう。これは一生童貞」
「「「そだねー」」」
僕の貞操が、まだ無事だった件。
清い僕でした。
童貞のまま死ぬやつばかりだ。みんな世の中に見捨てられて。
しかし、最後の問題がある。
僕が、おもむろに、妹の処女性を確認しないといけない使命に目覚めた。
完全に、僕は、清らかなのだろうか?それが問題だ。
入れ替わりの指輪を使って、妹の身体にはいり、即座に確認しないと。
気持ち悪い兄で、ごめん。
冗談だけど。シスコン、妹を守護る。
「さて、僕の気持ちは、どこにあるのだろう」
「モラトリアムしようよ。まだ、人生長いよ」
「なめらかな世界が本当に滑らかならば、僕は僕自身とだけでなく他者とも滑らかなのに」
「何言ってるんだか」
片思いちゃんは、指輪をゲットした。
後日。
僕は生徒会ハーレム化計画。通称、イチゾンをしていた。
生徒会長に立候補し、他メンバーはハーレムとしたかった。
なのに。
「指輪、返してあげる」
片思いちゃんが一つ返してくれた。疑いもせずに、はめた。
スピーチ中に、入れ替わった。
そして、僕は、彼女はーー、
世界の中心で、OPPAIと叫んだ。
終わった。魔王がいた。




