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化けた母

作者: 空暮

 これは私の地元で噂になっていた怪談です。



 僕は当時、中学生でした。当時、部活から帰ってくると夕飯まで寝るのが僕の日課でした。その日もいつものように夕方帰ってくると、1階のリビングで母がテレビを見ていました。

 帰宅の挨拶をするとそのまま2階に上がり、自分の部屋に行き、着替えを済ませてベッドに潜り込みました。


――


――――――


 どのくらい時間が経ったでしょう。僕は、はっと目を覚ますと部屋は真っ暗でした。ベッドの横の窓から見える外の様子も真っ暗で、「あぁ寝過ごしてしまったんだな」と、思いました。

 部屋には時計はなく(正しくは時計はあるが電池を替えていないせいで動かない)、当時はケータイも持っていなかったため、時間が分かりませんでした。

 

 (ヤバいなぁ……)


 僕の母は、食事を決められた時間に摂らないと、

 

 「じゃあもう食べなくていい!!」


 と、癇癪を起こす人だったので、面倒な事になったと思いました。とにかくベッドから出て1階に行こうと考えた時でした。


 「かつひこ〜〜、かつひこ〜〜」


 1階から母の声が聞こえました。


 いつもなら食事で呼ぶ時はもっと怒りがこもっているのに、その時は何故か半笑いというか、何か面白い事があったかのようにやけに嬉しそうなのです。咄嗟に返事をしようとした、その時、


 ドン!!! ドン!!!!


 1階から地団駄を踏む音がした瞬間、


 ドドドドドドドドドドドド!!!!


 すごい勢いで階段を駆け上ってくる音が聞こえました。一瞬で僕は怖くなり、ベッドの中に潜り、寝たフリを始めました。この時はまだ、母が怒ってるのかなと思っていました。しかし、


 「かつひこ〜〜、かつひこ〜〜」


 声は部屋の前の廊下から聞こえました。


 「かつひこ〜〜、かつひこ〜〜」


 何故か、部屋に入ってこようとはしません。声が大きくなったり小さくなったりしている様子から、廊下を行ったり来たりしているようでした。


 一体何をしているのか。心臓が痛いほど早くなり、バクバクと音を立て始めます。


 この時点で、僕は扉の向こうの廊下にいるモノが母だとは思えなくなりました。僕は、毛布の中で、寝たフリをしたまま薄く目を開けて扉をじっと見ていました。

 

 「かつひこ〜〜、かつひこ〜〜」


――ガチャ。


 扉に手のかかる音が聞こえ、僕は息をのみました。扉はスーッと開き、そこから、顔が上下逆さまの白い女の人の顔だけが入ってきました。


「かつひこ〜〜、かつひこ〜〜」


 ニコニコと笑っていて、僕を見つけると口をムグムグ動かしてまっすぐとベッドの方に向かってきたので、僕は目を閉じました。


「かつひこ〜〜、起きて〜〜」


 声はもう目前で聞こえました。


 (悪い夢なら覚めてくれ……)


 「起きて〜〜、起きて〜〜」


 数度同じ言葉繰り返され、それでも無視していると、


 「起きて〜〜、起きて〜〜」




 「…………………起きてんだろ」




 急に怒り出しました。そして、


 「また、寝てる時に、くる」


 そう言って少し経つと扉が閉まる音がしました。怖くて僕は目を開けられず、そのまま何十分も寝たフリを続けました。そうこうしてるうちに、1階から、


 「かつひこーー!! ごはーーん!!」


 と、声が聞こえて、目を開けると何故か閉じたと思っていた扉が開いていました。


 (えっ、なんで?)


 と思いましたが、


 「ごはんだってばーー!!」


 声と共に廊下の電気がつき、真っ暗な僕の部屋が明るく照らされて、やっと安心できました。僕は急いでベッドから出て、脇目も振らず階段を降り、リビングに入ると、いつもの母がいてホッとしました。


その後、母にその話をしても、


 「部屋に行ってない」


 とか、


 「寝ぼけてたんでしょ」


などと言われて終わってしまいました。しかし僕は、それ以来寝る時は耳栓をして寝るようにしています。


間違って、"あの母"の声で起きてしまわないように。


――


――――


――――――


かつひこ〜〜、かつひこ〜〜



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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったです。 怪談として、自然と読むことができました。 ねてる時に来るのが怖いですね
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