09. なんやかんやで
義理の兄、武藤 仁が帰宅し次の日の朝を迎えた。
仕事で殆ど自宅に居ることのない人との生活・・・やっぱり変な感じだ。
部屋の窓を開け朝日を浴びながら起床した。
「ふぁぁ~眠い・・・」
今日はいつもより早めに起きることにした。
何故って?
昨日の晩ご飯の様なことにならない為にも早く起きて朝食の準備を済ませようとしたのだ。
起き抜けに暗黒物質はインパクト強すぎてムリだって。洗面台で顔を洗いスッキリした処で朝食作りにかかった。二人分なので多めに作った。
朝食を準備して三十分程、普段使わない奥の部屋から足音が聞こえて来た。
「ねみぃ~・・・」
欠伸をしながら頭を掻いて居間に現れた。
「おはよーーーっ!!」
見てしまった。
上半身、裸で登場した義理の兄の姿を・・・・・・
「ちょ、ちょっと何で裸なの! 服くらい着てよ!!」
「すまん、すまん、いつもの癖でつい」
頭をボリボリ掻きながら肩に乗せていた服を着た。
「家の中だからって、さっきみたいな格好はやめてよ恥ずかしい!」
朝から半裸姿の男性は暗黒物質よりも画が強過ぎて心臓に悪い。
「悪かったって、今度から気おつけるって」
歳の近い男子の半裸は何度も目にしたことはあっても大人の男性は別だ。
同じ男でも子供と大人では身体の造りが違う。
いくら私でも長時間目にするのはムリだ、直視出来ない。
さっさと朝食を済ませて学校へ向かう。
「それじゃあ行って来ます」
「もう行くのか、学校まで車出してやるぞ」
玄関で見送ると義理兄は送り迎えをしてやると言ったが全力で拒否した。
「いいよ、電車通学だから」
送り迎えなんてされたら、また周りから浮くに決まっている。それにこの人は存在感が強すぎて悪目立ちするに決まってる、一緒にいたら危ない!
ドアノブに手を掛け一瞬、間を開け後ろにいる義理兄に振り向いた。
「迎えも要らないから来ないでね!」
キッと睨んだ。
「・・・・・・分かったから行って来い」
玄関を開け自宅を出て学校へ向かった。
義理兄は有給消化中で暫く家にいるみたいだ。リモートで時折仕事をしているようだ。
休みにまで仕事とは、仕事病ってヤツか?
通学のため最寄り駅で電車を待った。
辺りを見回すとスーツ姿の男性女性が見られる中、チラホラと同じ制服を着た学生が目に写った。
少しホッとした。
早めに出て来たお陰で自宅からストーキングされずに済んだと、流石に朝早くから行動を起こすような不良達は、いないようだ。問題は帰りである・・・・・・
今日はお店か駅のトイレで変装グッズと化粧で誤魔化して帰るか・・・・・・
電車に揺られ学校に近い駅に着いた。
また校門前で出くわす前に校内に入らなければ!
駅から学校まで全力で走った。
いつもは学校のチャイムが鳴る一時間も前に着いた。目の前には校門がみえる。
ヨシ、このまま校内へーーー・・・・・・
そう思っていると校内の前に深めに被ったニット帽の男子生徒が一人いた。
「あいつ、武藤蘭香か? 今日は早い時間だったのか」
嗚呼、やっぱり不良達の仲間か・・・・・・
「先輩達に連絡をーーーヘポッ!」
懐から携帯を出して連絡をしようとしているのが見えたので、素早く男子生徒の後ろを取り連絡される前に背後から首元目掛けて手刀を放った。
男子生徒を気絶させる事に成功し、地面にそのまま寝かせて校内に向かった。見つけた仲間達が気づいて起こすだろうとその場に放置した。
「良かった、今日は人数が少なかった」
多分、休憩時間とかに仲間引き連れて来るんだろう。
教室の扉を開け入ると頬を膨らませてブスくれている相川百合亜が腕を組んで仁王立ちして待っていた。
「!?」
え?
相川・・・さん?
「え、どうした?」
朝早くから怖い顔した相川が出迎えた。鬼気迫る様な表情で、こちらを見つめている。
「む~どぉ~ざぁ~ん!」
怒っていると思ったら急に泣き出した。
えぇ?
何なの朝から・・・・・・
「ちょっと来い!」
相川百合亜の手を取り屋上まで走った。
「何だ? 何なんだ! 何かあったのか?!」
もしや、私が何かしたのかと慌てているとグズグズ言いながら相川が話し始めた。
「じづは~・・・・・・」
半分程泣いていて分からなかったが要約すると昨日、生徒会室での一件を父親であり理事長に話しをした処、お金を受け取っているという事実を知った事とお金の額を聞いたら怒られたとのコトらしい・・・・・・
「わだじぃはむずめにゃのにぃ~・・・グズッ」
「・・・・・・当たり前だろ」
「ふえっ!?」
思わず素でツッコミを入れてしまった。それに驚いた相川が泣きながら迫って来た。
「にゃあ~んでよ~、むどぉ~ざんまでぇ~!」
近いし、怖いし、涙と鼻水で顔が凄いことに!
「待て、寄るな! そんな顔で近寄るな!!」
イヤァァァァァァーーーッ!!!
「グズッ・・・ああ、ごめん、泣いちゃって」
声にならない悲鳴を上げ全身の毛を逆立て固まった。
「・・・・・・武藤さん?」
ツンツンと相川がつつくが動けずにいた。
「泣いたりしてゴメンね、スッキリしちゃった」
エヘッと笑顔を見せた。
エヘッじゃねーよ! まず制服を汚した事を謝れ!
プルプル震えながら相川に迫る。
「お~ま~え~なぁ~! どうしてくれんだ制服が涙と鼻水でグチョグチョに・・・・・・」
ここでも相川は笑顔で謝ったが私は許さなかった。
「ゴメンね」
「許すかコラァッ! クリーニング代請求してやる!!」
逃げる相川を追いかけ、動く度に揺れるその大きなスイカを揉んでやった。
「このオッパイお化けがぁぁぁーーーっ!!」
「ちょっと待って! いやぁぁぁーーーっ!!」
「今日は許さん、そのスイカもぎ取ってやる!」
「今日の武藤さん怖い!」
「今日は本気だってコトだ! オッパイお化け!!」
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン・・・・・・
チャイムが鳴るまで屋上で、逃げる相川それを追う私という構図が続いたが胸を両手でガードしながら床にエビ反りの姿で相川が震えた。
「ご免なさい、ご免なさい、ご免なさいーーー・・・」
ご免なさいを連呼しながらエビ反りの体勢でいた。
チッ、予鈴に助けられたか!
「制服弁償してくれるよね、相川さん」
「・・・・・・はい」
小さな声で頷いた。
今日は朝から散々な目にあった。制服が犠牲に・・・・・・
「それと!」
ビクッと相川が反応した。
まだ続きがあるんじゃないかと身構えた。
「寄付についてだけど、私も同意見だ」
「ふえ?」
「いくら親子でも一線っていうモノがあるんだよ。 親しき仲にも礼儀ありって言うだろ、例え娘でも触れて良いモノ悪いモノっていうのがあるんだよ」
「そ、そんな~」
「グズグズ言うなら、第二ラウンド続けるか?」
指をワキワキさせながら迫ると直ぐに降参した。
学生は学業が本分、熱い友情、甘酸っぱい男女の恋愛・・・・・・
「・・・・・・」
どれも今の私には当て填まらない。
青春って難しいなぁ~なんて思う今日この頃であった。