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08. 保護者達

 

 思いがけない人物が自宅に帰って来て内心驚いていた。

 武藤 仁、私の義理兄(あに)であり兼、保護者である。彼との関係を少し説明しておこう。


 彼が私の兄となったのは、約三年前に事故で亡くなった養父、武藤 (けい)が当時十歳になる私を引き取り里親となった事が始まりだった。

 幼い頃の記憶は所々虫食い状態の様に消えている部分があったり、残っている記憶も一部ある。残っている記憶に関しては良いモノとは言い切れない物ばかりだ。

 私は実の両親から育児放棄(ネグレクト)されていて最終的に親元から離され施設に送られた。急に生活環境が変わり周りとも馴染めず問題を起こしては施設を脱走し、行った先々でも問題をおこし施設の職員の手を焼いていた。

 もう何回目かの脱走になるのか、とある雪が降る真冬日にも私は脱走を計り逃げ出した。危うく凍死する処を発見したのが里親となった武藤 圭、その人だった。


 武藤 圭は、私のいる施設を訪れ引き取りたいと打診までしたのだ。

 外見は白髪交じりの初老という風貌の男性だが老人というにはガッチリとした体格の持ち主だった。施設の職員は、この男性の打診を了承し、養子として私を引き渡した。


 それから二年弱、三年にも満たない月日を養父と共に生活を送った。短くも楽しい日々、人間らしい生活をしたのも、この時だけだろう。

 私を引き取り暫くして養父の元に度々訪れる人物がいた。それが武藤 仁、養父の実子であり、養父が亡くなって以降も養子縁組みの継続を行った人で現在私の保護者である。

 養父と、その実子二人に私は養われ食べるには困らない生活をさせて貰っている。

 

 正直、養父が亡くなって以降も実子である武藤 仁が養子継続を続けている意味が分からない。普通なら繋がりが切れたらバッサリ切られ施設へ逆戻りだと思っていたが、そうは為らなかった。


 武藤 仁、彼のお陰で私はまだ()()の名字を名乗る事が出来るのだ。


 そんな彼とは現在、自宅で一緒に晩ご飯を食べている。


 「・・・・・・」


 なんか不思議だ。

 






 その頃、相川百合亜は理事長であり、父親の相川誠太郎(せいたろう)の元を訪れた。

 今朝、生徒会室での話しが本当の事なのか審議するためである。

 

 コンコンと扉をノックして部屋に入室した。

 

 「失礼します」


 中では理事長の相川誠太郎が書類に目を通し、隣には背広を着こなした年配のヒゲを生やした男性秘書が仕事をサポートしていた。

 忙しいのは分かるが自分の中にあるモヤモヤを晴らす為にも直接、父親の口から聞きたかったのだ。


 「お、お父さん、あのーーー・・・・・・」


 「見て分からないか、今は仕事中だ。 それと校内では理事長と呼ぶようにと言っていただろう」


 「・・・・・・ごめんなさい」


 「それで、用件は何かな?」


 「今日、友達が生徒会に呼ばれて、その友達の保護者が学校に寄付をしているって話しを聞いて本当なのかなって・・・・・・」


 相川百合亜はオズオズとしながら父親であり、理事長に聞いてみた。

 相川誠太郎は作業の手を止めた。


 「友達というのは武藤蘭香という生徒の事かい?」


 「おと・・・理事長知っているの?」


 「校内で騒ぎをおこしている生徒と聞いているよ」


 「じゃあ、寄付を受けているって本当なの?」


 娘である相川百合亜は本題を聞いてみた。


 「・・・・・・寄付なら受け取っているよ」


 「!?」


 驚いたが武藤蘭香、彼女の話しは事実であったという事が証明された。


 「寄付というなら多くの方から頂いているよ、金額の大小関係無く」


 「え?」


 ここからは、相川誠太郎は父親としてではなく理事長として経営者として話しを続けた。


 「事業者として個人の資産だけで行える事は、とても希なことだ。 だから私は金額の大小関係無く支援して頂いて事業を行っているのだよ」


 「武藤さんだけではないの?」


 「当たり前だろう、多くの方から支えて頂いて成り立っているんだ」


 「ちなみに、いくら位貰っているの?」


 この言葉に相川誠太郎はピクリと眉を動かした。


 「金額についてお前は知る必要は無い、用が済んだら出ていきなさい」


 「お父さん、私は娘よ! いつか後を継ぐ以上知っておかなきゃ!」


 相川誠太郎はフゥ~っと深いタメ息をついた。


 「子供のお前が知る必要はない、学生は学業が本分だ」


 「で、でも・・・・・・」


 「この話しは終わりだ以上!」


 話しを切り強制的に終わらせた。


 「口を挟んで申し訳ありませんが、お嬢様はまだ未成年で事業についての知識は皆無だと思われますが?」


 秘書として隣で仕事をしていた年配の男性が話した。


 「田所・・・・・・」


 秘書田所は理事長に笑顔で手を前に出した。ここは任せて下さいと言うように。


 「知識も無く不要に触れて良い内容ではないとお察し下され、責任を負う事になれば貴女も共に背負う事になるのですよ」


 秘書の田所は優しくも厳しく物事を話した。


 「知識も然る事ながら責任を負う覚悟も無い貴女はこの先の事を知るには、まだお早いです」


 「・・・・・・」


 田所さんの言葉に返す言葉が見つからなかった。

 

 「今は学業に生を出し多くを学んでくだされ」


 俯く相川百合亜に秘書田所は笑顔で優しく言葉を送った。


 「はい、・・・・・・失礼します」


 弱々しく返事を返し小さく頭を下げ部屋から退室した。


 「すまない田所・・・・・・」


 フォフォフォと生やしたヒゲを撫でて笑った。


 「構いませんよ、お嬢様には期待していますから」


 「それにしても武藤蘭香・・・か、問題児(トラブルメーカー)と友達とは」


 「でしたら、私から本人に警告しましょうか? お嬢様の側を離れるようにと」


 「いや、暫く様子を見よう」


 「分かりました」


 

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