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07. 来訪者


 高校卒業後の進路には三通りの道が用意されている。

 一つ、進学二つ、就職三つ、その他である。

 学力や財力がある者は進学を選ぶ傾向があるが、そうでない者は就職活動に力を入れ自分にマッチングした会社、企業に就職する事になる。

 ただ、中には進学を選んだものの挫折して就職活動にシフトチェンジしなければいけない者もいる。会社が決まらないと強制的に国が就労先を決めてしまうのだ。

 二十歳(ハタチ)の誕生日から一年以内に決まらないと国が強制執行に移る事になる。

 強制執行された国民は義務として、それを受けなければならない。もし、断ったり応じなければ最終的に犯罪者と同じ烙印(らくいん)を負うことになる。犯罪者の烙印を負わされた国民は全て取り上げられてしまう。

 人権も権利も全て失い、負った罪の大小関係無く等しく収監所へ送られる。


 だからこそ学生達はこぞって競い自分を売り込むのに必死なのだ。憧れた夢の世界へ、少しでも裕福な生活を・・・・・・、中には少し間違った方向に行く者も世の常である。





 「・・・・・・バイトでもしようかな~・・・」


 私はどちらかと言えば頭は良い方とは言えない。

 部活をしている人は部活動を頑張ってましたなんて言えるけど私は・・・なぁ~・・・・・・

 今後、就職する会社にアルバイトから入っておけば、お金も経験値積めるし、即戦力として雇って貰えそうだなんて考えている。

 日が沈む夕暮れ刻、帰りの電車に揺られ流れる景色を眺めながら少し早い進路について一人考えていた。

 経験値があれば長く勤めていくのに有利になるだろうし、自分を売り込む武器になるだろうし・・・・・・

 

 「うう~ん」


 日も沈み辺りは薄暗くなっていく。その頃には自宅の前で鍵をカバンの中から探していた。

 毎度毎度、付きまといを気にして帰るのにも疲れて来たし、誤魔化すのもマンネリ気味だからなぁ~、新しいネタ考えないと・・・・・・

 鍵を回す前に部屋の扉が開いた。


 キィィーーー・・・・・・


 「え?」


 「お帰り蘭ちゃん」


 扉を開けて出て来たのは短髪で眼鏡をしたスラッとしたイケメン男性だった。


 「一ノ瀬さん!?」


 という事は保護者(あの人)も・・・・・・


 「帰って来る時間だと思って先に上がらせて貰ってるよ」


 出迎えてくれたこの男性は一ノ瀬 歩さんといって、私の自称保護者とは仕事先の同僚らしく保護者曰く、自分より出来る人らしい。短髪で長身スラッとした体格で眼鏡の似合う文系や理系を思わせる男性である。

 端から見たらIT関係で働いていそうな男性でスーツ姿も似合う。私服姿もセンスや品があって、THE大人な男性って感じの人である。


 「いえ、来るなら連絡を頂ければ・・・ん?」


 何だろう、部屋から焦げ臭い匂いがーーー・・・・・・


 「まさか!?」


 カバンを玄関に放り投げキッチンへ急いだ。

 この臭いはもしや・・・・・・

 廊下の扉を開けキッチンを見ると・・・やっぱり!?

 臭いの正体が分かった。

 

 「何してるの?」


 「ああ、お帰り。 お腹空いていると思って晩ご飯の用意を・・・・・・」


 フライパンの中には真っ暗に焦げた元は食材だったであろう物が原型を留めずにグズグズになっていた。臭いの正体はこれである。


 "暗黒物質(ダークマター)っ!!!"


 ちょっと待て、おい!!

 晩ご飯ってソレかぁ?! ふざけんな!食えるかそんな物!!


 「キッチンには入るなって言ったでしょ義理兄(にい)さん!!」

 

 そう・・・(くだん)の過保護な保護者とは、この人の事である。


 「それと私のエプロン使わないでよ!!」


 嗚呼・・・、気に入って使っていたエプロンが伸びきってしまった。


 二メートルはあろう高身長に屈強な身体、服の上からでも分かる筋骨隆々な筋肉質な肉体、堀の深い顔立ち、腕回足回りなんて私の胴回り位はあるんじゃないかって程太い手足をした男性がフライパン片手でキッチンにいた。

 多分、服を汚さない様に着けていたであろうエプロンもギッチギチになっている。


 エプロンなんて、この人が着ける必要無いだろう、画面(えづら)ヤバいって。

 キッチンに立ち晩ご飯を作っていたのは私の保護者であり義理の兄、武藤(むとう) (じん)である。


 「晩ご飯の用意って・・・ソレは何なの?」


 恐る恐る聞いてみた。


 「スクランブルエッグ」


 エッグって卵かそれ! 黄色部分無くなってるじゃん! 真っ黒で卵の要素無くなってるじゃん! もう、そこまでいったら別物だ!!

 

 「何してんの! キッチンには立つなって言ったじゃん義理兄さん料理出来ないんだから、片付ける手間を増やさないで!!」


 【料理出来ない】その言葉がグサりと刺さったのか落ち込んだ。

 大男が隅で小さくなっている様子はまるで背中を丸めた熊の様だ。

 

 泣きながら訴えキッチンから追い出した。

 焦げ付いたフライパン、そして他にも何か作ろうとした痕跡が残っていたのか、水回りが酷い惨状と課していた。

 普段料理をしない人が、それにしても酷い有り様だ。

 どうして義理兄さん(この人)は学ばないんだ。家事全般は壊滅的だというのに。


 「というか、居たなら何で止めてくれなかったんですか一ノ瀬さん!」


 「ごめんよ、本人がその気になっちゃって」


 謝っているようだが笑いながら言われても伝わってはこない。イケメンだから謝れば誰でも許しただろうが私は違う!


 「それじゃあ、この人が作ったモノ責任を持って片付けて下さい」


 ※片付ける=食べろ


 暗黒物質へと変貌した真っ黒なスクランブルエッグを皿に乗せ渡したが一ノ瀬さんは上手く逃げ仰せた。


 「おっと、急用を思い出したから今日は帰るよ。 折角の兄妹水入らずを邪魔して悪いからね」


 それじゃあとそそくさと帰って行った。


 逃げやがったな!


 静まり反った部屋で深いタメ息をつきながら、取り敢えずキッチンの片付けを始めた。

 洗い物をしながらチラリと小さくなった義理兄を見ながら、ふと思った。

 武藤 仁、何故彼が今、此処にいるのかと。

 

 (仕事先が休みにしては、()()()変な時に帰って来たなぁ~)


 随分前にどんな仕事をしているのかと一度聞いた事があったが、その時は自衛隊の隊員として働いているとか言っていたけどよく考えてみると色々と不可思議な処が多々見られるのだ。

 自衛隊なら、こうして頻繁に帰って来ないだろうし、そもそも、嘘だってコト、私は既に気づいている。

 私だってそこまでバカではない。街中を歩いていれば嫌でも目に付いてしまう。写真付き広告やワイドショーやCMに映る義理兄(あに)の顔ーーー・・・・・・これが、フラグ回収ってヤツか?


 「・・・・・・」


 キッチンの片付けを手早く済ませ義理兄に声を掛けた。


 「二人分のご飯作るけど、食べる?」


 「お前、料理出来るのか?」


 出来るわっ!!

 暗黒物質(ダークマター)作り出す、アンタの飯なんて食いたくないから必死に覚えたわよ!

 本能が告げる、料理出来ないと○ぬって。今は一般的な家庭料理位なら作れるようにはなった。

 こういうのを怪我の功名というのだろう・・・・・・


 二人分の料理をテーブルに出し二人で久しぶりに晩ご飯を食べた。


 この人はいつまで、嘘を付くつもりだろう。

 私はその時をじっと待つ事にした。嘘だと気づいた時のリアクションが見てみたいからだ。

 普段は表情が変わることの無い口下手なこの人のリアクションがどう変わっていくのか見てみたいというイタズラが心が沸いてしまったのだ。

 

 ちょっと遊んでやろうと思っているのだ。

 


 

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