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06. お断りさせて頂きます


 生徒会は今、窮地に立たされていた。

 "生徒会委員"その役職を持つだけで、どの生徒も頭を下げた。この役職があれば何も怖いモノは無い。そんな風に思っていた生で感覚が麻痺していたことに気づかなかった。

 武藤蘭香という存在もその他大勢の中の一人、役職があれば、従わせる事なんて容易だと思って挑んだ筈だったのに東生徒会長以外の生徒会の人達はやってしまった! 誰もがそう思っただろうが時既に遅しだった。

 毎年非行に走る生徒達は出てしまうのが常だった。物にも人にも被害が出るのは当たり前だったはずなのに今年に限って被害が小さかったのは、武藤蘭香、彼女が抑止力となっていたからだ。

 教師達が問題にしなかったのは彼女の身内が学校に支援してくれていたからだった。寄付という事は学校に関する行事、備品、教師達の給料の一部にもなっている可能性も有り、生徒会も少なからずその恩恵を受けている。


 つまり、武藤蘭香を退学させてしまったら抑止力と支援の二つを同時に失う事になる。そうなる原因を作ったのが生徒会だと知られれば教師、生徒双方から叩かれる事になる。


 「寄付って本当なの? 武藤さん」


 「疑っているなら、理事長(パパ)に直接聞いてみれば良いだろ。娘なんだから」


 「・・・・・・」


 信じられないと言いたげな表情で呆然としている相川だった。

 

 「まぁ、寄付について知ったのは私も最近だったから」


 相川が目を点にした。


 「武藤さん知らなかったの?」


 「教師達の様子が、ヨソヨソしかったから本人に問い詰めたら白状したよ。 ただ、金額までは頑なに喋らなかったけど」


 そんな話しを聞いて生徒会室の空気は更に冷たくなった。


 「あ、あの・・・武藤さん・・・」


 震えながら一人の生徒会の生徒が喋ろうとするが上手く口が動かない。


 「ああ、何も言わなくていいですよ。 これ以上何も聞きたくないから」


 悪意を込めた笑顔を向けて話しを遮断した。

 

 「いや、そうじゃなくて・・・」


 「だからもういいって、 あんた達の口からは何も聞きたくないから」


 冷たい視線を送り強制終了してやった。


 「という事ですので代表選手の件は無かった事に、私も聞かなかったコトにしますから・・・・・・では、お話しも終わったので帰らせて貰います」


 「ちょっと武藤さん、待って!」


 粛々と終わらせ生徒会室から出ていった。その後を相川が慌てて追いかけた。

 嵐が過ぎた様に部屋が静まりかえると、どっと脱力感に襲われ、生徒会の生徒委員達は暫く、その場を動けずにいた。


 



 「武藤さん待ってよ!」


 相川の静止も無視し廊下をひたすら歩いていた。


 「何で代表選手の話し断ったの?」

 

 「・・・・・・」


 「武藤さんなら優勝だって狙えるわよ」


 無視して進む。


 「だって武藤さんは強いじゃない。 男性相手でもエイヤーって・・・・・・」


 私の後ろで相川がシャドウボクシングの真似事をしていたがそれもスルーして教室の扉を開け自分の席の荷物をまとめてカバンに詰めた。


 「武藤さん、何してるの?」


 授業中だったのか荷物を詰めているとクラスの皆が手を止めてこちらを見ていた。担当教師も注意した。


 「相川、武藤、何してる授業始まってるぞ席に着け」


 「すみません、今戻ります」



 

 「先生ー、体調が悪いので今日は帰りまーす(棒読み)」


 「武藤さん! 午後の授業は?!」


 相川が止める間も無く脱兎の如く教室を出ていった。


 「武藤さん!!!」

 

  「・・・・・・えー、武藤は午後から退勤っと」


 担当教師も慣れた様子でサラ~っと日誌に記入した。

 顔を真っ赤に身体をプルプル震わせ眉間にシワを寄せた。


 「もぉーーー、武藤さんのおバカーーーっ!!!」


 相川の声を背中に浴び、そそくさと校舎から出ようとすると、待ってましたと言わんばかりに校門で男子生徒数人にお出迎えされた。


 「あんた達も暇だね」


 「武藤蘭香! 今度こそお前をボコボコにして泣かせて・・・へポッ!!」


 勢いを乗せた回し蹴りを喋っていた相手の男子生徒の顔目掛けて攻撃した。蹴られた勢いで地面に倒れた。


 「この女、容赦ねぇ!」


 「ミッちゃん! 大丈夫か!!」


 仲間がやられ他の男子生徒達が臨戦態勢を取った。


 「お前ら、相手が女だからって油断すんなよ、こいつは・・・ゴハッ!!」


 一人・・・・・・


 「テメェー・・・ブホッ!!」


 また一人と地面に倒れていった。


 スカートを軽く払って学校の敷地内から出ていった。

 校門前には動けずにいる男子生徒数人全員が地面に倒れ気を失っていた。


 


 

 学校を出て最寄り駅から三つ目の駅に向かい目標地に降りた。駅から直ぐの処にある二階建ての建物に立ち寄って買ったドリンクを(すす)りながら建物から見える景色を見ていた。


 ズルズルズル~~~・・・・・・


 何をするでもない、ただ目に映る景色を見ているだけだった。


 「ハァ~・・・学校って面倒だな・・・」


 ズルズルズル~~~・・・・・・


 「・・・・・・授業もつまらないし」




 

 (高校には行かない?!ダメに決まっているだろ、費用の事は心配するな)


 ズルズル・・・・・・


 (子供が遠慮するな、学校は楽しいぞ!)


 ズル・・・・・・


 なんて言ってはいていたけど嘘っぱちじゃねーか、保護者(あの人)の言葉信じた私がいけなかった。

 学校生活も友達も疲れた。


 「こんな事なら・・・・・・」



 保護者の言葉とは裏腹に私の脳裏には三年前の記憶が甦る。




 三年前、中学一年の十二歳の頃ーーー・・・・・・


 武藤蘭香は一度生死の境をさ迷った。

 いや、もしかしたら生命を落としてもおかしくはなかった。


 「こんな事なら私もーーー・・・・・・」


 不意にそう思う事がある。

 三年前に経験した、あの強烈な光景が頭から離れない。あの経験をしてしまって以降、普通の生活というモノに馴染めない。

 ハァ~と深いタメ息をつくと大きな音が流れているのに気がついた。音は街の中心に設置されている大型液晶画面からだった。

 画面には今人気の俳優や歌を唄うアイドルが写し出されていた。彼らも学生時代に自分を売り込む事に成功し、裕福な生活を約束された富裕層だ。

 学力、スポーツ、財力等々、持ち得る手段で勝ち取った所謂、勝ち組やエリート組というヤツである。


 「食べていけるなら勝ち組じゃなくてもいいよ・・・」


 呟いていると快晴の空に飛ぶ大きな飛行船がゆっくりと飛んでいた。


 「あれって・・・・・・ん?」


 飛行船には大きな文字が、下には風の力で(なび)く広告にある人物の顔が書かれていた。


 「ブホッ!!!」


 見てはいけないモノを私は見てしまいドリンクを吹いてしまった。

 これがフラグ回収にならない事を祈りたい。


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