05. 生徒会員
生徒会室に呼ばれ相川と共に向かったものの、校内で起きた暴力事件についての責任を取らせようと生徒会一同は退学を迫ったが、東生徒会長は別の件で私を呼んだ模様だ。
東生徒会長は私に一枚の用紙を見せた。
「うげぇっ!!」
咄嗟に心の声が出てしまった。
口元を抑えたが皆に聞こえてしまったようだ。
「武藤さん?」
隣にいた相川が驚いた。
「会長、これは!?」
「今日、武藤蘭香さんを呼んだのはコレの為だったんだ」
用紙にはデカデカと文字が書いてあった。
○月開催"選抜実技対抗戦!!"
一年に一度学校から代表選手を募り開かれる大きな大会のお知らせだった。
「東会長は私に選手として、この大会に出ろと?」
東会長はクスリと笑った。
「その通りだ、選手として出場して欲しい」
相川の瞳が輝いた。
「凄いわ、武藤さん! 大会選手として出られるなんて!!」
私の手を取りブンブン上下に振った。
しかし生徒会の人達も黙ってはいなかった。
「ま、待って下さい会長! 武藤蘭香を大会に出場させるなんて、我が校の為にも良くありません! 考え直した方が良いと思われます!!」
「そうですよ、我が校の品位が下がります」
「それに、代表選手なら既にいるじゃないですか」
「確かに選手はいるが我が校の成績は年々下がっている。 品位等気にしている場合ではないと思われるが?」
「武藤さんが出れば成績も上がる。 普段の武藤さんなら選手としてもいけるわ!」
おいちょっと待て! 出るなんて私は一言も言ってないぞ相川、それに普段の私ってなんだ?
「盛り上がっている処、悪いけど私は出ません!」
「な、何で? 選手に選ばれるなんて光栄な事だし、名誉な事なのに?!」
絶対出た方が良い、出るべきだと説得に入る相川だが私はこれをNOーと、きっぱり断った。
何が、光栄で名誉な事だ! 学生生活していく中で最も不要なモノだ。
私は卒業まで適当に授業を受けて、そこそこの単位を取って、ダラダラと学生生活を送り卒業後は一般の会社や企業に就職するっていう目標が有るんだ。変に目立って、これ以上騒がれるのはゴメンだ!
「理由を聞いても?」
東会長が聞いて来た。
正直に「面倒だからです」とハッキリ答えると相川がポカーンとした顔になった。生徒会室の空気が一瞬冷たくなった。
皆、言葉が出ないっといった表情をした。
「いやだって、すでに代表選手が決まっているなら私、必要無いでしょ。」
「断るのは君の自由だが、私が武藤蘭香、君を選んだのは学校の為であり君自身の為でもあるんだ」
「武藤さんの為ってどういう事ですか?」
相川が東会長に聞いた。
「先程も言ったが我が校の成績は落ちている、早急に対策を練ろうとしていた時に君の話しを耳にした。 何でも、男子数人相手に向かって行く度胸とポテンシャル、フィジカルの高さ、まさに代表選手に打ってつけだと」
「確かに、いつも怪我一つしてないし」
私は相川を白い目で見つめる。
「それに代表選手になれば君の正当防衛によるものだと言う主張にも正当性が生まれる」
東会長はどうやら私を説得させて代表選手にさせたいらしい。隣で聞いている相川がウンウン言いながら話を聞いている。
私を丸め込もうとしているようだが、そんな手に乗るか!
「別に正当性なんて必要ありませんよ!」
「何故?」
「何やかんや言ってはいるけど結局、評価が欲しいって事だろう? 他校よりも良い評価ってヤツが・・・・・・」
私は真っ直ぐ東生徒会長を見る。
「代表選手にはならない!」
ハッキリと自分の意思を伝えた。
「まぁ、もし退学になったとしても構わないよ。 その時は学校を変えれば良いだけで、私にはノーダメージで問題無しだから」
むしろ痛手を被る事になるのは貴方達生徒会だろうと笑顔で言ってやった。
「何で、我々が?」
私はフンと鼻で笑って教えてやった。生徒会がしている勘違いと一緒に。
あんた達生徒会は私を退学にすると言っているが、出来る筈がないんだよ。
何故なら、あんた達生徒会は生徒の中から選ばれた人達ではあるけど、一生徒の一人であることには代わりはない。生徒会とは謂わば、生徒の意見を聞くご意見番、無料相談というのが生徒会の役割だろう。
あんた達のしている事は生徒会という役職からは逸脱しているんだよ。
一生徒に生徒の退学を行使する事なんて出来ないんだよ。
生徒会の人達は私の説明でサッと青ざめた。
しかし、私の話しはまだ続いた。
それに私がもし、仮に退学して学校から去ったら一番困るのも結局、生徒会委員のあんた達だよ。
私がいなくなるという事は今まで私に向けられていた不良達の怒りの矛先は何処へ行く?
今まで見て見ないふりをしていた教師達?生徒会?それとも、生徒の中の誰か?
武藤蘭香という存在が今まで不良達の矢面に立っていたから、あんた達は被害も無く無事に生活が出来た。私という文字通り肉の壁がいなくなったらどうなる事か、考えに至らなかったことが不思議でならない。
ここまでの説明で生徒会の人達は身体を小さく震わせ口を鯉の様にパクパクさせていたが、まだまだ、私の話しは終わっていなかった。
そして最後に・・・・・・
「ま、まだ何かあるのか?」
生徒会の人達は怯えた表情をしていた。勿論、続きますとも。
そもそも、これだけ校内で騒ぎを起こしているのにも関わらず大人達教師は何故、何も言って来ないと思う?
相川も話しを聞いてハッとしたようだ。
言われて見れば先生達は騒ぎになっても本気で止めようとはしていなかったことに気がついた。いつも、なぁなぁで済ませていた。
「そ、それは・・・・・・」
生徒会の人達も何処かおかしいとは思ってはいたようだ。
それに関しては私というより、私の過保護な保護者が原因のようで。
「保護者・・・・・・武藤さんの親?」
相川がキョトンとした顔で聞いて来たので、オデコを人差し指で何度もつついてやった。
「保・護・者って言ってるだろ!」
オデコをつつく度に相川から小さい悲鳴が漏れてくる。
「武藤さんの親が何で出てくるの?」
人差し指を構えると泣きべそをかきながら聞いて来た。
「何だ、相川は理事長から何も聞いてないのか?」
この学校の理事長の娘が・・・・・・
まだ何の事か分かっていない様なので爆弾を投下してやった。
私の保護者が寄付金という名目で学校に幾らか寄付をしたようなんだ。
「き、寄付・・・・・・っ!!」
寄付・・・・・・、便利な言葉だ。
言い方を変えれば賄賂って事になる。
この貧しいご時世、支援してくれる人は貴重だ。
今までの話しを踏まえて生徒会の人達は理解した。自分達は喧嘩を売ってはいけない人物に噛みついてしまったコトに。