15. 鬼の形相
室内に置いておいた携帯が鳴った。
「はい、一ノ瀬」
「一ノ瀬ーーーっ!!!」
「!!?」
パソコン作業をしながら出ると相手は武藤 仁だった。大声に驚き携帯を何度も床に落としそうになった。
「え? 仁、どうしたんだ?」
彼は今、有給消化中で自宅にいるはずだった。そんな彼から電話なんて・・・・・・
何だろう?
「蘭が! 蘭が!」
「蘭ちゃんがどうしたんだい?」
「帰りが遅いから迎えに行こうとしたら外で倒れていて、ちっ、血だらけで!!」
血だらけ!?
「兎に角、落ち着いてくれ。 今何処にいるんだい?」
「今・・・○✕病院だ・・・」
「分かった、ボクが行くまで彼女の傍にいてあげなよ」
「すまん、一ノ瀬・・・・・・」
ブチッと切れた。
蘭ちゃんが怪我・・・それにしても仁のヤツ、かなり天パってたな。普段は冷静沈着なのに・・・電話越しでも何か泣いていたような?
急いで支度を済ませ現場に向かった。
車を飛ばし一時間、病院に着いたのは時計が二十時半を回っていた。
「仁、蘭ちゃんは?!」
「今、ICUの中だ」
力なく彼が答えた。
「断られても送り迎えするんだった・・・・・・」
「仁・・・・・・」
これ程、気を落としている彼を見るのは今まで無かったコトだ。共に仕事をしてきて十年位経つが、こんなにも負の感情を面に出しているのは初めてだ。
「学校で何かあったんだ・・・・・・」
うん?
「まさか、イジメか?!」
じ、仁?
「学校でイジメにあっていたのか!!」
彼の周りから漂う負のオーラが怒りのオーラに変わっていくのが分かる。メラメラと燃え上がり、その瞳からは憤怒の炎が燃え盛る。
いかん、これマズイやつだ!
十年共に仕事をしてきたから分かる、これは早く鎮火しないと爆発するぞ! 生唾をゴクリと飲んだ一ノ瀬は彼を落ち着かせた。
「学校かどうかは分からないじゃないか蘭ちゃんが起きたら、まず事情を聞こう」
「う~ん」
冷や汗をかきながら荒ぶる武藤 仁を宥め時間稼ぎに成功した。
場合によっては怪我人が多数続出しそうだ。未成年相手に彼が本気になったら怪我どころか死人が出てしまう。不祥事おこしてメディアにスキャンダルなんてコトになったら最悪だ。
「しかし、何か手掛かりでもあれば相手を特定出来るんだが・・・・・・」
手掛かりと言われて思い出した。
「そういえば、蘭がずっと握っていたモノがあったな」
握っていたモノ?
「一ノ瀬、調べて貰えるか」
ポケットから透明なジッパーに入ったモノ、硝子・・・いや、プラスチックで出来た容器の先に細く小さな針が付いている。
「これ市販で売っている様なモノじゃないね、少し時間をくれないか」
「・・・・・・頼む」
「仁、今は彼女の傍にいてあげなよ」
コクリと無言で頷いた。
「ボクは一旦ラボに戻ってコレを調べて見るよ」
意気消沈な彼を残し仕事場に戻るコトにした。
車に乗り込むと携帯が鳴った。
誰だろう?
「はい一ノ瀬」
「い、一ノ瀬さん大変ですーーーっ!!」
「え、伊勢野くん?」
慌てているのか何を言っているのか分からない。
「伊勢野くんゆっくりで良いから最初から話してくれるかい」
電話の相手は深呼吸をして落ち着いてから要件を話した。
「実は隊長から極秘任務を受けて現場に行ったんですが相手を見つけて話をしようと思ったら抵抗されて、一瞬の隙をついて逃げられて、け、怪我もしているみたいで」
隊長からの任務?
「任務なんて、ボクは何も聞いてないけど?」
「極秘とのコトで・・・・・・」
極秘・・・さては隊長、仁がいない間に何か企んでいたんだな。
「抵抗したって何かしたのかい?」
「・・・・・・その~・・・」
「怪我したっていう相手は、どうしたんだい?」
「・・・に、逃げられて・・・・・・」
「逃げたって、怪我して逃げたのかいその相手!?」
「すみません!!」
怪我して逃げたって・・・車の中からさっきまで居た病院を見つめた。
まさか・・・ねぇ・・・・・・
「一ノ瀬さん?」
「すまない手伝ってあげたいが、此方も急用が出来てね」
「いえ、忙しい処をすみません」
「伊勢野くん、まずは付近の防犯カメラをハッキングして足取りを追ってみたらどうだい?」
「カメラをハッキング!?」
「得意な子がいるだろ」
「わ、分かりました」
急いでいたのか直ぐに切れた。
「ボクも急がなきゃ」
でもこの容器、どこかで・・・・・・
車を発進させラボに急いだ。
それから日付が変わった次の日の朝、私は意識が戻り重たい目を開けた。
目を動かすとカーテンの隙間から朝日が漏れているのが見えた。
「ここは?」
混乱する頭を働かせ目を動かし周りから情報を得ようとした。
知らない天井・・・それに・・・消毒の匂い・・・何処だここ?
目を動かし気づいた。
「!?」
に、義理兄さん!!? な、何、何なのこの状況?
何か手が温いと思っていたら義理兄が私の手を握って寝こけてた!!
すると眠っていた武藤 仁が目を覚ました。
ふがっ!
「!?」
義理兄と目が合った。
こういう時って、どうすれば良いんだ・・・と、取り敢えず・・・・・・
「お、おはよう義理兄さん・・・」
義理妹の言葉に目を見開いた。
「ら、らん・・・」
義理兄は私に向かって手を伸ばした。
ヒィィッ!!?
「目が覚めたか、良かった!!」
義理兄は私の身体をその太く大きな両手で包み抱き締めた。
ゴヘェッ!!?
力一杯抱き締めた。
「に、にい・・・ざん・・・」
ぐ、ぐるじぃ~・・・・・・じぬっ・・・・・・
ギリギリと締め上げられ、危うく窒息○する処を何度も叩いたタップに気づき免れた。
「ゼェ~・・・ゼェェ~・・・ゲボッ!」
「す、すまん、つい力が入って!!」
あ、危なっ! あとちょっとでお花畑に行く所だった。
「それよりここは?」
「ここは病院だ、自宅から近い所の」
「病院っ!? な、何で?」
「覚えてないのか、帰りが遅かったから探しに行こうとしたら扉の前で倒れていたんだぞ」
「え?」
帰りが遅かった? 倒れていた? 何をしてたんだっけ?
頭を抱え困惑していると義理兄は私の頭にポンと手を置いた。
「無事で良かったよ」
ホッとした様に私の頭を撫でた。
大きなその手の温もりを感じた時、義理兄と三年前に亡くなった養父の顔が重なって見えた。
やっぱり似ている・・・・・・
この人も歳を取ったら、こうなるのかななんて思っていると義理兄の口から思いも寄らない言葉が発せられた。
「何処のどいつだ」
うん?
「蘭香に怪我をさせたヤツは・・・」
ちょ、ちょっと義理兄さん?
義理兄の顔色・・・いや、顔がみるみる形を変えていった。
ヒィッ!!!
義理兄の顔が、顔がとんでもないコトに!
義理兄の身体から迸るモノを感じた。
これは殺意・・・・・・
「許さん!! 例え相手がガキだろうと」
義理の兄、武藤 仁の顔は般若の形相に形を変えていった。




