13. ストリンガー
UGFA地下格闘技場、この格闘技場には三つのランクに別れ選手達は試合を行う。
下から順にアマチュア、ノーマル、クラウンとなっている。出場している選手の殆どは素人が多く勝ち抜いた者はランクを上げていく。クラウンともなれば、その試合に賭け事が付き物である。
人気の選手にもなれば、一試合に大きな金額が流れるコトもあり、その一部が選手の資金となるのだ。
観客達の目当てもクラウンに登録されている選手が目当てで危険を犯してでも足を運び試合を観戦する。
何がそうさせるのか?
それは本能がそうさせるのかは分からない。
それでも人は闘いを求め、此処へ集まるのだ。
「ところで、人材候補と言っていましたが目星はついているんですか? 宇佐見さん」
人の波に呑まれながら先輩の後を必死に追う。
「勿論、候補となっている人物のデータも貰って来てるから」
宇佐見は上司から渡されたというデータをタブレットを使って確認した。
「候補となっているのはクラウンに登録されている三人の選手らしい」
タブレットを操作し選手の情報を見た。
三人の内、二人は男性選手で一人目は重量級選手でリング名が、Mr.ワールドで、二人目は軽量級選手でリング名は、アパチョ・・・・・・
三人目は女性選手でリング名はストリンガー・・・・・・
「三人共酷いネーミングセンスだな」
ゼルが呆れた顔をした。
「その三人の情報、もっと詳しいモノはないのか?」
リング名だけでは探しようがないとディックが宇佐見に言った。
「実は男性二人の情報はあるんだが、女性選手の詳細な情報は無いんだよ」
「隊長につかまされたな」
ろくに調べもしない情報を渡されたんだと言う、ルーサー。
ゼルもディックもうんうんと頷いた。
「じゃあ分かっている男性選手から当たりますか?」
伊勢野だけは宇佐見をフォローした。
「そうだな取り敢えず選手を探そう、見つけたら各自連絡を入れてくれ、解散!」
選手のデータを渡し、それじゃあと何処かへ行く宇佐見に伊勢野が声を掛けた。
「宇佐見さん、そっちは女性選手の試合場ですよ?」
「・・・・・・だって見てみたいじゃあ~ないか女性達がぶつかり合うキャットファイト!!」
これを逃したら見る機会なんて来ないかもしれない、と目尻が垂れ下がり鼻の下を伸ばし受かれながら女性選手の試合会場の方へスキップする宇佐見を追いかける伊勢野だった。
「ちょ、ちょっと待って下さい宇佐見さん!」
「・・・・・・、宇佐見のお守りは伊勢野のヤツに任せるか」
うん、とルーサー、ディックは頷いた。
女性選手の試合会場観客席で応援する宇佐見と共に伊勢野は傍で渡された情報を確認した。
(確かに女性選手はリング名だけで詳細な情報が無い、しかし男性選手に比べて不明の記載が多いのは何故だ?)
この任務を出した上司の姿が脳裏を過る。
(まさか意図的に?)
「タブレットとにらめっこしたって変わらないよ、それより見ろよ、女性達がぶつかり合っている試合を」
顔を上げると他の観客に混じり声援を送る宇佐見の姿を見た。
こんなコト、副隊長が知ったら・・・・・・
想像しただけで恐怖心で身体の芯が凍った。
(ああ、だから副隊長が有給消化中に・・・・・・)
上司の魂胆を理解した伊勢野だった。
「宇佐見さん、試合よりも人材候補の人物を探さなくて良いんですか?」
「その選手が今日来ているか分からないのに焦っても仕方が・・・・・・」
宇佐見が言い掛けた途中で審判が選手のリング名を叫び呼んだ。
「今日の主役ーーーストリンガー!!」
「「!!?」」
ストリンガー! 探していた女性選手のリング名。
情報によると、このストリンガーと名乗る選手は不定期に出場するのでいつ会場に現れるか分からない。
「まさか本物?」
宇佐見の提案でストリンガーと名乗る選手を監視して帰りの際に声を掛けようというコトになり、一緒に来た三人にも連絡を入れた。
「青コーナー、キリングーーーッ!!」
「赤コーナー、ストリンガーーーー!!」
一人の審判が二人の選手に近より合図を出しゴングの鐘がなった。
「ファイト!!」
カァーーーン!!!
審判が出した合図の瞬間二人の女性選手が組み合った。
青コーナー、キリングは黒と紫の色を取り入れた着衣に対して赤コーナーのストリンガーと名乗る選手は白と金の色を取り入れた着衣を着用している。
組み合わい中にキリング選手は相手選手にだけ聞こえる位に小さく呟いた。
「リングに沈めてやるよ」
相手選手のストリンガーはクスッと鼻で笑った。
それに頭にきたキリング選手は投げ技から打撃技、流れる様に相手選手に掛けるが手応えが無い。
「何で、まだ立ってるんだよ!」
キリング選手から焦りの色が見え始めると、それまで受け身の体勢だったストリンガー選手はキリング選手に組み合った。
「技ってのはこうするんだよ」
ぼそりとキリング選手に呟き、こちらも投げ技から入り続けて打撃技、諸々を相手選手に叩きこみ、リングに倒れたキリング選手を確認したらネットを固定していた頑丈な鉄柱の上に登り、そこから飛び降り大技を叩きつけた。
動かなくなったキリング選手に審判が近づきカウントを取った。
「ワン、ツー、スリー・・・・・・テェーン!!」
カウントが終わるとゴングが何度も鳴った。
審判はストリンガー選手の手を取り、その手を高らかに上げた。
「勝者、ストリンガーーーーっ!!!」
マイクで名前を呼ばれた瞬間、観客席は全員立ち上がり大声で絶叫しスタンディングオベーションが巻き起こった。
口笛を鳴らし優勝を喜ぶ観客、選手の名を泣いて叫ぶ観客、大声でガッツポーズをする観客で会場はさらに熱気を帯びた。
ストリンガー! ストリンガー! ストリンガー・・・・・・鳴り止まないスタンディングオベーションにストリンガーと名乗る選手は観客達に自分の姿を見せつけるかの様に右手を上げ天に向かって拳をかざした。
すると観客達は更に盛り上がった。
ストリンガーと名乗る選手は・・・・・・
(かぁ~っ、やっぱりストレス発散するなら此処だろ、気持ちいい~)
リングパフォーマンスをした後、リングの外へ姿を消した。リング外でもストリンガーの名で盛り上がる観客達の声が聞こえる。
もう、お察しの通りストリンガーが誰かお気づきだろう。
控え室で温まった身体を冷やし乾いた喉を潤す為にスポドリを一気に飲み干した。
「お疲れストリンガー、じゃなくって蘭」
セコンドのコーチ達が駆け寄りねぎらった。
「流石っす! 最後の大技は凄かったっす」
「ありがとう」
大勢の歓声を浴び、一仕事終えた私は制服に着替えた。
「もう上がる時間か」
残念そうに言うコーチは少し項垂れる。
「蘭、前に話した件考えてくれんか?」
「コーチ、今、その話ししなくてもいいじゃないですか!」
スタッフがコーチに注意した。
「そりゃあ、蘭ちゃんを正規の選手として雇いたいのは分かりますが、本人の意思が重要っすよ!」
「選手なら他にもいるんですし」
「しかしなぁ~」
コーチは難色を示した。
「ごめんねコーチ、その件は前にも話したじゃん」
着替えも終わり、それじゃあと控え室を出ていった。
コーチが呟いた。
「勿体ね~なぁ~」




