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12. 潜入する者達


 朝日を浴びて起床するなんていつぶりだろう。

 昨日の夕方から久し振りに自宅へ帰り溜また有給を消化中だ。

 といっても毎朝、リモートでの集会があるので面倒だが義理の妹の蘭香と家族らしい会話が出来るのは少し嬉しい。

 仕事が忙しくなると場合によっては帰れなくなる、連絡も出来ない事もあるので有給消化の間に家族サービスが出来ればと思うが正直、何をしたら良いのか皆目検討がつかない。

 そもそも、家族として生活していた時期も会話も少なかったように思う。


 兄として何が出来るだろうか・・・・・・


 こんな事なら流行りの物とかを一ノ瀬や雨宮、若い隊員に聞いておけば良かった。


 「・・・・・・動物園とか水族館、美術館か?」


 淹れた珈琲を音を立てて(すす)りながら思案するが、どれもマイナーでベタな案ばかりだった。


 「・・・・・・」


 女子高生だしなぁ~、一回り歳が離れた俺と行っても楽しくはないか・・・・・・


 パソコンの電源を付けリモートを待機中にしていると画面に人物が映し出された。


 「やぁ、おはよう、悩める民よ~」


 「・・・・・・」


 少しの間、静寂な空気が流れた。


 「開口一番に何ですか?」


 画面に映し出された人物に冷たい視線を送った。


 「相変わらず愛想もノリも悪いね~、副隊長は」


 「そういうコトは菖蒲(あやめ)や新人にして下さい」


 ハァ~とタメ息をついて画面に映る人物は話しを続けた。


 「久し振りの休暇はどうだい? 武藤副隊長」


 「いつもは固いベットなので反って、中々寝付けませんでしたよ」


 お陰でまだ、眠気で辛い・・・・・・


 「でも本当は嬉しいんでしょ? ()()()()と一つ屋根の下なんて、キャア~」


 眉間にシワが寄る。


 「リモートなのが残念です、目の前に居たら締め上げるコトが出来たのに!」


 画面に映る人物が何度も平謝りした。


 「それで、自分の有給の申請を勝手に出した理由はなんです?」


 画面に映る人物がクスッと笑った。


 「勿論、英気を養って貰うためだよ、部下の体調、メンタルを整えるのも隊長としての仕事だからね」


 武藤 仁は思った。

 表情を(ゆが)ませ、胡散臭いとーーー・・・・・・

 

 隊長ーーー、画面に映るこの人物と仕事をするようになってからずっと思っていた。嘘を着て歩いている様な人だと。

 だから、今回有給の申請がすんなり通った事に怪しんでいた。


 何かあると!


 「何だい疑り深いね~、副隊長。 私は只、又暫く出張が続くから家族との時間を作ってあげただけだよ」


 出張ーーー、俺が自宅に帰れずにいたのは、現在勤務している職種が原因である。

 他の職種とは特殊な為、長期の出張が重なり自宅に戻れない日々が続くコトもある。俺が勤める職種は世間では余り良く思われていない。

 人気が無いなんて言葉では表せない程就職率が低いのだが原因は他にある。

 それは、()()()が高いのが一番の理由だろう。誰も遣りたがらない職種、仕事内容もその一つだ。毎年人手不足で募集を掛けるが受ける者がいないのが現状だった。


 そりゃあ誰だって生命に関わる様な危険な仕事なんてしたくはないだろう。自分はその特殊な職種に適正があったから続けていられているだけで一般人からしたら避けて通れるに越した事はないだろう。


 「それより、菖蒲達に何を指示を出したんです?」


 「何の事かな?」


 「(とぼ)けてもムダですよ、自分の有給中に何をさせているんです?」


 画面に映る人物はまたクスッと笑って返した。


 「極秘任務としか言えないね」


 この人は人の使い方が上手い、有給の申請を通したのも俺の手が届かない処で他の隊員に秘密裏に仕事をさせる為だったんだろう。

 何て腹黒い上司を持ってしまったんだろう。


 「そんな顔をしなくても成果が出たら君にも報告するから、それまで久し振りの休暇を楽しんでおくれよ副隊長 武藤 仁・・・・・・」


 画面に映る人物は笑みを浮かべてリモートをオフにした。

 

 ハァ~とタメ息をつき頭を掻いた。

 

 「休み明けは気が重い」




 

 


 某所、上司の指令で現地に他の隊員と足を運んだ。

 副隊長には任務内容を極秘にとのコトで自分を含めた数名の隊員と行動している。


 自分は伊勢野菖蒲(あやめ)、とある組織の隊員の一人として働いている。組織に勤めて一年程たったが、新参者の自分が今まで生存出来たのは先輩達の教えに従っていたからである。

 きつく辛い仕事が続く中、自分には尊敬している先輩がいる。その先輩に憧れて、この職種に着いたと言っても過言ではない。


 武藤 仁・・・・・・


 組織の中でも五本の指に数えられる人物で、特に戦闘能力が高いコトで有名である。組織の顔と言ってもよい人物で一時期は各メディアが彼一色に染まる程だった。

 何処へ行っても騒がれていたが本人は、賑やかなコトが苦手で余り人の多い場所での活動は控えていた。

 口数が少なく多くを語らない寡黙な人で、鍛え上げた強靭な肉体は同じ男性でも惚れてしまいそうだ。


 武藤 仁、彼こそが理想の男性の姿である!


 自分も彼の様な背中で語れる様な大人な男性になれたらと願っている。


 「それで、此処は何処なんですか? 宇佐見さん」


 宇佐見と呼ばれた男性は答えた。


 「フフン、此処はなU(アンダー・)G(グラウンド・)F(ファイト・)A(アリーナ)、地下格闘技場って場所さ」


 自慢気にウェーブした長髪の金髪を手で(なび)かせ場所の説明を行った。


 「地下格闘技場って此処、繁華街から少し離れた郊外ですよね?」


 「地下にあるなら非合法じゃないのか?」


 「非合法も何もバレなきゃOKってコトだろ、細かい事言うなよゼル」


 「細かいって当たり前だろう、ルーサー!」


 「ゼル、ルーサー二人共、仕事前に喧嘩良くない」


 「フン!」


 「ケッ!」


 「ディックの言う通り、今回はチームで来たんだ仲良くやろう」


 「任務だから仕方が無いが、何で今回の任務のリーダーはお前なんだよ宇佐見」


 怪訝(けげん)そうな顔をするゼルだった。


 「それは俺も思った、どうせお前のコトだから根回し済みなんだろう?」


 いつものコトの様に呆れるルーサーはタメ息をついた。


 「そう、今回は俺がリーダーだから皆、俺の指示に従うように」


 嗚呼~リーダー何て言い響きだ・・・・・・と、自分に酔う宇佐見を冷ややかな目で距離を取る一同だった。


 取り敢えず地下格闘技場の中に入る一同に伊勢野は宇佐見に設置されているエレベーターが降ている間に質問をした。


 「それより今回の任務の内容は一体何ですか?」


 「そりゃあ、格闘技場なんだからコレだろう」


 ルーサーはシャドウボクシングをしてみせた。


 「格闘技に参加するのが任務内容なのか?」


 ゼルも宇佐見に聞いた。


 「格闘技に出るなら、この人数は必要ないと思うが?」


 ディックが答える。


 「ルーサー、残念だか今回の任務は格闘技に参加はしないんだ」


 活躍の場を奪ってゴメンねとウィンクで返す宇佐見は、任務内容を全員に話した。


 「格闘技場に参加した選手が、目的なんだよ」


 「参加している選手?」


 伊勢野は聞き返した。


 「そう、今回の任務は組織の人材候補を見つけるコトだ」


 「人材というコトは戦闘員・・・だから、地下格闘技場」


 「そういうコトだゼル」


 話しをしている内にエレベーターが目的地に着いた。

 エレベーターの厚い扉が開くと外とはまるで別世界の様に盛り上がっていた。

 その場に居るだけで伝わって来る会場の熱気と歓声が身体の芯まで伝わってくる。辺りの熱気と歓声に気圧され倒れそうになるのを耐える伊勢野だった。


 「す、凄いですね」


 「だろう」


 宇佐見が伊勢野に返した。


 「さぁ、お仕事開始だ」


 宇佐見の言葉に一同顔つきが変わった。

 



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