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 半年ぶりに目を覚ましたハンナは順調に回復していき、今では車椅子を使えば移動もできる状態になっていた。

 そんなハンナだったが、少し不満な事があったのである。それは外の情報を聞こうとしてもはぐらかされていっさい教えてもらえない事だった。


 どうしてなのかしら……


 ハンナはそう思いながら婚約者のエリオットの事を思い浮かべる。きっと今も心配しているはずだから目を覚ました事を伝えたいのだ。

 しかし同時に不安もあった。それはハンナが目を覚まして一カ月以上経っているのに一度もエリオットは見舞いに来なかったのだ。

 正直、その事は医者やソニアには聞けなかった。半年も起きなかったのだから、もしかしたら自分はエリオットに見限られてしまった可能性もあると思ったから。

 ハンナは頭を振ってその考えを頭の中から追い出すと、床頭台の上に置かれた小さな花束を見つめた。毎朝、気づくと新しいものに変わっているのだが、医者でもソニアでもなさそうなのだ。


 きっと、エリオット様よね……


 ほんのりと漂う花の良い香りを楽しみながら、早くエリオットに会えないかと考えていると荷物を抱えたソニアが部屋に入ってきた。


「ハンナ、調子が良さそうね」

「はい、皆様のおかげです」


 ハンナが微笑むとソニアは笑顔になりながら、持っていた荷物からカーディガンと前掛けを取り出すとハンナにかけた。


「やっと外に出る許可をもらえたから今日は少し街の方に行きましょう」

「本当ですか! 嬉しいです!」


 ハンナはそう答えると窓の外を嬉しそうに見はじめる。

 何せ、この一カ月間、病院の中庭までしか出たことなかったからだ。

 そんなハンナの背中を見つめながらソニアは怖い表情になるが、ハンナが振り返るとソニアは既に笑顔になっており、その後、二人は楽しく談笑しながら部屋を出て行くのだった。



「はあっ、久しぶりの街だわ」


 ハンナはドレスが沢山飾られている通りを眺めて頬を緩める。半年も眠り続けていたから、ドレスは全て新作になっていた。

 もちろん、キリオス伯爵家はお金がないので最新のドレスなんて買えない。ハンナはいつも型落ちした古いドレスを自分で手直しして着ている。


 帰ったら、また手直ししなきゃ。


 ハンナはそう思いながら、最新のドレスを目に焼き付けていると近くの店から一組のカップルが出てきたのだ。ハンナは目を見開いてしまった。


「フィナにエリオット様……」


 ハンナの呟きに二人は気づかず、また別の店に入っていく。そんな姿を呆然と眺めていると後ろで車椅子を押してくれていたソニアが淡々と言ってきた。


「二人共、三カ月前に婚約したのよ。ちなみにあの小娘は妊娠してるわ」

「……妊娠」


 ハンナはそう呟いた後、エリオットが見舞いに来なかった理由と誰も自分に外の情報を教えなかった事が理解できた。


 半年間も起きなかったらそうなるわよね……。でも、それでも……


 ハンナは「どんな事があっても僕が必ずハンナを守るよ」と言ったエリオットの言葉を思いだす。


「エリオット様……」


 そう呟いた瞬間、ハンナの頬を涙が流れおちていく。その涙をソニアが優しくハンカチで拭くと後ろから抱きしめた。


「さあ、帰りましょう」

「……はい」


 ハンナは力無く頷くとソニアに連れられ病院へと帰るのだった。



「あの男はあの小娘が妊娠したのがわかると同時にハンナとの婚約を解消したのよ」


 病院へ戻り、落ち着きを取り戻したハンナにソニアはそう説明する。


「……仕方ありませんよ。いつまでも起きないままでは、エデュール伯爵家だって不安でしょう。でも、フィナの婚約者だったルーカス様は大丈夫だったのですか?」

「……ええ。向こうも婚約解消したわよ」

「そうですか。それはルーカス様に申し訳ない事をしてしまいましたね」

「それなら、今度、本人に直接言ってあげなさい」

「私の顔など見たくはないでしょう……。ルーカス様の人生を滅茶苦茶にしたのですから……」


 ハンナは力無く笑うとソニアは首を振る。


「むしろ感謝してるわよ」

「えっ?」


 ハンナは驚いてソニアを見るが微笑むだけで何も言わずにハンナを横にすると部屋を出て行ってしまった。

 しかし、ハンナは微かにだが、ソニアの呟きを聞いてしまったのである。「私も感謝してるわよ」と。しかしどういう意味で感謝しているのかハンナはいくら考えてもわかることはなかったのだった。


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