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Episode.4 激怒と見習い執事


 これは、登校中のこと────


 「なあ、昨日のことまだ怒ってんのか?」


 「別に、怒ってませんけどッ!?」


 どう見ても怒ってるようにしか見えないんだが……。


 昨日の一件以降、有沙はずっとこの調子だ。


 確かに有沙を襲うと勘違いさせてしまった俺も悪いが、もとはと言えば、日頃から俺に何でもかんでもさせている有沙が悪い。


 靴下を脱ぐのだって普段有沙が俺にさせていることだったし、第一、不用心極まりない格好で寝そべっていたのは有沙の方だ。


 しかしまあ、良い機会かもしれない。ここで一言言わせてもらおう。


 「あのな、勘違いしているようだから言っておくが、俺はお前の執事であって、奴隷じゃないからな? 昨日のことだって、常日頃お前が俺に何でもさせてるのが原因なんだからな?」


 そう言うと、有沙はキッと鋭く睨み付けてくる。


 「そんなことは、奴隷みたいに働いてから言うのね!」


 「て、てめぇ……」


 流石に俺も我慢の限界だ。この待遇が改善されないのであれば、俺にも考えがある。


 「なら、俺はもうお前のために何もしないからな? 俺がどれだけの働きをしてきたか……その身で実感してみると良いぜ!」


 「別に、ソラタがいなくても何の問題もないんですけど? 思い上がりも良いところね!」


 「ああそうかよ。なら、思い上がりかどうか試してみろよ」


 俺はその言葉を最後に、有沙を置いて、先に学校に向かっていった────



 ────。



 「ソラタ、今日は随分と機嫌が良さそうだな?」


 俺が自分の席に着くと、前から直也がそう言ってくる。


 「ああ、今日からあのわがままお嬢様に振り回されることなく生活できるからな! いやぁ、気持ちが楽だわぁ……」


 有沙に関わらなくて良いというだけで、これ程気分が違うものなのかと自分でも半ば驚きながら、俺はうーんと伸びをする。


 「そうなのか? 執事にも休みとかあったっけ?」


 直也は不思議そうに首を傾げて尋ねてくる。


 「いやいや、俺がいなかったらどれだけ不便かアイツにわからせるために、ほっておくことにしたんだよ」


 「何だ、また喧嘩したのかー? 相変わらず仲良いな、お前らは」


 「どこがだよ。喧嘩するほど仲が良いとか嘘っぱちだからな、アレは」


 俺は直也の発言を完全否定する。実際、有沙と仲が良かったことなんで一度もない。


 「でも、いっつも鳴宮の傍にいるお前、結構羨ましく思われてるんだぞ?」


 「なぜに?」


 「いやだって、鳴宮ってかなりの美少女だし、男子からの評判はもちろん、女子からも一目置かれてるからなー。噂では鳴宮とお前が付き合ってるんじゃないかとか──」


 「ないな」


 俺は再び直也の発言を完全否定する。


 全く勘弁して欲しいものだ。誰が好き好んであんなわがままお嬢様の世話をしてると思ってるんだか。俺とアイツが付き合ってるとか……全く想像できない。


 第一俺の好みのタイプじゃない。確かに有沙が美人であることは認めるが、俺はもっと優しくておしとやかな人が好みだ。


 そう、俺が中学一年のときに出会った()()()みたいな……。


 「どうしたんだソラタ?」


 どうやら俺は柄にもなくボーッとしてしまっていたらしく、直也が顔を覗き込んでくる。


 「あー、いや何でもない」


 またどこかで会えたらいいのだが……残念ながらどこに住んでいるかは知らない。年齢も近いはずだが、どこの学校に通っているのかも知らない。


 知っているのは『美織(みおり)』という下の名前のみ────



 ────。



 昼休みになった────


 普段なら、昼食時も有沙の傍を離れることはなく、持参したお弁当を教室で食べる有沙と同じように、俺も教室でお弁当を食べるのだが、もうそんなことは関係ない。


 「本当に傍を離れてて良いのかー? 喧嘩中とは言え一応仕事だろ?」


 食堂へ向かう途中、直也がそんなことを言ってくる。


 「良いんだよ、ほっとけほっとけ」


 俺は、有沙の護衛としての役割も同時に担っているため、確かに傍を離れているのは仕事を放棄していることにはなる。しかし、学校の中なのだから、不審者に付き纏われたり誘拐されたりなどの心配はないはずだ。


 そんな調子で食堂へ到着。


 広い部屋に椅子と机が多く並べられているが、そのほとんどが生徒で埋め尽くされている。


 そんな中、一つ空いている席を見付けたので、その席を確保すべく、直也が食券を買って料理を注文している間に、今日も妹の彩葉が作ってくれたお弁当を持参している俺が先に座っておく。


 パカッと二段のお弁当の蓋を開ける。一段目には純白に輝くお米が詰まっており、二段目には色とりどりの料理が入っている。


 流石『桐野江』の血筋でメイド道を歩んでいるだけのことあって、その料理のどれもが実に美味しそうだ。


 俺もある程度料理が出来るように仕込まれてはいるが、やはり彩葉には敵わないだろう。


 俺がそう自分の妹を絶賛していると、近くから声が聞こえてくる。


 「あちゃー、やっぱ席ないねー」


 「ええ……どうしましょうか」


 二人とも少女らしい。ちょうど俺の後ろを通り過ぎようとしている。


 俺が座っているこのテーブルには椅子が四つ。直也が来ても二つ余る。


 「あの、相席で良ければ──」


 俺は振り返り、そう提案しようとする。二人とも手にお盆を持っており、一人は茶髪ショートヘアーの少女で、その隣を歩くのは、少し編み込みを入れた黒髪ロングの少女。


 あれ……?


 この黒髪ロングの女の人に見覚えがある気がする。俺が言葉を止めて、思わずじっと見ていると────


 「あ、もしかして執事君ではないですか!?」


 その黒髪ロングの少女が驚くように目を丸くしてそう尋ねてくる。


 『執事君』。その呼び方で完全に思い出した。


 「え……美織さんッ!?」


 思いもよらず、こんな場所で初恋の人と再開しました────

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