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Episode.2 ゲームセンターと見習い執事


 シュウィーン。


 そう静かに自動ドアが開くと、一気に騒々しくなる。


 種類様々なゲーム機が配置されており、割と多くの人数で賑わっている。ゲームの効果音やら、店内に流れるBGMやらの音が、身体に響く。


 「う、うるさい……!」


 有沙にとって、恐らく人生初であろうゲームセンターでの最初の一言はそれであった。


 両手で耳を押さえ、少しでも店内の音を和らげようとしている。


 「で、何かやりたいゲームでもあんのか?」


 「んー、よくわからないわ」


 何じゃそりゃ。


 ゲームセンターに行ってみたいと言うくらいだから、何かやってみたいゲームでもあったのかと思っていたが、別にそういうわけではなかったらしい。


 「ソラタ、何かオススメのゲームとかないわけ?」


 「オススメのゲームかぁ……」


 俺は有沙の要望に応えるべく、店内を見渡しながら、初心者でも簡単に楽しめそうなゲームがないか探してみる。


 正直俺もゲームセンターにはそこまで詳しくないので、どのゲームがオススメかはよくわからないが……


 「アレなんてどうだ?」


 俺はカーレースのゲーム機の方を指差す。大体どこのゲームセンターにもある、有名なゲームキャラクターを操作してレースするやつだ。


 俺は有沙と共に、並んで座席にに腰掛ける。そして、お互い財布から百円玉を取り出し、挿入口に入れる。


 ピロリン! といういかにもゲームらしい効果音が鳴り、操作するキャラクターや使う車の種類を選択する。


 「どれが強いとかあるのかしら……」


 隣でむむむと唸りながら、有沙がキャラ選択画面を凝視している。


 「好きなキャラでいいと思うぞ?」


 「そう」


 有沙はそう短く答えると、桃色のドレスを(まと)ったお姫様のキャラクターを選択し、いよいよレーススタート。


 スリーカウントの後、俺はアクセルを踏み込む。流石の有沙でも「どうやって前に進むのよ!?」とはならず、きちんとアクセルを踏んで、ハンドルを握っている。


 俺も有沙も大して実力の差はなく、最終コーナーを回り、最後の直線に入ったところで、俺の車のほんの少し先を有沙が行く形となっている。


 このまま行けば恐らく有沙の勝ちだろう。そして、俺は見習い執事として有沙に仕えている身。ここは有沙に花を持たせるべきだと思う。


 俺は有沙の操作する車の真後ろに入る。そして────


 パシィ。


 ハンドルの中央にあるプラスチックのボタンを軽く叩く。


 すると、何ということでしょう。


 いつの間にかゲットしていたらしい甲羅のアイテムが真っ直ぐ発射され、俺の車の前を走っている有沙の車に狙い違わず直撃。有沙の車はくるくるとスピンし、横にズレながら大きく減速。


 “一着!”


 俺の画面にでかでかとそう表示される。


 俺と有沙の間に微妙な沈黙が流れる。


 「さて、他にやりたいゲームあるか?」


 俺は座席から立ち上がり、学校指定の鞄を肩に担ぎながら尋ねる。


 「ねえ」


 「何?」


 不満ありありという感じのジトっとした目付きで俺を見てくる有沙。


 「私が勝ってたわよね?」


 「そうだな」


 「でも一着はソラタ」


 「そう表示されてるな」


 「私、あとちょっとのところで車が回転したんだけど」


 「運が悪かったな」


 有沙の目が一層細められる。


 「ソラタ、何したわけ?」


 「まあ、奥の手は最後までとっておくものだ……という良い勉強になっただろ?」


 「む、ムカつくぅううう……ッ!?」


 どうやらこのゲームは、有沙には合わなかったようだ────



 その後のゲームでも、俺が一位で有沙が二位という結果は揺るがなかった。


 有沙はそれが何より気に入らないのか、一時間程経ってもゲームセンターを出ようとはしない。


 あんなに騒音に感じていた店内の音も、耳が慣れてきたのか、さほど不快には感じない。


 「次、アレやりたい」


 「うっわ……」


 有沙が指差したのは、個室形式になっているゲーム。部屋を取り囲む壁に描かれたゾンビやら血痕やらが、どんなおぞましいゲームであるかを物語っている。


 「アレは……オススメしないぞ?」


 「良いのッ!」


 完全にむくれている有沙は、俺の忠告など聞かず、そそくさと部屋に入っていく。俺もその後を追うように入室し、横長の椅子に有沙と並んで座る。


 案の定目の前には両手で操作する銃が置かれていて、大きなスクリーンには、グロテスクな光景が映し出されていた。


 横目で有沙の表情を確認してみると、かなりしかめっ面だ。本人もあまり乗り気ではないらしい。


 「ほら言ったろ? 他のゲームに……ってか、そろそろ帰ろうぜ?」


 「うるさい! 良いからやるのッ!」


 「はいはい……」


 こうなった有沙は何を言っても聞かない。仕方がないので、俺は財布から残り一個の百円玉を取り出すと、それを挿入口に入れる。有沙も同じようにする。


 そして、二人プレイを選択すると、早速ゲームが始まった────



 『ぐぇあぁあああッ!!』


 ダダダダダダダッ!


 不健康極まりない肌の色をして、迫ってくるゾンビに照準を合わせ、トリガーを引く。


 鳴り響く銃声と共に、血が飛び散るエフェクトが表示される。


 一通り倒し終えると、いかにも怪しげな部屋に向かっていく──という画面。


 俺はそのつかの間の平和を利用して、先程からあまり射撃を行っていない有沙の方をチラリと横目に見る。


 銃を握る手は微かに震えていて、栗色の瞳がいつも以上にキラキラとしているのは気のせいではないだろう。


 だから言ったのに……。


 そう思った瞬間────


 画面に、いかにも強そうなゾンビが屋根から落ちてくるのが映し出されるのと同時、ズンッ! という衝撃が椅子越しに伝わってくる。


 どうやらこの椅子は音響だけでなく、振動までも伝えてくるらしい。


 「いやぁあああッ!?」


 俺でも少し驚いたぐらいだ、流石に我慢出来なかった有沙が、目尻に涙を浮かべながら、俺の左腕に抱き付いてくる。


 「うおッ!?」


 俺も違った意味で驚きの声を上げてしまう。


 しかし、そんな間に、大きなゾンビが腕を振り上げて一薙ぎしてくる。どうやらプレーヤーである俺達にダメージが入ったらしく、爪痕のエフェクトが表示されると共に、五つあるハートマークが二つ減る。


 俺は急いで照準をゾンビに合わせ、銃のトリガーを引く。ただ、左腕を有沙に拘束されているので、照準が上手く動かせない。


 「お、おい、動けないから離してくれ」


 「嫌……ッ!」


 俺の左腕に、有沙の震えが伝わってくるのだが、それ以上に何か柔らかな感触が伝わってくるので、ただちに離してもらいたい。


 画面のハートマークがみるみる減っていくが、それとは裏腹に、俺のハートが恐怖ではない別の感情で高鳴っていく。


 そして、照準を動かせないどころか、実質一人しか射撃していないことが原因で、ハートマークは全損。ゲームオーバーになってしまった。


 ゲームが終わると、部屋の中が少し静かになる。


 「おい、ゲーム終わったぞ」


 「……」


 そう伝えるも、有沙は黙ったまま俺の左腕に張り付いている。有沙の早打ちする鼓動まで伝わってくるのだから、相当強く抱き締められているのだが、その鼓動に負けないくらい俺の鼓動も早い。


 「おい有沙……?」


 「……もう帰る」


 「りょーかい……」


 一気に元気をなくした有沙を連れて、俺はゲームセンターを出た。あちらこちらに“夏祭り”と書かれたチラシが貼り付けられているのが横目に映ったが、そんなことを気にする余裕はなく、ただただ気まずかった。

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