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銃の見做し児②

 銃――それは“魔器”と称される、根幹に魔術を組み込まれた武器のひとつであり、遠隔武器に分類される。

 投擲(スローイング)(ボウ)などの人力や十字弓(クロスボウ)などの物理的動力ではなく、魔術の力によって弾丸を撃ち出したり、種類によっては魔術そのものを射出する。特に後者は“魔銃”や大きなものは“魔砲”と称され、巨獣や魔獣への対抗手段としても確立した。


 それはここ、フリュドリィス女王国(クイーンダム)にて発祥した近代兵器の革命的存在であり、力を持たない女子供であっても容易に命を奪うことが出来る代物だった。

 銃の台頭により女王国(クイーンダム)は軍事国家として大成し、小国としての領土を僅か十数年で倍に拡げることに成功した。


 女王国(クイーンダム)は極めて豊富な鉱物資源を有しており、特に結晶化した霊銀(ミスリル)の鉱脈の上に根差していた。

 霊銀(ミスリル)は常温・常圧では気体の性質を取る極めて稀な金属だ。それが凝縮して固体となった地盤の上にあるのだから、国が出来た当初は魔術士たちの研鑽の盛んな国だった。

 しかし魔術士でない者にも魔術の恩恵を、と、魔術を技術へと転化させる取り組みが強く推され、近隣諸国から持ち込まれた機械文明を魔術で再現させる試みが功を奏し、国は金属光沢に塗れていった。


 無論、それらの技術は最も軍事に深く取り込まれていった。

 その結果生まれたのが魔器であり、他国で造られた巻取機構(リール)の備わる強弓(コンパウンドボウ)や圧力発条を用いた投射機(カタパルト)とは一線を画したその技術は歴を重ねるごとに遥かに強力に、そして多岐に渡るものとなっていった。



   ◆



 ヴォッ――鉛の弾頭を打ち込まれた天獣は、主材である炎に分解されて霧散した。

 立ち上る翡翠色の輝きの後に周囲を白けさせた煙の中から、炭化した霊銀(ミスリル)の結晶が地面にぽとりと落ちる。


(あと一体――)


 ズダンと撃ち出された弾丸はしかし、鋭く旋回した天獣の横を擦り抜けて遥か彼方へと消えていく。天獣は本能で察知した。動かなければ殺られる、と。

 知性は無くともその身体が理解している。戦闘とは互いに互いの厭う行為を押し付け合うことであり、不用意に近付けばあの少女に喰われ、あの男は遠く届く強力無比な攻撃手段を持っている。だから天獣はまずはあの男を、撃ち出される弾丸を搔い潜る速度(スピード)で翻弄しながら動かなくなるまで甚振(いたぶ)り、彼が沈んだ後で遠くから吐く炎の熱で彼女を焼き殺すことを画策し、それを実行に移した。


「ちっ」


 舌打ちの理由は、彼が創り上げた鳥銃(マスケティア)の取り回しの悪さだ。

 鳥銃(マスケティア)は銃の中でも長距離用の、銃床(ストック)を備えた砲身(バレル)の長い銃であり、その分重く造られている。

 大きさと重さを持つ上に、速射性に欠けるのだ。だから動かない相手を遠くから狙撃するのには向いているが、素早く動く敵を中距離あるいは近距離で撃ち抜くには向いていない。


“換装”(コンバート)――“双銃”(ピストレロ)


 鳥銃(マスケティア)を棄却し、次いで取り出したのは倒れたL字型の小さい銃だ。それを二挺、両手に保持する。

 小型な分、火力には劣るが取り回しと速射性には優位性のあるそれを構え、中空を舞う天獣に狙いを定め引鉄(ひきがね)に力を込める。


 連なる破裂音とともに射出された弾丸は五発目にして漸く天獣の頭を掠め、十二発目で左の翼を貫いた。


「――ッ!!」


 音なき声を発し地に墜ちた天獣に歩み寄った彼は、立ち上がり飛び出そうと翼を拡げた天獣の脳天に最後の一発を見舞った。


 ヴォッ――炎が散り、地面に炭化した霊銀(ミスリル)結晶が転がる。


「意外と時間かかったね」


 双銃を棄却して結晶を拾い上げた彼は、振り向きながら浅い溜息を吐いた。


「諸々調整が必要だ。今の()れでは、こうも飛び回る相手にはなかなか上手く弾を当てられない」

「山犬ちゃんは楽勝だったのにね」


 にこにこと屈託の無い笑みを湛える彼女に悪気は一切無く、そしてそのことが彼が次に吐いた溜息をより深める原因だった。


「当たり前だ、山犬。何故ならお前は、器としては()の創った最高傑作だからな。魔器があって漸く一人前の己れとは基本性能(スペック)が違う」


 あからさまに嫌気を灯した表情だったが、山犬は素直にえへへと照れ笑いを浮かべた。その様子に、彼は再三の溜息を吐く。


「しかし試運転としては上々だ。課題は多いが、幸い()()()()

「え、もしかして、またいただきます出来る?」

「ああ――そうら」


 遠く目を細めると、先程と同じ(カイト)型の天獣が新たに西の空から飛んでやってくるのが見えた。

 額に手を翳してそれを視認した山犬は笑んだ口の端に涎を滴らせる。


「わぁい、おかわりだ!」

「……悪食」

「好き嫌いはしちゃ駄目なんだよ? 知らないの?」

「ああ、知らないね。というか己れたちにはそんなことを教えてくれる親なんかいなかっただろ」

「あ、そうだった」


 四度目の溜息。近付いてくる敵影に、彼は新たな銃を創り上げんと五指を開く。


「今度はどんなやつ? エロい? エモい? エゲつない?」

「検証する項目は多岐に渡る。先ずは今の己れが使える銃の性能を確かめる」


 右腕に展開された魔法円は銃床(ストック)を備えた大振りの鉈のような輪郭となる。先程の鳥銃(マスケティア)に似ているが、砲身がやや短い。


“猟銃”(シャッセ)――今度は中距離での、多面銃撃を検証する」

「山犬ちゃんもぐもぐタイム?」

「ほどほどにしろ」

「うん、わかった。お腹八分目までにしておくね」

「馬鹿か。無限の八割は結局無限だろ」

「あ、そっか。じゃあ……」

「己れが撃ち漏らして、お前の方に行った奴だけにしろ」

「えー?それだと、十匹いたら七匹はごちそうさまじゃない?」


 彼は手を側頭部に遣り、がしがしと掻き毟りながら溜息を吐いた。


「……それは己れが、()()()()だと言うことか?」

「え? 違うの?」


 ぎろりと睨みつけるも、少女は相変わらず間の抜けた笑顔のままで首を傾げている。

 時として悪意の無い言葉はどんな刃よりも深く相手を傷つけるものだと、彼は脳裏に溜めたいつかの誰かの言葉を心の中で反芻していた。

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