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「ノヱル、神を否定しろ」—Noel, Nie Dieu.—  作者: 長月十伍
Ⅸ;EL (Everlasting Lackluster)
158/201

真性にして神聖なる辰星の新生⑧

   ◆




 気が付くと、彼はその場所に立っていた。

 焼け落ちても尚、荘厳さと雄大さとを以て聳え立つ大聖堂――()()()()()()()黒い炎によって黒く焦げ付いた、その大きな扉の前に。


 ぱきり――一歩脚を踏み出すと、そこに横たわる黒く焦げた棒状のものを踏み(しだ)いた。

 それが腕だと気付いたのは、棒状の()()までに視線を泳がし同じく黒く焦げた焼死体を視認した時だった。


 はっとして、ぱっと脚を引いた。


 眼前に広がるのは無数の焼死体、それが累々と横たわる光景だ。

 皆一様に黒く焦がれており、エディはその原因が自らであることに悲鳴を上げようとしたが、より先に吐瀉物を撒き散らしたおかげで声を上げることは無かった。


「――――っ」


 ギリ、と強く奥歯を噛む。

 エディは呪われた聖剣に刺されたことで始まった中途半端な異骸化(アンデディング)の影響によりそうなって以降は殆ど何も口に入れることが出来なかった。

 だから口から出て来たのは胃液でしか無かったが、それが喉を焼く痛みに眩暈を覚えながらも、だが確りと前を向いて()()を見渡した。


(これが、俺の罪――――)


 分不相応な力を欲した。それで多くを犠牲にし、聖都一つを丸々混乱に陥れた。

 だから今の彼にはどうして今自分がここにいるのかは判らないでも、無意識に足が向いたのならば何か意味があるのかもしれないと、そしてそれはきっと自分の罪を自覚することなのだと足が進むまま、(いざな)われるままに歩んだ。


 黒々とした死屍累々の奥にはやはり黒く焦げた聖像があった。

 だがそれは倒れ、麓の台座も拉げている。

 そこに、空いた穴をエディの両の眼は見逃さなかった。


 片方が黒く変色した双眸で垣間見た穴は、下り階段の形をしている。


(呼んでいる――俺を、呼んでいる)


 どくりと心音が高鳴る。

 そしてエディはこの――――聖天教団の最たる聖地であるここ、サントゥワリオ大聖堂の地下に、()()を発見する。


 どうして彼がその大役を担うことになったのか。

 一体誰が彼をその場所に誘ったのか。


 結局彼も、この物語の重要な鍵を握る一人(キーパーソン)なのだ。


 ――それが、善き運命か・悪しき宿命かはさて置いて。




   ◆




 一方、聖都郊外に到着し避難してきた民達を受け入れながら神の軍勢に対抗し続けていた【禁書】(アポクリファ)()()()は混乱していた。

 一体何が起きているかは判らないが、天使や天獣と言った軍勢が悉く自壊していくのだ。


 だがどう考えてもそれは好機である。

 故に総隊長として指揮を執るステファノは教団本部への侵攻を指示、ガークス支部長が現場での指揮を執るため部隊を率いて聖都へと踏み入った。

 パールスにて【闇の落胤】(ネフィリム)の襲撃を返り討ちにした【禁書】(アポクリファ)だが、その立役者である山犬や冥ら“神殺し”(ヒトガタ)が帰って来ないことには大きく嘆息したものだ。

 しかし彼らは強敵を目前に逃げるような弱輩では無い――そう信じ、きっと何らかの理由があり姿を消したのだと。そしてそうなっても尚、教団を討とうとする意思は変わらないと。

 奮起し、彼らはここまでやって来た。


 やがて聖都に火の手――しかも()()――が上がっているのを見、また直後神の軍勢が強襲を仕掛けたことに半ば困惑しつつも、聖都から溢れて来る逃げ惑う民達を救うため力を振るうことに抵抗など一切無い。

 そしてその折に運び込まれた少年戦士――ガークスはその姿を見て、彼に降った悲運の苛烈さを思い知った。


 エディ・ブルミッツは、半屍半生(デミ・レヴナント)となってしまっていたのだ。


「――エディ、済まない……」


 懺悔のような、贖罪のようなその声も、だが彼には届いていない。

 ただ少年戦士は横たわった担架の上で、聖都に未だ上がる戦火をじっと見詰めていた。

 不可解なことに自壊を始めた軍勢に、時折心音を高鳴らせながら、ただただじっと見詰めていたのだ。


 そんな彼が、どういうわけだか急拵えの救護テントから姿を消したと報告を聞いたガークスは、咄嗟に走り出していた。

 周囲の制止の声など聞こえていても身体はもう止まらない。

 エディが何処に行ったかなど、彼には判る筈も無いが、しかしその大柄な身体は一直線に()()を目指していた。


 サントゥワリオ大聖堂――――聖都の中心に聳え立つ、荘厳で雄大な教団の聖地の中心。

 元々そこは【禁書】(アポクリファ)の目標地点だった。だからきっと、エディはそこにいると。

 ガークスは走り、やがて黒く焦げた道の上に座す荘厳で雄大()()()全焼した黒焦げの建造物を前に立ち止まる。


 切れた息を整え、死地へと赴くかのような覚悟を決めさせるには、大聖堂から漂う雰囲気は十分だった。

 そしてごくりと喉を鳴らし、いざ赴かんと太い脚を一歩踏み出した時――――


「ガークスさんっ!」

「――お前達、」


 そこに現れたのは、ミリアムとサリード、そしてバネットの三人だった。彼らは神の軍勢による“粛聖”(ジハド)がこの地に降り注いでからは聖都民の避難誘導を主に、それに伴って天使や天獣たちの撃退に従事していたが、それが落ち着くとガークス同様にエディを追ってこの大聖堂へとやって来たのだった。


 だが彼らもまたエディの行方は知らない。つい先程郊外の同胞と連絡を取り合い瀕死のエディが運び込まれたことを知ったが、その直後に行方を晦ましたことと、そしてガークスがそれを捜しに聖都へと単独で向かったことを知ったばかりだ。


「考えることは同じか……」

「エディ坊なら、あんなことになってもここに来るだろうってな」

「しっかし……何かキナ臭ぇっすよね」

「そうね……軍勢の襲撃が落ち着いたのはいいけど……何だか凄く、嫌な予感がする」


 未だ聖都を包む黒い火は収まり切っていない。だと言うのに、戦火を伴いながら吹き荒ぶ風はどこか肌寒い。

 意を決して闇を孕む大聖堂の中へと踏み入った四人は、そこに広がる惨状に顔を顰め、そして入口から直ぐの所に吐き捨てられた未だ温みを持つ吐瀉物にエディの存在を確信した。


 やがて彼らも、先程のエディのように倒れた聖像の元あった地面に隠されていた下り階段を見つけ、更なる戦慄に目を細める。

 彼らは戦士だ。だからその暗い穴から漂う恐怖に身を竦ませる愚など取らない。


「……教団によって秘匿された何かがあるってことか」

「行くっすよ。エディ坊も待ってるっす」

「急ぐ必要あるかもだけど、慎重に」


 特に三人――ミリアム、サリード、バネット――はつい最近までエディと行動を共にしていた。また、彼の覚悟や想い、そしてそれらを踏みつける様なあの聖剣の仕打ちを目の当たりにしている。

 彼のためを思えば、より戦士としての力量は増徴されずにはいられなかった。


「――儂が先陣を切る。ミリアムは中央、サリードとバネットは横並びで殿(しんがり)を」


 ガークスとて、エディを選抜した者としての責任感に心を燃やしている。

 だから四人は段差を踏んで下っていく。

 覆い被さるような闇はミリアムの魔術で切り裂いて。

 包み込むような戦慄は四人の軍靴の音で跳ね除けて。



 その、数分前――――冥もまた、しかし彼らとは違う理由でこの闇に身を投じていた。

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[良い点]  エディ、キター!  信じてた。ああ、信じてた!
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