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勝利の凱旋


「バハール様!バハール様!」


 老若男女の声が重なり合って、未来の国王の名前を呼ぶ。彼らが名を呼ぶバハールは、人2人分はあろうかという体高のゾウに跨り、臣下の行列を引き連れ、花びらの吹雪の中、王都の通りを練り歩く。

 後ろには、将軍や部族の(おさ)達がゾウや馬、駱駝に乗って続いていた。軍人貴族や平民、遊牧民部族出身の兵士の隊列がさらに続き、数千人の大行列が、王都の入り口である孔雀門から、王宮の前の白壁の門まで行進する。


 群衆たちは歓喜の声を上げ、大人も子供も、絨毯(じゅうたん)売りも靴職人も、肉屋も果物売りも、(かご)から掴んだ花びらを、彼らの行列に向かって放り投げる。バハールは舞い散る花びらの中、象の上で凛々しい顔に自信にあふれた笑みを浮かべ、群衆に向かって時折手を振った。彼女の後ろを歩く将軍や兵士たちも、誇らしげな笑みを浮かべ、胸を張って堂々と手綱を引き、馬を歩かせる。中には、家族友人に名を呼ばれ、表情を崩して照れ笑いを浮かべたり、涙を浮かべる兵士もいた。


「麗しいお方ね!」

「バハール様にはアスマーリも敵じゃねえ」


 群衆たちは、太陽に照らされる一行の姿を拝みながらつぶやく。バハールの後ろ盾は、都市の民衆、そして、軍人貴族と遊牧民である。王都の民衆は特に、第一王子が暗殺されてから、ずっとバハールを支持していた。バハールが十代のころから、その美しさと強さで評判だった。

 その上、現国王や第二王子、第四王子と違って、神官びいきでもない。神官嫌いの軍人貴族や、軍に仕える遊牧民たちは、バハールが国王になることで、神官の増長が抑えられ、自分たちの取り分が増えることを期待していた。


 バハールや兵士たちが身に付ける絹の軍服、彼らが腰に下げる、赤や緑の宝石で装飾された金銀の鞘が、まぶしく陽光に煌めいていた。


「野蛮だな」

「軍人どもが国を支配するのかと思うと、全く恐ろしい」


 光に溢れる大通りを歩く行列と、バハールを崇敬する群衆の後方。土壁がつくる日陰の中で、ひそひそと呟く二人の男がいた。二人組は、長い純白の衣装、神官の制服を着ている。


「ラウーフ様はあの女豹(めひょう)に目をくらまされているという噂を聞く」

「いや、ラウーフ様も御年16歳だ。そろそろ目を覚まされる頃だろう。」

「そうかな。一番色に弱い歳だろう。」


 神官たちは、彼らの頂に立つ神子の姿を思い浮かべながら会話を続ける。誰よりも神々しいその少年が、第二王女バハールを過分に慕っているのは明白だった。色恋の感情まで抱いているとは、認められないにしても。


「だが…。こんなことを言っては不敬だが、ラウーフ様おひとりがバハールを支持しようと、神殿としては…ジャマル様や他の大神官の力が大きいだろう?」

「君、もしや…。いや、神殿が神子の意志に反することをするのは…」


 神官たちは裏通りに入って、会話を続ける。のっぽの神官の言葉に対し、背が低い神官は、歯切れの悪い言葉を返す。


「いや、神子もいずれは我々の正しさに気がつくさ。それが精霊の意志だ。」


 のっぽの神官は、気弱な同僚の肩に手をのせ、言葉をかける。背の低い神官は、難しい顔をして、頭を振った。二人は行列に背を向けて歩き、迷路のように入り組んだ裏路地へと姿を消した。







「本当の戦はこれからかねえ」


 二人の神官の姿を、小型の双眼鏡越しにのぞき込んでいた男は、レンズに映る人影を見ながらつぶやく。アスブは面倒くさいのか、不安なのか、うれしいのか分からない表情を浮かべて、屋根の上を飛び移りながら、さらなる情報を集めに行った。


✧✧✧


 大行列の先頭を歩くバハールは、白い城壁が反射する太陽の光のまぶしさに、目を細めた。そこで、門の前にたたずむ、白い人影に気が付く。


「ラウーフ」


 そして、彼女を待つ人物の名前を呼び、右手を高く上げた。


「バハール様!」


 ぱっと満面の笑みを浮かべたのは、褐色の肌に黒髪を持つ彼女とは対照的な、白い髪と白い肌を持つ少年だ。ラウーフは、神官や民衆の目も気にせず、愛しの王女に、大きく手を振り返した。

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