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預言を信じた少年

「あなたは王になられる」


彼は言った。白い髪に、何色もの色を反射する瞳、何とも言えぬ、美しき声。まさに、神の意思を伝える神子。

私は二十年、その言葉を信じた。


父が病に倒れた後、兄達を殺し、王となって、メラザイブを統べた。


やはり神の意志は私にあったのだと、玉座についたときに思ったものだ。しかし、王とはいえ、意のままにならぬことは山ほどある。アスマーリは言うに及ばず、将軍や奴隷すら、王に歯向かう。メラザイブの王など、宇宙では蟻のような存在に過ぎなかった。


それに、例えアスマーリの皇帝とて、すべてを操ることはできない。明日の天気も、厳しい熱さも、洪水も、鼠や虫が運ぶ病も。


しかし民は、凶作、彗星、日食、大雨…すべて王の失政のためだと信じている。民の怒りを鎮め、未来に希望を持たせるには、神の意志を伝える者達の力が必要だった。


民を扇動し、武力を誇る軍人どもを抑え、従えるにも、神の声が必要だったのだ。


✧ ✧ ✧

だがやがて、神の声を失う時が来た。


「アジズ様。次の神子は、虹の瞳を持つ、異教徒の子になるでしょう。私が死んで後、しばらくは見つからないが…。やがていずれ、必ずやメラザイブを導くために現れる。」


「心配は御無用です。私の命も、あなたの命も、人生も…すべては、神の指先が描く軌跡なのですから」


そう言い残して、シャラブ様は彼方の楽園へと旅立った。神の意志を伝える者は、誰もいなくなったのだ。それでも私は、神の意志を信じ続けた。


この世のことはすべからく、神の意志のもとにある。


そう信じると、どれほど恐ろしい道であっても、逃げ出さずに歩み続けられるものだ。


✧ ✧ ✧

神の使いを失い、何年もの歳月が流れた後。



「どうして母上は殺されたのですか」


私よりも妃に似た息子は、大きな紫の瞳から涙を流し、私に尋ねた。その隣では、兄とよく似た気丈な娘が、涙も流さず、黙って私を見あげている。


彼らの母、我が后ザハブは、美しく、聡明な人だった。武人のような魂を持ち、よく私とメラザイブに仕えてくれた。しかし、大神殿と衝突し、神官貴族である側妃の仕業か、どこかで毒を盛られて、この世を去った。


私は、息子と娘を抱擁しながら、二人に語りかけた。


「ヅァトール、バハール。そなたらの母は、立派な后だった。何も罪など犯していない。だが、彼女を殺した者も、罪人ではない。」


「これは、神の意図されたことなのだ。」


私を見つめる四つの瞳が何を思っているか。

その時の私は、真には考えなかった。


✧ ✧ ✧


「あのころは…軍人どもがのさばり、メラザイブは、いくつもの荒くれ者の集団が競う、砂漠に戻るところでした。」


「なればこそ、アジズ様は剣ではなく神による政治を行うため、神殿に力を与えた。」


「バハール様は、アジズ様が築いたこの国の基盤を壊そうとしておられる。全てが砂に消えてしまう‥‥」


寝たきりの、寝台に横たわる老いた王の側で、腹心のサジルは不安を吐露していた。


アジズは、白く濁った瞳を、声の聞こえる方に向ける。


数十年、王を支えてきた腹心の髪は、すっかり銀髪になっていて、声は苦しげにしわがれていた。アジズより健康体ではあるが、最近は時々、膝の痛みに呻いている。


(お互い老けたものだ)


そんなことをしみじみ感じた後、


アジズは、かすれた視界で、腹心の顔を見つめながら、細々とした声で語った。


「そうかもしれぬ。だが…神殿が力をつけ過ぎたのも、腐敗した輩が居るのも事実。」


王は、長年の臣下の頬に、手を添えて言った。


「わかるな、サジル」


「バハールは兄達に勝ち、戦を生き残ったのだ。私が兄上たちを退けて王になったように、それも、神の意志に違いない」

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