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息子と父
俺の親父は頑固な料理人で
普段はひたすらピザを作ってる
帰ったところで挨拶は 『おう』 とか
俺はいつも 『お前』 で
名前などほとんど呼ばれたこともない
チーズと粉にまみれた人生だ
俺はそんなの耐えられなくて
家出同然に家を飛び出した
『親父のような人生なんてまっぴらだ!』
親父は尊敬しているが
それは口には出せなくて
代わりに出たのはお定まりの台詞
手にした片道切符と少しの荷物
寝台列車を待つホーム
母が現れて俺に渡したのは
焼き立てのピザの入った箱
寝台列車の狭い部屋に
広がるピザの匂い
俺の好きなマルゲリータ
箱の裏には封筒が貼り付けてあって
グシャグシャの万札が数枚
マルゲリータはしょっぱかった
とかいう憧れがあるけれど
僕の父さん サラリーマン