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虫の死骸
玄関を開けたら虫が死んでて
カナブンなんだけども
裏っ返しにひっくり返ってたのが
風が吹いて表に戻った
生きてる時と大差ない姿で
その身体は光沢がある
鎧みたいな ブローチみたいな
動いているとヤツらは
馬鹿みたいにすごい速さでぶつかってきて
恐怖を感じるだけなんだけど
動かなくなってみると
案外カッコイイフォルムをしているな とか
そんなことを思う
俺が死んだら腐敗が進んで
悪臭を発した俺の身体からは
体液が染み出していくのだろう
思考とか感情とか
肉体以外の不確かなものの総称を
仮に 魂 というとして
それが肉体から離れた場合
肉体から受けていた俺の衝動的なそれらは
どうなってしまうのだろう
転んだ傷の痛みは
肌で感じた水の冷たさは
密度の高い夏の空気の息苦しさは
心臓が高鳴る走り出したいような気持ちは
仮に俺の身体が虫ならば
肉体から分離して
魂なるものがあったとしても
おかしくないような気がするのだが
生きてる虫は苦手だけれど、標本は結構好き。