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87話 訓練二日目

用語説明w

ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシンを運用・活用するシステム。ラーズの固有特性となった

カプセルワーム:ぷにぷにしたカプセル型で、傷を埋め止血と殺菌が出来る


デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む

エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)


デモトス先生からの指示で、輸血以外の処置は禁止とされたので、怪我はナノマシン群による治癒のみを行った


腹部の傷は内蔵まで達していたが、カプセルワームを大量に貼り付けたことと、ナノマシン群の治癒で現在は何とか塞がっている


結局、その後エマに輸血をしてもらいそのまま眠ってしまった


朝方起きると、激しい筋肉痛だ

回復魔法や回復薬を使えれば代謝が促進されてマシになると思うのだが、これらの症状もナノマシン群の治癒で対応という指示である


「恐怖や苦難から逃げない自制心はどうやって鍛えるのか? それは恐怖や苦難に立ち向かう以外にないのだよ」

そう言って、筋肉痛や疲労を精神修業に使われることになった


だが、死をリアルに感じた後だと、この痛みも生きている実感と思えなくもない


俺は朝食を食べた後、瞑想を行っている

自分の体と対話すること、雑念を払い冷静に自分の体の現状を把握すること、そして負傷部位をナノマシン群に集中的に治癒させるためだ


俺は必死に負傷部位を意識しながら瞑想を続ける


昨日の実戦訓練は今日も行われるだろう

少しでも体をベストの状態にしたい

そのためには、少しでも治癒力を上げて不調を治したいのだ


コンディションを整えないと「殺される」

たった十五分間の実戦訓練を行っただけで俺の何かが変わった気がする…




・・・・・・




「うむ、いい訓練ができているね」


「…はぁ…はぁ…、…はい…」


訓練内容は、昨日と概ね同じだ

一本下駄を履き、甲羅に似た重りを背負い、大きめの岩を抱える


「この岩は、毎日違う物を持つんだ。持ちにくい形を抱えることで、指先から体幹までいい刺激が与えられる」


「…は…はい…」


………


……




「バランス感覚と体幹は、疲れた時こそ真価を発揮する。しっかり鍛えるのだよ」


「は、はい…」


柔らかいボールの上に立つ訓練


「粘りのある筋肉は、静止に使うことで鍛えられる」


「はぁはぁ…」


そして、中腰で腕を前に伸ばし、壺を指先で把持し続ける訓練

もう返事をするのも億劫だ


「歩みを止めるのは絶望ではなく諦め、という言葉を知っているかね?」


俺は首を横に降る

もう声が出せない、いや、口を呼吸以外に使いたくないのだ


「大昔のギアの言葉だ。的を得た言葉だと思うのだよ。人は出来なくなるまで続けることは稀だ。ほとんどの場合、自分でやめてしまうものだ」


「…」

俺は頷きだけ返す


「戦闘において、相手がやってくれたら一番嬉しいことはなんだと思うかね?」


「え…逃げる…?」


「もっとシンプルだよ。それは諦めることだ」


「諦める…ですか…?」


デモトス先生は頷く

「そうだ。諦めるということは、戦いをやめるということだ。つまり、戦っている方にとっては好きなように動けるということだ」


「…」


「これは、戦闘だけではない。口喧嘩、社内での仕事の押し付け合い、果ては国同士の外交でも行われる。相手を諦めさせるために、相手を罵倒し、正論を叩きつけ、時に脅迫を行う」


なるほど

これはそうかもしれない


事実、昨日俺は腹を刺されたときに戦いをやめようとした

もしそれで、先生が戦いをやめなかったら、俺を好きなように刺せただろう


俺はまだ戦えるのにも限らず、俺が戦いをやめる前より簡単に刺されていた


「相手の嫌がること、脅し、騙し、全てを使って相手の闘う気力を折る、これが兵法だからね」



俺は出血と殺気で()()()()()()()ということなのか


…二度と諦めてなんかやるもんか

俺は心で誓った



……




デモトス先生が魔ハリセンを構えながら、筋トレが始まる


やっと気が付いたことがある

デモトス先生の優しい目、あれは俺に優しくするという目ではない

俺にとって必要な訓練をやりとげさせるという意味の目なのだ



パアンッ


「うがっ!?」


「フォームを崩さない、この少しの違いが大きな結果の違いになるのだよ」


「…は…はい…」





そして、やっと食事と休憩だ


「昨日は夕食を抜いてしまったからね、今日はしっかり食べきるように」


そうして用意された食事とナノマシン群の素材溶液


俺は、食べながらデモトス先生の去り際の言葉を反芻する


「食べるのも鍛練だ。いつも食べられるとは限らないのだから…」

そう言っていた


いつでも…?


どういう意味だ?

こういう意味しかないよな?


俺は考えるのをやめた




・・・・・・




そして、やってきた実戦訓練

今日も、ナイフと大量のカプセルワームを受けとる


「では、始めよう。今日も十五分間だ」


「…はい」


気合いを入れろ

諦めない、考え続けろ


絶対に生き残る!




俺は、右手でナイフを持って右手足を前に半身になって構える

大振りや、突進はナイフには不要、一番嫌なのは早い突きだ


「しっ!」


引きを意識して素早く附く

デモトス先生は、突きを捌いてじわりと距離を詰める


突きを捌き捌かれ、何度か繰り返す


「うむ、いい構えと突きだ。では、次のステップに移ろう」


そう言って、デモトス先生は笑う

この雰囲気、そして目が怖い


俺は、今まで戦場で敵を殺してきた

モンスターも人間も撃ってきた


だが、彼らは俺に殺意を向け、そして俺も殺意を向ける

敵意と殺意がぶつかるのは、戦場では当たり前だ

だから、彼らの殺意を理解ができるし、俺自身の殺意も納得ができるのだ


だが、デモトス先生はどうだ?

デモトス先生は「必要」と思えば途端にスイッチが入る


だが、感じる殺意の種類が違うのだ

殺意はあるが、敵意ではない


狩人が獲物を狩る、肉屋が豚を肉に変える、血を吸った蚊を潰す、そんな感情のない作業のような殺意なのだ



シュッ! ドゴッ


「ぐあっ!」



デモトス先生はナイフの突きから前蹴りを放ち、俺は後ろに仰け反る

そのままナイフを持った右腕を捕まれ、前に、そして上下に大きく振られる


ナイフを離したくない俺は、体勢を崩しながらもデモトス先生に体ごとぶつかり、すぐにバックステップで距離を取る


シュパッ…


しかし、バックステップでの瞬間にデモトス先生がナイフを振り、首の右側をザックリ切られた


「いい判断だ。無理に力で耐えて体の動きを止めていれば、頸動脈を切られていたな」


ナイフを持った相手に体の一部を捕まれるのはまずい

しかもナイフを持った右腕を捕まれるのは最悪だ、一切抵抗ができない


俺は、すぐにカプセルワームを首に貼り付けようとする

だが…


「よし、ちょうどいい傷だから経験しよう」

そう言ってデモトス先生は攻撃を再開した


何の経験だよ!?



シュッ ガキッ!



ナイフの一閃を裁く

デモトス先生は、捌いた俺の右腕を裸拳で突く



ドガッ


ザクッ…



ザクッって何!?

何かの痛みが足に走る


見るとデモトス先生のナイフが太腿に刺さっている


「ぐあっ…」


ガクッと膝が落ちる


そこにデモトス先生が、ナイフを引き抜き裏拳のように一回転して一撃

右頬を思いっきりナイフの柄でぶん殴られた



ブシュッーーーーーーッ


「は? うわぁぁぁっ!?」



俺の首から血が吹き出す

間違いなく頸動脈からだ、何で!?


「頸動脈は、常に大量の血が通っていて圧力がかかっているのだ。軽く切られただけでも安心してはいけない、衝撃を受ければ中からの圧力で傷が開き、一気に血が吹き出す」


そう言って、デモトス先生はナイフを構える


ヤバい、あと何分だ!?

とりあえず目の前の暗殺者(マーダー)を何とかしないと!


俺は右を向き、首を押さえている手を離す


「お!? 目潰しはいい手だぞ」


出血がデモトス先生にかかるのを確認し、太腿の痛みを我慢して全力で後ろにダッシュ

恥も外聞もあるもんか!


すぐに首の傷を覆うようにカプセルワームを貼り付ける



ピピピピピ…


そこで、アラームが鳴り訓練が終わった


輸血や止血の用意をしてくれたエマが、すぐに駆けつけててくれる


「輸血は始めていい。だが、止血はラーズのナノマシン群のみで行ってくれたまえ。圧迫等の外部的な止血は構わないが、回復魔法は控えてくれ」


鬼か? 悪魔か!?

この出血、訓練どころじゃ…

あ…寒気と目眩が…ヤバい…


「しばらく休んだら、カヤノ隊員とサイキックの訓練だ。それが終わったら今日は休みたまえ」


「…」


次は訓練五日目の予定です

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