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85話 先生2

用語説明w

氣力:肉体の氣脈の力


ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長

エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)


セフィリア:龍神皇国騎士団に所属、B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。


俺はデモトス先生と中庭に来た


「何やるのかな?」 「ラーズは大丈夫か」


後ろからは野次馬がついてきているが無視だ

デモトス先生は前に立って俺を見据える


「君は格闘技をやっていたみたいだね?」


「はい、学生の頃にやっていました」


「では、これから少し組手をしてみよう。君も指導を受ける私の実力が気になるだろう? 武器なしの素手でどうかな」


「…はい!」


いきなり組手か

だが、暗殺者がどんなに技を使うのか気にはなる


「聞いたと思うが、私は元暗殺者だ。汚い手も使うかもしれない、気を付けたまえ」


「わ、分かりました」


俺は、両手を顔の前に上げ、左足を前、背筋を真っ直ぐに伸ばしたオーソドックスのアップライトスタイルで構える

デモトス先生は俺より少し背が低く、どちらかと言えば細く見える


「行きます!」

そう言って、俺はステップを踏み様子を見る


「挨拶は不要だ、実戦を想定しなさい」


そう言って、両手の手の平を胸の前でこちらに向ける

変わった構えだ


俺は一歩踏み込み、ジャブを放つ


「しっ!」


パシッ


手の平で軽く弾かれる

時計回りにステップし、またジャブ


パパンッ


読まれたのか、ジャブを払った手がそのまま顔に飛んでくる



「うわっ!?」


右腕を上げ反射的にガードをする



このっ!


俺はスイッチするように右足を踏み込み、ガードで上げた右腕をそのまま攻撃に使い、縦肘でデモトス先生の顔を狙う


すっ…


デモトス先生は身を屈め、俺の縦肘をくぐって俺の胸に左肩を突き出す


ちっ、かわされ…



ドンッ!


「…がはっ!?」



突然、凄まじい衝撃が俺の体を吹っ飛ばした

何とか後頭部を守って倒れるが、息が吸い込めない


「…っ、がはっ! ひゅー…ひゅー…」


肩をぶつけられた衝撃でふき飛ばされたのか?

起き上がりたいが、体が言うことを聞かない


馬鹿な、俺より小柄な相手に体を浮かされるなんて!


「大丈夫かね?」


「…はい、何とか」


痩せ我慢をしながら、何とか体を起こす

呼吸が戻れば大丈夫そうだ


何だ、何をされたんだ?

氣の技か?

氣力で身体能力を強化したか、氣力をそのまま放出したとか…


氣力には、武術に応用できる技もあったはずだ


「よし、大丈夫そうならもう一回やるかね?」

デモトス先生が声をかけてきた


「…はい、お願いします!」


くそ、氣力の技なんてトランスくらいしかしらないぞ

完全に勉強不足だ、警戒しないと


「ちなみに、今のはただのクンフーで、純粋な力学で説明できる技だ。氣力で君を吹き飛ばしたわけじゃないから安心したまえ」


「え!?」


「私は、CQCしか使わない。安心してかかって来たまえ」


CQCとは近接格闘術のことだ

魔法や特技(スキル)、氣力も霊力も使わない、肉体の性能だけを使った格闘術という意味だ


だが、人の体を吹き飛ばす格闘術なんて俺は知らないぞ!?


「…お願いします」


だが、格闘なら俺にもプライドがある

知らないものはしょうがない、いろいろぶつけてやる


デモトス先生は、また両手の手の平を胸の前に構えた


その肩、叩き潰す気でやってやる



パンッ パンッ



ジャブを二発放つが、先ほどと同じく払い落とされる

だが、狙いは次だ



バンッ!



俺は右ミドルキックをデモトス先生の二の腕に当てる

ガードされるのは想定済み、このまま左腕にダメージの蓄積を狙う


もう一度ジャブ、そして右ミドル

同じ動きを繰り返せば、このコンビネーションが刷り込まれる


もう少し上下にパンチとキックを散らしてから、ジャブ、右ミドルと思わせてタックルで両足を刈り取ってやる


俺はジャブを打ちながら、また時計回りに回る



ダンッ!


「ぐっ…!」



だが、俺が一歩出たタイミングでデモトス先生が踏み込み、左足をおもいっきり踏まれた


足を踏まれて、距離を取りたいが取れない、その一瞬の迷いの隙をつかれた

デモトス先生は、俺の左足を踏んだ右足の膝で、俺の左膝を内側に押し込む


「…っ!?」


ガクッと上体が下がった所で髪を掴まれ、首が曲げられる

さらにデモトス先生の左手が向けられる


ヤバい、とっさに顔を両手でガード!



ドスッ


「…ぁっ!」



ガードの間から、喉に手刀が刺さる

俺は声も出せず痛みと苦しみで、地面を転げ回った





…完敗だった

足を踏まれ喉を狙われる、格闘技にはない動きだ

クンフーと言っていたから、拳法系の武術なのだろう


だが、格闘技経験者の俺がこんなにあっさり急所をつかれるということは、完全に俺の動きが見えているということだ

この人強いわ…


「大丈夫かね?」


「…はい、もう大丈夫です」

俺は立ち上がる


「先程の、私を吹き飛ばした技は何ですか? 氣の技だと思ったのですが」


「霊力も氣力も封印した君に、氣の技を使うわけないだろう? そんな汚い真似をしても君からの信頼は得られないからね」


「…」


デモトス先生は、その事も知っていたのか

そりゃ、ゼヌ小隊長から聞いているよな


「あれは発勁の一種だ。純粋な発勁とは、氣力を使う技ではない。タイミングと自分の体重を使って放つ技だよ」


「あれが発勁…」


デモトス先生は「一度戻ろう」と言って、俺達は仮事務所に戻る


その後ろから、「ラーズ、手も足もでないでボコボコね」、「暗殺者は伊達じゃないな…」、「明日からの訓練はどうなるのかしらね」、なんて野次馬の会話が聞こえたが気にしないことにした




・・・・・・




ソファーに座ると、簡単な打ち合わせだ


「ゼヌ、すまないがラーズの指導中にエマの知恵を借りることになると思う」


「分かりました。エマ、大丈夫?」


「はい…」


それを聞いて、デモトス先生は「よろしく頼むよ」と頷く

そして、俺の方に向き直った


「よし、ラーズ。本格的な訓練は明日から始める。今日は最後に私が君の指導を引き受けた理由を話しておこう」


「え、はい…」


「それは、君が目的のために、力を捨てるという勇気ある行動をとったからだ」


「…」


俺のチャクラ封印練のことを言っているのだろう


デモトス先生は続けた



自分の利点を捨てることは、なかなかできるものではない

このままでは腐っていくと分かっていても、一度得た立場を捨てることはできないものだ


だが、君は闘氣(オーラ)を、特技(スキル)を、魔法を全て捨てた

騎士となれる力を捨てたのだ

十年後の、得られるかどうかも分からない理想のために


その力を捨てる勇気、理想を目指した決意

なんと素晴らしい!



突然スイッチが入ったデモトス先生を俺は呆気にとられて見つめるが、そんなことには構わずデモトス先生は続ける



その目指すべき理想の過程で、君は苦悩するだろう

足りない力、見えない道のり、その全てに


だが、力を持つ者にはない、その苦悩が君を孤高の頂きに導くだろう

それを私は証明したいのだ、と




「…」

俺は、なんと言えばいいか分からず、デモトス先生を見る


そんな俺を見てデモトス先生はニコリと微笑んだ


「私は高く君を評価している。君に一流の心技体を叩き込むと約束しよう」

そう言ってデモトス先生は手を差し出す


「は、はい。よろしくお願いします!」

そう言って、俺はデモトス先生の手を握る



「訓練は明日からだ、今日はゆっくり休みなさい」

そう言って、デモトス先生は帰っていった




…評価してくれたことは嬉しかった


だが、心配が一つある

それは、俺の理想のことだ


俺の理想は、憧れのセフィ姉の力になりたい

一緒に戦いたいってことだ


ゲスないいかたをするなら、女の尻を追いかけたってことだ

我ながら恥ずかしいが、孤高とは真逆だ


…デモトス先生は、こんな理由だと知ったらどう思うだろうか?










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