82話 飲み会 三軒目
用語説明w
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
カヤノ:MEB随伴分隊の女性隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
リロ:MEBパイロットの魚人隊員。現在は消防防災庁に出向中
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
若干、ふらふらしている自覚がある
サイモン分隊長は絶好調、カヤノは顔は赤いがまだ余裕そうだ
我が妹フィーナもまだ余裕がある
こいつらに引っ張られてはダメだ
自分の適量で飲まなければ…!
三軒目は「魚魚」という居酒屋
飲み屋ばっかりじゃねーか!
グダグダしゃべって飲んでいると、いつの間にか男ペア、女ペアに別れての会話になっていた…
~~ 男ペア ~~
ぐぃっ…プハァー!
「しかし、ラーズがBランク騎士の候補だったとはな。驚いたぜ」
ゴクゴクッ
「いや、候補と言っても学生ですからね? 高校の部活とプロスポーツ選手くらい本物とは違いますよ」
グビグビ
「格闘技は何なんだ? なんたら封印をした後に始めたのか?」
グビッ
「チャクラ封印後に、何かできないかなって格闘技道場に通ってみたらハマったんですよ」
グビグビグビ
「実際、いい動きをしてるからな。格闘技は正解だったんじゃないか?」
パクパク
「私のことよりサイモン分隊長の話も聞かせて下さいよ。リサイクル工場ってどんな感じだったんですか?」
「…半端じゃないぞ?」
「…!」
「とりあえず、もう一杯頼もうか」
「あ、はい! すいません、注文お願いします!」
酒を変わらずグビグビいきながら、サイモン分隊長は話始めた
サイモン分隊長は入隊当初から強化紋章を持っていて、体力もありタフだった
だが、味方がそのタフさについて来れなかった
モンスターを討伐に行っても、サイモン分隊長以外が負傷して撤退…、それの繰り返しだった
固有特性を持っているのに成果が上がらない、その結果、無能の烙印を押されてしまったのだ
「最悪だったよ。何が最悪かって、何をしたら良くなるのか分からなかったことだ。なんつっても、俺は無傷なのに周りが勝手に怪我して撤退になっちまうんだからよ」
そんな時に、ゼヌ小隊長に誘われて1991小隊に異動した
来てすぐに、「先生」に教えを受けることになった
サイモン分隊長の先生は、ギガントアーマー、オーガシールドの重近接戦闘のプロだった
「最初の訓練は、重装備で盾を構えて、その姿勢の維持を三時間、これを四セットだったな」
「さ、三時間を四セット…!?」
サイモン分隊長は、防御に特化した鍛え方をされた
どんな攻撃も受け止める、弾かれてもすぐに立て直す
周囲の味方の位置を把握、敵の位置も把握
最前線はどこなのか、どこで攻撃を受けるべきなのか
指示の出し方、回復の仕方
最後には、戦車の迫撃砲やミサイルランチャー、炎や冷気、精神属性魔法を撃たれ続けるなんて訓練もあったな…
「何なんですか、その訓練は!?」
ただの防御役じゃなく、司令塔として場を動かせるようになったことでサイモン分隊長は変わったのだ
「カヤノもかなりやられてたぞ」
「カヤノもですか…女とか関係ないんですね」
カヤノは、サイキッカーにありがちな精神的に不安定な部分があった
特に、味方がピンチになるとパニックを起こしてしまっていた
肝心な所で役にたたない
そう言われて、だんだん同僚からも白い目で見られるようになってしまったのだ
ゼヌ小隊長に誘われて異動してくると、サイキッカーの先生に指導を受けた
「初日にカヤノが言われた言葉をまだ覚えてるぜ」
サイモン分隊長が笑う
サイキッカーが精神的に不安定だ?
ふざけるな、不安定なのはお前だ
サイキッカーのせいにするんじゃない
そう言われたそうだ
健全な精神は肉体に宿る
そう言って、筋力トレーニング、持久力トレーニング
ヘロヘロになったところで、サイキックの発動訓練
「あげく、急加速からの対重力訓練とかで限界まで追い込み続けてたよ。今思うと、空中戦闘のための訓練だったんだな」
カヤノは、毎日サイキックだけでなく体力も使いきった
余計なことを考える…パニックになれる余裕があるなら、その余裕を無くせばいい
それが功を奏したのか、だんだんとパニック癖が収まり、サイキック能力と空中戦闘に磨きがかかっていった
「リロはどうだったんですか? あんな小さい子も厳しくやられたんですか?」
一度だけ会ったリロは、十歳くらいの女の子に見えた
「リロは一番ひどかったんじゃねえか? 体が小さい分、余計にそう見えたよ」
リロは、ゼヌ小隊長がどこかの施設から連れて来たらしい
MEBのパイロットとして適正があると言って、MEB操縦五十年の職人を先生として連れてきた
「最初に、柔道とレスリングを習わせたんだよ」
モンスターや敵のMEBに組付かれたときの訓練だ
お前は、組付かれたのに腕のモーターしか使わねえのか!?
脚と腰の動力を連動させろ!
さらに、思考訓練として、動かす動力の順番をシミュレーションし続けていた
「毎日、ひたすら組技を自分の体とMEBで練習してたよ」
その結果、リロはとんでもない速度で上達していった
「凄いですね…」
「だが、一番凄いのはゼヌ小隊長だろ?」
ゼヌ小隊長は、
・リサイクルの対象を見つけ出し
・リサイクルに必要な方法や要素を特定し
・リサイクルできる人材を見つけ出す
という三つのことをやっている
そして、先生を用意された三人共がCランクに上がっているのだ
「あの人って何者なんですか!?」
「リサイクルされた身としては、知りたいとも思わなくなったぜ」
「…」
俺はどうリサイクルされるのだろうか
目の前で酒を飲んでいるリサイクル結果を見ると、期待もしてしまう
俺も訓練をやりとげたらCランクになれるのかな?
Cランクは戦車と同じ戦闘力
闘氣を使わずに戦車と戦えるってもの凄いことだからな…
~~ 女ペア ~~
「カヤノさんは付き合ってる人はいるんですか?」
「え? いないわよ」
「サイモンさんといい感じだなーって思って」
「え、ないない。サイモン分隊長、戦う女は苦手だから」
「え!? 防衛軍なのに意外」
「ほら、さっき言ってた、サイモン分隊長を鍛えた先生が女性だったらしいのよ。ちょっとトラウマになってるんじゃない?」
カヤノとフィーナは顔を見合わせて笑う
「ね、フィーナちゃんはラーズと血が繋がってないって聞いたんだけど本当なの?」
「ええ、本当ですよ」
フィーナは、家庭の事情でラーズの両親の養子となった
ラーズとは血の繋がりはない
「ラーズとはどうなの?」
「え?」
「異性として意識はしないのかなって」
「…しますよ、そりゃ」
「え! そうなの!?」
フィーナは突然、自分のワインを一気に飲み干す
「フィ、フィーナちゃん…?」
「だいたい、私は学園時代、ラーズと同級生だったんですよ!? 意識するに決まってるじゃないですか!」
フィーナは、学園卒業まではラーズと同級生だった
お互いが大学入学時に、戸籍上の兄妹になったのだ
「うん、そ、そうりゃそうだよね!」
カヤノもつられてワインを飲み干す
「もう、今日はとことん聞いちゃうから! どうなの、ぶっちゃけちゃうと好きなの?」
「…好き」
「キャー! そうなの!? いつから? 進展は!?」
「学園時代から意識はしてたんですけど…。聞いてください! カヤノさん!」
「え!? はい!」
「私、正直結構もてるんですよ!? なのに、あいつは人のことをいつまでも年下の妹としか見ないんですよ!」
「ま、まぁ、でも実際年下で妹なんでしょ?」
「でも、私は飛び級してた同級生で! 勉強だって教えてあげてたんですよ! それが、戸籍上で妹になった途端に、本当に妹として扱うとかありますか!」
「え、うん、どうなんだろう…?」
「普通、幼ななじみの同級生が妹になったんですよ? 何か、何かあるでしょ!? それに、もうお互い社会人なんだから、何か変わってもいいんじゃないかと思うわけですよ!」
「う、うん…」
「でも、ラーズは仕事ばっかりで!」
「ラーズ、仕事頑張ってるもんねー」
「いや、気持ちは分かるんですけど!」
十年間、霊力や氣力を封印
十年後に無事にステータスがアップしたとしても、その頃既にセフィ姉やフィーナは騎士として経験もキャリアも積んでいるのだ
「だから、ラーズはこの十年間で私達Bランクとは違う強みを見つけたいんですよ。だから格闘技やったり防衛軍入ったりしてるわけですからね。でも、もうちょっとさー…?」
「いや、どっちやねん…」
~ 次の日 ~
次の日が非番でよかった
俺は一日中二日酔いに苦しんだ
サイモン分隊長はノーダメージ
カヤノとフィーナは午前中には復活したらしい
…二度と飲み会なんて行くもんか
長くなりましたが、ラーズの過去と今後の設定説明会でした