77話 後始末
用語説明w
回復薬:細胞に必要なエネルギーを与え、細胞を保護し代謝を活性化
カプセルワーム:ぷにぷにしたカプセル型で、傷を埋め止血と殺菌が出来る
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシンを運用・活用するシステム。ラーズの固有特性となった
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
フェムトゥの接骨機能が装甲の下で働き、骨接ぎ用の触手が左腕と脇腹の肉に突き刺さり折れた骨まで到達する
「痛っ…!」
思わず顔をしかめて、触手が折れた骨を接ぐ痛みを我慢
すぐにカプセルワームを装甲の隙間に入れて出血を止め、回復薬のアンプルを患部にぶっ刺し、さらに飲んで回復を促す
ナノマシンの治癒力も上がってきているので、ちゃんと処置できれば三十分ほどで動かせるようになるはずだ
「あの魔導師のパワーは、恐らく強化魔法ね」
とはシエラの見解
まさか魔導師に杖でぶん殴られて、装甲ごと腕を叩き折られるとは思わなかった
俺もジードに筋力の強化魔法をかけてもらった時はジェットハンマーを片手で振り回せるくらい腕力が上がった
確かに、強化魔法だったらあのパワーは納得ができる
現在、シエラとオズマが集落の住人を誘導して、到着した防衛軍の簡易テントに集めてくれている
住人の健康チェックと事情聴取だ
「処置は終わった?」
「はい、終っちゃいました。シエラの方は?」
「こっちも終わり。体育館に集められた住人は、何人か衰弱が見られるけど全員無事よ。ただ、集めたれる時に抵抗した住人が何人か殺されているみたいね」
「そうですか…。じゃ、そろそろ行きますか?」
俺はが立ち上がると、シエラも嫌そうに頷いてついてくる
向かうは今回の作戦本部のテントだ
結構な重症だったので、簡単な報告だけして先に怪我の応急処置をさせてもらったのだ
作戦本部のテントに入ると、作戦本部の面々が待ち構えていた
腕を組み、高圧的な視線を向けてくる
「お前らの任務は何だ? 危険な魔法兵器の搬出の足止めだろうが!」
「はい…」
「人質の救出の許可は出していないが誰の判断だ? 失敗してたらいたずらに人質を危険にさらしていたのが分かっているのか!」
「…」
防衛軍では結果が全てだ
実際に俺達は、召喚魔法陣の搬出の足止めに失敗している
人質に関しては、救出に着手してもしなくても人質に危険は及ぶ
どちらにしても、~たら、~ればを言われてしまえば何も言い返えせないのだ
「お前達は人質の救出に着手することなく、作戦本部に帰還するべきだっただろう! 何も出来ないくせに勝手な判断をするな!」
「逃げたテロリスト共をどうするつもりなんだ!? せめて余計なことに手を出すな無能が!」
口々に作戦本部の幹部から叱責という名の罵倒が飛んでくる
「…警察庁公安部のオズマからの情報により、人質の救出を急ぐべきと判断しました」
「まだ防衛軍も到着したいませんでしたし、他に方法がなかったと…」
俺とシエラは弁解する
…無駄だと思いつつも
「黙れ! 口封じをするなんて全部想像だろうが! 危険を犯してまで救出に着手する理由になるか! それともお前達はその魔導師の行動が完璧に読めるとで……」
その後、散々怒鳴られ罵倒された
だんだん心が無になっていき、何を言われたかはあまり覚えていない
だいたい、俺達は偵察だったはずだ
お前らが最初から人数だしてれば…
いや、これも、~たら~ればになってしまう、止めよう
その時、通信電話が作戦本部に届いた
「な、何だと!?」 「まさか…!」
作戦本部の、名前も知らない幹部達が驚きの声を上げている
「何ですかね?」
「さぁ?」
俺とシエラがこそこそ話していると、
「ご主人、召喚魔法陣の搬送車両を確保したって連絡が来ているよ!」
データが、ゼヌ小隊長からのメッセージを教えてくれた
・・・・・・
俺達は、車で集落を西へ進む
見えてきたのは、大破したトラックと薄青い塗装のMEB、そして周囲を囲む警察車両だった
人型の搭乗兵器であるMEBは、さながら巨人のように大破したトラックを見下ろしていた
MEBは左手に大盾、右手に杭状の棒を装着した攻撃用装置を装着している
あの杭は、火薬の力で杭を撃ち出すパイルバンカーだろう
トラックの側面に大穴が空いているので、あのパイルバンカーで一突きにしたようだ
俺達が車を降りると、MEBの側にいた一人の少女が近づいてくる
「お疲れ様です! ラーズさんですか?」
「え? はい、そうですけど…」
少女は魚人らしい耳をしており、年齢は十歳前後に見える
こんな場所にいるのは不釣り合いだ
「初めまして! リロって言います。現在は消防防災庁に出向中ですが、あたしも1991小隊なんです」
「え!? リロって、MEB乗りの!?」
「はい! ラーズさんにはまだ挨拶できていなかったので、会えて良かったです」
ずっと出向中で、俺が唯一まだ会えていなかった1991小隊の隊員のリロがこんな少女だったとは
だが、MEBのパイロットと言っていたから間違いはなさそうだ
「あ、初めまして…、だね。何でここに? っていうか、あのトラックって…」
俺は、大穴が空いたトラックを指す
「はい、あたしがこの子で止めました。テロリストの生存者は警察で逮捕済みですし、召喚魔法陣も確保済みです!」
リロはMEBを指してにこやかに言う
「リロはなんでここに?」
「ゼヌ小隊長から連絡があって、ここで張ってたんですよ。警察の特殊部隊も呼んでいたので制圧は早かったですよー!」
ゼヌ小隊長、テロリストの搬送経路が分かってたってこと!?
凄すぎだろ!
「テロリストは、ここを通らないと逃げられないから絶対通るって言ってました。さすがゼヌ小隊長ですよねー」
「本当だね…」
「す、凄いわね、あなたのところの小隊長さん」
シエラも若干声が上ずっている
散々罵倒され、処分を覚悟するしかない状況
だが、魔法兵器を持ち出されてしまった事実もあり諦めていた
まさか、ここからテロリストを確保して召喚魔法陣を確保できるとは
「リロ、本当にありがとう。おかげで、魔法兵器をテロリストに使われずに済んだよ!」
「いえいえ、お礼はゼヌ小隊長に言ってください。あたしは言われた通りやっただけですからー!」
そう言って俺たちに手を振ると、リロは帰っていった
まだ、消防防災庁での研修中で明日も勤務なのだそうだ
その後は怒涛の展開だった
西山集落へ戻った俺達は、人質のなっていた住人に囲まれた
「あんた、私達を助けてくれた兵隊さんでしょ? 本当にありがとう」
「ぶっ飛ばされていたけど大丈夫だったのか!?」
「防衛軍のお兄ちゃんありがとう!」
テントでの健康チェックと事情聴取を終えたらしい住人達に口々にお礼を言われる
「え、いや、仕事ですから! 皆さん無事で良かったです」
「…何であなただけなわけ?」
そして、横でシエラにじろってされる
「いや、私が潜入したから目立っただけでしょうけど。 …皆さん、今回の救出はここにいるシエラ隊員と警察官のオズマの協力があっての成功です。私だけの力じゃないですよ」
「おお、そうなのか!」 「姉ちゃんもありがとな!」
住人がシエラにもお礼を言ってくれ、シエラはまんざらでもない顔になった
俺も手柄を独占するつもりはない
そして、オズマへと向き直る
「オズマ、警察の特殊部隊がテロリストの身柄と召喚魔法陣を確保したみたいです」
「…そうか。協力感謝する」
お互い思うところはあるが、同じ公務員として住人の危険を回避できた
今はこれだけで充分だろう
そして、確保の顛末を作戦本部の幹部に報告する
「確保した車両はこの集落から逃走した車両で間違いありません。ナンバーで確認がとれています」
「…確保したからといって、お前達が任務を失敗したという事実は変わらないからな。こんな幸運が何度も続くと思うなよ?」
幹部もこれ以上言うこともなかったのか、拍子抜けするくらいあっけなく報告が終わった
だが、これには理由があった
テントを出ると住人が教えてくれた
「俺達がしっかりお偉いさんに言っといたからよ。あんたらは命がけで俺達を救ってくれたんだってな! 全部終わってから来たあいつらが何を言おうが、この集落の人間はあんたらの味方だからな!」
「あ、ありがとうございます…」
なんと、住人が俺達を援護射撃をしてくれたらしい
あの幹部達にとっても、さすがに住人の直接の言葉は重いってことだろう
俺とシエラは笑いながらハイタッチをした