76話 テロリスト4
用語説明w
シグノイア純正陸戦銃:アサルトライフルと砲の二連装銃
巻物:使い切りの呪文紙で魔法が一つ封印されている
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
「状況はどうですか?」
「動きはないな。見張りが一人と中から出てきた魔導師風の男を確認した」
オズマと合流、監視結果の報告を受ける
張り込みは警察の得意分野だろう
集落の人間が集められた体育館の見張りは、まだ撤退していない
「召喚の魔法陣は持ち出したのに、人質は解放しないつもりなんですかね?」
「…魔方陣の搬送が失敗した場合に人質にでもして要求するつもりだろうな。テロが目的ならあり得るだろう」
オズマが険しい顔をする
正直、二人で人質の救出なんて悪手だ
敵が二人だったとしても、下手に手を出すと人質を殺される可能性があるからだ
…それに、人質の救出に着手する前に、俺達はオズマに聞くことがある
救出を試みるかはオズマの答え次第だ
「ね、何で今回警察は動いてないの?」
シエラがオズマを正面から見つめる
「警察官が殺されて人質もとられてるって大事件でしょ? それなのに、警察で動いてるのがあなた一人なんておかしいわよね」
「…」
オズマが口をつぐむ
正直、今回はいろいろとおかしい
おかしすぎる
集落を占拠され、大量の人質をとられ、さらに召喚の魔法陣という魔法兵器の存在を警察が把握している
緊急性と重要性は、素人目にも明らかだ
それなのに、警察官が一人しか現場に来ないなんて…
「オズマ、私達はそろそろ撤退しようと思っています」
「…っな!? 住人を見殺しにするのか?」
「無理に救出しても被害が出る可能性がありますし、人質に関しては警察の管轄です」
「…」
オズマが顔を歪める
俺達の任務は工場の監視と占拠者の足止めだ
足止めに失敗したのなら、捕虜を作戦本部に連行して情報を得るのが最優先だろう
「それに情報が足りなすぎるわ。工場内に空対空ミサイルがあることさえ把握できてなかったのよ? これ以上、情報もないのに命をかけられないわ」
「警察官が1人で来れると判断できるような情報を、私達は持ってないんですよ」
俺とシエラはオズマとにらみ合う
「…」
「…」 「…」
お互いに無言で、表情から腹の底を探り合い
オズマは間違いなく何かを隠している
そうでなければ、占拠されているとわかっている集落に一人で来るわけがない
「…テロ組織についての情報ならある。教えれば人質の救出に力を貸してくれるのか?」
オズマが口を開く
やっぱり情報を持っていたか
俺はオズマの胸ぐらを掴んで、後ろのコンクリート壁に叩きつける
ドンッ! 「がはっ…」
オズマが呻き声をあげる
「こっちが戦闘に行くってのに、情報を隠してたんですか。警察さんはよっぽど偉いんですね?」
「私達が戦死したって警察には関係無いものね」
シエラも冷たい目でオズマを見る
「…」
オズマは焦った表情を見せる
「悪いがあんたの事は信用できない。何を隠されてるか分かったもんじゃない」
俺はオズマの胸ぐらを放す
「人質は警察で助けてあげてね」
作戦本部に帰ろう
俺達の仕事は終わりだ
俺達はオズマに背を向ける
「…ま、待ってくれ! ミサイルがあるなんて知らない、俺はテロ組織の情報を持っているだけだ!」
オズマは慌てて俺達を止める
「…」
「お前達には言えなかったんだ! 情報は渡す、力を貸してくれ。用が済めば、間違いなく口封じに住民は殺される!」
「言えなかったってどういう意味?」
シエラが振り返る
「…お前達が防衛軍だからだ。あの工場はお前達防衛軍の秘密倉庫なんだぞ!」
「は?」 「…どういうこと?」
俺とシエラは顔を見合わせる
「テロリストが防衛軍の倉庫を不法に使い、そして集落を占拠したんだ。防衛軍の武装を使われていたら警察じゃ相手にならない、だから警察が手を出せなかったんだ!」
「ぼ、防衛軍の倉庫…? あの工場が?」
…防衛軍の施設をテロリストに悪用されて、魔法兵器を作られたってこと?
大不祥事じゃん
だけど、確かに防衛軍の施設なら空対空ミサイルがあってもおかしくはないし納得できてしまう
どうしよう、変なことに巻き込まれた気がする
「防衛軍がこの大不祥事を隠蔽する可能性があった! お前達だって隠蔽の密命を受けているかもしれないのに言えるわけないだろう。下手すると協力者が消されちまうかもしれないんだぞ!?」
「あー…まぁ、そうなのかな?」
「だが、お前達は倉庫の中の状況も隠さず俺に話した。隠蔽の密命は受けていないと判断する。テロ組織の情報は渡す、手を貸してくれ!」
オズマは真剣な目で頼み込んでくる
どうしたもんか?
助けられるならもちろん助けたい
オズマはこれ以上嘘をついてなさそうだ
俺達をはめる理由もないし
「シエラ、どうします?」
「…ま、情報をちゃんとくれるならやれるだけやりましょうか」
俺はうなずく
「…データ、ゼヌ小隊長に速報しといて」
「ご主人、分かったよ!」
今人質を助けないということは、見殺しにすることと同じになる可能性は高い
やるだけやってみるか、国民のための公務員で防衛軍だし
・・・・・・
オズマの情報で、人質救出に使えるものはなかった
後はオズマが見ていた、体育館の見張りは二名というのを信じるしかない
不確定要素があれば、諦めてすぐに脱出する
作戦は単純だ
見張りを体育館から追い出して、人質に被害が出ないように外で始末する
「探知魔法は展開されていないわ」
という、シエラの言葉で俺が二階の窓から体育館内に潜入する
体育館の壁際に毛布が敷かれ、集落の住人が座ったり横になったりしている
「シエラ、配置完了。始めてください」
作戦開始だ
シエラが水属性魔法で水を精製、冷属性魔法で氷にする
氷の投射魔法だ
ボゴン! ゴガァッ!
氷の塊が入り口の見張りと地面に当たり、大きな音をたてて砕け散る
見張りは首が変な角度に曲がった、即死だろう
「何だ?」
体育館内で見張りをしていた魔導師風の男が、その音で体育館の外に様子を見に行く
俺は体育館の中に他のテロリストがいないことを確認し、一階に降りて背後から魔導師を襲撃する
ガガガッ!
「ぐわっ!」
アサルトライフルを撃ち込む
何発か防御魔法で止められたが、一発が魔導師にヒット
そのままエアジェットで突っ込み、体育館の外に蹴り出す
「ぐっ、何だお前は!?」
魔導師は驚きながらも、俺を睨んで杖を向ける
ガガガッ!
俺は左にステップして、アサルトライフルライフルを撃ち込む
ゴォォォッ!
同時に、魔導師の杖から風属性投射魔法の小さな竜巻が3つ撃たれる
俺はエアジェットで撃ち出された竜巻の軌道から逸れる
すぐさまアサルトライフルで反撃を試みるが、魔導師の動きが早かった
俺の目の前の地面が円形に光る
バリバリバババババ…!
雷属性範囲魔法だ
これは魔術師の魔法じゃない、おそらく巻物だ
この魔導師、モ魔を併用して二連発で魔法をぶっぱなしてきやがった!
体を捻って何とか回避するが、体勢を崩した俺に魔導師が杖を横凪ぎに振り切る
くそっ、回避は間に合わない
フェムトゥの左腕の装甲でガードだ
ゴガァッッ!
ゴキッゴキゴキッ! 「…がはっ!?」
予想の遥か上をいく衝撃が来た
装甲がひしゃげ左腕の前腕があらぬ方向に曲がる
さらに脇腹まで杖が食い込み、体ごと吹っ飛ばされる
何だこの力は!?
魔導師は非力なはずなのに、化け物みたいな力を出しやがった
…衝撃で意識が飛びそうになるが、痛みで意識が戻ってくる
魔導師はニヤリと笑いながら、杖を俺に向ける
魔法だ、魔法がくる
やべぇ…、動かないと殺られる…
俺は右手でなんとか体を起こす
だが、衝撃でうまく呼吸が出来ない
動けない
俺は覚悟を決めて顔を腕でガードする
隙があれば、ホバーブーツで跳ぶしかない
魔導師の杖から魔法が撃たれる…!
カシャーーン!
「…っ!!」
え? 魔導師の杖から魔法を撃たれたと思った瞬間、魔導師自身の体が霜で覆われた
「ラーズ!」
シエラだった
魔導師を冷属性魔法で狙撃してくれたのか!
「ぐっ…、この…!」
だが、魔導師は生きていた
おそらく耐魔力魔法で冷属性魔法を軽減したのだろう
よろけながら、杖を持ち上げる
ドドドッ!
「ぐっ…!」
俺はアサルトライフルを魔導師に撃ち込む
全弾が魔導師の体を貫通する
魔導師はようやく倒れた