74話 テロリスト2
用語説明w
シグノイア純正陸戦銃:アサルトライフルと砲の二連装銃
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
偵察用ドローン:カメラ付きドローンで、任意の場所にとまらせて偵察カメラとして使い、PITで画像を受信する
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
作戦本部に状況説明する
テロ組織の使役と思われるドラゴンと交戦、結果敵に俺達の存在がばれたであろうことの報告だ
「何だって?」
シエラがこちらに顔を向ける
「集落の中に潜入して、データで送信した工場の状況を確認しろだそうです」
「集落の住人の安否じゃなく?」
「違うみたいです。何の工場かは教えてくれませんでした」
しかし、ドラゴン退治で大騒ぎした後だ
集落を占拠したテロリストにが完全に警戒されてるだろう
「こんな状況で潜入なんて無理よね。せめて何の工場かぐらい聞けないの?」
「次の報告はシエラがやってくださいよ。今回の作戦本部の奴ら、全然情報よこさないからガツンと言ってやって下さい」
情報もないのに危険なんかおかせない
俺達は、ため息をつきながら雑木林の中を集落に近づく
「ちょっと遠隔で情報を集めましょう」
俺は、偵察用ドローンを飛ばす
「私もやるわ」
シエラは、魔術で粘土の鳥を操って空へ飛ばす
……
…
二人で情報収集を終えて報告会
「学校の体育館に見張りがいるわね。集落の人が集められてるのかな?」
「指定された工場は結構出入りがありますよ。データ、あそこの工場の情報はあるか?」
「ご主人、住所での登録は町の工場だよ! ただ、その工場の会社は五年前に倒産してるって情報が出てくるよ!」
「…」 「…」
俺とシエラは顔を見合わせる
「集落に入る意味あります?」
「二人で集落の住人を助けるなんて自殺行為よ。警戒されて潜入も厳しいだろうし、工場については不法侵入みたいだし警察の仕事じゃない?」
「確かに。 じゃ、シエラ。報告と撤退の進言をお願いします」
「…嫌」
「…」
「そういうの嫌なの。ラーズやってよ、男の子なんだから」
俺はため息を吐きながらインカムを使う
俺だって、無理だなんて報告したくないっての
「…っ! ラーズ!」
その時、シエラが口の前に人差し指を立てる
「…誰か近づいて来きている。一名よ」
シエラの視線の先を見る
俺には感じられないが、シエラが探知系統に魔術を行ってくれていたのだろう
俺は望遠スコープで確認する
スーツ姿の人間だ
「こんな雑木林の中にスーツ姿の人間が歩いてるって」
「怪しすぎるわね」
一見武装はしていない
俺は小型杖を取り出す
「もう少し近づいたら制圧します。 フォローお願いします」
「え!? り、了解…」
1…2…3…
ヒュンッ ビュオォォォォン!
引き寄せの魔法弾を樹木に当て、俺自身の体を引き寄せる
その勢いを使い、三次元的な機動で一気に接近する
「うおっ!?」
スーツの男が焦って振り向く
と、同時に…
「動くな」
俺は陸戦銃を向ける
ビクッ! と体を硬直させ、スーツの男は両手を挙げた
・・・・・・
「警察庁公安部特捜第四課のオスマだ」
スーツの男が、警察バッジを見せながら名乗る
「警察? なんで警察がこんなところにいるのよ?」
シエラが胡散臭そうにオスマの全身を上下に見渡す
「俺の部署は対テロ事案の捜査だ。今回は占拠の規模から組織的な動きがあるのは間違いないないだろう。どう見ても俺達の管轄だろうが!」
オスマは吐き捨てるように言う
銃を向けられたのがかなりご立腹のようだ
「警察が動いてるなんて聞いてなかったんです。状況的に仕方ないでしょ?」
「聞いてないって、防衛軍は、俺たちに連絡したのか!? いちいち捜査の許可なんかとるわけないだろうが!」
「いや、そりゃしてないでしょうけど…」
「お前らは銃でも魔法でも勝手に撃ってろ。俺達の仕事の邪魔をするな!」
「でも、協力した方が良くないですか? あなたは戦力が足りないし、俺達は情報が足りないんですから」
「そうよ。 戦場でのんきに歩いてるなんて、状況的には撃たれててもおかしくなかったのよ? いじけるなんて筋違いよ」
「…」
オズマは俺達を睨む
「…」「…」
しばし沈黙
だが、舌打ちをしたあとオズマは気を取り直して口を開いた
「…ちっ。お前達の指令は何だ?」
「俺達は、とりあえず集落内の廃工場の偵察を命令されています」
「何だと…!?」
オズマは驚いた顔をする
そして、イラつきながらも協力した方がいいと判断したのか話し出した
オズマの話を要約
特捜四課の指令は、集落内の状況把握だ
集落内に、警察の協力者がいるためある程度の情報を得ていたらしい
得た情報として、
・集落内の閉鎖された工場内で不穏な動きがある
・一昨日、不審者に集落内の警察官が職務質問をしたところ、この閉鎖された工場に逃げ込んだ
・警察官が応援を呼んで閉鎖された工場を捜索しようとしたところ、中から十五人ほどの武装した人間が出てきて警察官を殺害した
・その後、武装集団が集落の住人を学校の体育館に集めて立てこもった
・工場内には大きめの魔法陣を見たとの目撃証言、さらに武装した犯人達が召喚というキーワードを口にしていたとの協力者からの証言があった
とのこと
「…」 「…」
俺とシエラは黙って話を聞いている
「だから、防衛軍が工場の偵察をするというのは驚いた。魔法陣の情報を得ているということだろうからな」
オズマが半分感心したように言う
魔法陣、おそらく召喚の魔法陣なのだろう
召喚の魔法陣
契約した対象を呼び出し、助力を得たり、使役したり、何らかの契約を行う
術者の実力は必要だがその効果は大きい
召喚に応じられる対象は、総じて大きな力を持つものだからだ
しかし、召喚の魔法陣は大量の魔石や魔法陣用インクを使うにも関わらず、熟練の職人が作っても成功率が50パーセントを切るという作成が難しいもので貴重だ
テロ組織が召喚の魔法陣なんかを持っていると、どこで召喚魔法を発動されるか分かったもんじゃない、細菌兵器並みに危険な代物だ
「なんでそんな魔法兵器をテロ組織なんかが持ってるわけ!?」
魔術師であるシエラにはその危険性が分かるのだろう
冷や汗をかいているように見える
「警察の情報なら信憑性がありますし、作戦本部に指示をあおぎましょう。私たち二人でどうにかなる話じゃないですよ」
「そうね。ラーズ、報告お願い」
「…どれだけ報告嫌いなんですか?」
俺は渋々無線通信電話で報告をする
……
…
「何だって?」
「とりあえず情報収集しろだって。 部隊はすぐ編成して向かわすそうです」
「今から編成!?」
「そういえば、作戦本部に俺たち以外に兵士いなかったですよね」
「本部は今まで何してたのよ…」
さて、どうするか
俺達は斥候だから、戦うことはないだろうが…
敵に動きがあったら完全に俺たち二人の手に余るな
かといって、大量破壊兵器の召喚魔法陣を運び出されちゃいましたじゃ済まないし…
「シエラ、ちょっと電話していいですか?」
「え、いいけど早くしてよ」
シエラに偵察を任せ、俺はゼヌ小隊長に連絡する
こんなの現場だけで判断できるかってんだ
……
…
「おい! 集落内で動きがあるぞ!」
オズマが双眼鏡を見ながら言う
「ラーズ! 工場に人と車が入っていってる! ダメ、動く気満々よ!」
シエラも魔術で飛ばした粘土の小鳥で工場を見てくれている
動き出した?
何、どうするのこれ!?
「遊撃から作戦本部、対象施設に動きがあります!」
とりあえず本部にインカムで報告し指示をあおぐ
「作戦本部から遊撃、可能な限り対象を足止めしろ。対応部隊はまもなく出発準備が終わる」
何言ってんの、戦力二人だよ!
しかも、俺は機動力のみ、シエラは火力のみだぞ!
包囲されて銃弾で蜂の巣か魔法で黒焦げの未来しか見えないよ!
「ど、どうするんだ?」
オズマが焦りながら聞いてくる
「やるしかないんでしょうけど…」
絶望感ハンパないっす
「そうね…」
シエラも立ち上がる
「オズマは、見つからない場所で人質の体育館を確認しといてください。データは経過をこまめにゼヌ小隊長に送ってくれ」
「わ、分かった」 「ご主人、了解だよ!」
役割分担を終え、俺達は本日の戦場に向かった