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閑話8 軌道エレベーター

用語説明w

ペア:惑星ウルと惑星ギアが作る二連星

ウル:ギアと二連星をつくっている惑星

ギア:ウルと二連星をつくっている相方の惑星

シグノイア:惑星ウルにある国

龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国


サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)


防衛軍では、年に数回、行事として合同訓練を行う

消防防災庁と合同で行う合同災害救助訓練

警察庁と合同で行う大規模警備訓練などがそうだ


また、防衛軍内でも各小隊合同の訓練や、中隊・大隊本部が指揮する訓練などもある




「めちゃくちゃ暑いですね…」


「言われなくても分かってるって。言葉にするな、余計暑くなるだろうが」


「桟橋上だと、日を遮るものもないですもんね」


「お前も見習い卒業したんだから、暑さぐらいで文句いってるんじゃねえよ」


俺達は今、海に突き出た桟橋の上で警備中だ


今日は、中隊本部が管轄小隊を集めて行う合同訓練だ

うちの小隊からは、サイモン分隊長と俺が参加している



毎年、この時期に「越境警備」といわれる行事が開催される

龍神皇国にある軌道エレベーター警備の名目で、シグノイアから防衛軍を派遣して、警備を大々的に行うという「行事」だ


なぜ行事と表現するかというと、軌道エレベーターの扱いが特殊だからだ



そもそも軌道エレベーターとは何か


軌道エレベーターとは、地面から上空に伸びた塔のような建築物だ

但し、普通の塔とは違い、地上から大気圏外まで伸びている超高層建築物だ


この軌道エレベーターの目的は二つある


一つ目は、静止衛星軌道上にあるソーラーパネルや魔素誘導結界を搭載した人工衛星から、その電力や魔力を地上へ送り届ける送エネルギー基地として役割だ


軌道エレベーターが送り出すエネルギーは、各国で消費されるエネルギーの半分を賄っており、軌道エレベーターがいくつもの資源争いを発端とする戦争を止めたと言っても過言ではない


二つ目は、その名の通り衛星軌道まで上がれるエレベーターとしての機能だ


ペアを構成する惑星、ウルとギアにはそれぞれ人類が住んでおり、お互いに人や物が行き交っている

この流れを支えているのが軌道エレベーターだ


重力魔法と惑星の自転による遠心力を利用するエレベーター機能により、低コストで宇宙飛行機を大気圏外まで上げることができるようになった

このお陰で、ペア間の物流が増え、人が行き来できるようになり、お互いの文明や文化が劇的に進歩したのだ



このように、現代社会を支えている軌道エレベーターは国の枠を越えた重要な施設だ

これだけの巨大建造物の建造にはテラフォーミング並みの資金と労力がいる


だからこそ、建造時に国連が主導となり、各国の共有財産として、各国が協力して作り上げたのだ

ウルとギアには、それぞれ六本ずつ、合計十二本の軌道エレベーターが存在している


シグノイアから一番近いものは龍神皇国にある

だから年に一回防衛軍が龍神皇国に行き、越境警備の行事を行っている


これは、軌道エレベーターが各国共有の財産であり、各国が協力して守るということを示すための行事なのだ

もちろん周辺の諸国も日を変えて同様の行事を行っている


実際、シグノイアからギアに渡る際は、龍神皇国の国際宇宙空港から、軌道エレベーターを使う宇宙飛行機で渡るのだ

物流の面でも、ギアからの物資は龍神皇国の軌道エレベーター経由で届くので我が国にとっても防衛するべき施設であることは間違いない



「何で軌道エレベーターの警備をするための練習で私達が駆り出されるんですかね?」


「防衛軍が一丸となって、これだけの訓練を行ってから軌道エレベーター警備に当たりますよって言うアピールだろ」


そう、この訓練は練習なのだ

本番で龍神皇国に行くのは、大隊や中隊本部のエリート幹部様だ


俺達は、その訓練に付き合わされているに過ぎない


「今年は海からの警備なんだな」

サイモン分隊長が汗を拭きながら言う


「去年は違ったんですか?」


「去年は、戦車並べて祝砲撃ってたぞ」


この行事は、各国が毎年出し物を変えて行われているのだ

今年は海から敵が攻めてきたと言う想定らしい


「何で海上戦の想定で、私たちが桟橋から警戒しなきゃいけないんですかね? 海の敵にどうしろって言うんですか?」


「この警備の意味は立ってることだぞ? 警戒のために隊員を配置したと言う事実以外に意味なんてないさ」


ひどい言いぐさだ

だが、桟橋で海上の敵と戦える訳もないので間違いではない


「こんな所で立ってるより、住民のクエストを消化した方がよっぽど住人のためになりますよね」


「まぁ、言いたいことは分かるが、俺達は軍隊だ。命令に従うことも訓練のうちだぞ? 考えたって無駄だしよ」


「うぅ…」


確かに愚痴ったて警備が早く終わるわけではない

そんなことはわかってるんだけどね



「お、始まったぞ。魚雷発射訓練じゃないか?」


海を見ると、水面に白い筋が走っている



ボシューーーーー!


ボボーン!



ボシューーーーーーーーー!


ボーン!



着弾した魚雷が爆発して、水柱が立つ


「何で魚雷が水面近くを走ってるんですかね? 敵にばれちゃいませんか」


「見栄えだろうよ」


この訓練、何か意味あるのか?

実用性皆無じゃねーか!



「第二波の準備が始まったな」


軍船が場所を入れ替え、方向転換をしている



その時、突然白い線が海面に描かれた


「サイモン分隊長 、あれって…」

俺が指差す方から白い線はこちらに向かってきている


「お、おい、こっちに来てるぞ!」


「うわっ! 逃げましょう!」


俺とサイモン分隊長が桟橋から陸地に走る



ボシューーーーー!


ボボーーン!


魚雷は桟橋をかすめて、停泊港内で水柱を上げた




・・・・・・




訓練は一時中止となった

軍船に乗った幹部が、間違って魚雷を発射させたらしい


「バカなんですかね。龍神皇国でやってたら国際問題になってたんじゃないですか?」


「防衛軍が赤っ恥かいてたのは間違いないだろうな」


「でもラッキーですね、訓練中止で日陰で休めますし。ジュース買ってきますよ!」


「バカ、こういう時は悔しそうな顔をするんだぞ? せっかくの訓練を中止にしやがってってな。ほら、これで買ってこい」

そう言って、サイモン分隊長が小銭をくれる


なるほど、訓練を中止してけしからん(ありがとう)ってことだな


「ご馳走様です!」

俺はお礼を言って、自動販売機に走るのだった




こんな、防衛軍のとある一日




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