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70話 お祝い

用語説明w

ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長

サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)

エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)

エレン:獣人の女性整備隊員。冒険者ギルドの受付も兼務


辞令をもらって小隊長室を出ると、エレンがいた

エレンは俺を見かけると走って来た


「ラーズ、今日は隊舎で待機?」


「うん、待機。どうかしたの?」


「実は、チョフイ市の役場の方から応援要請が来てて。 至急向かってもらいたいミッションが入りました」


「市役所からの要請なんてあるんだ。モンスターでも出たの?」


「Iランク事案みたいですね」


「Iランク? Fより下なんかあるの?」


戦闘ランクは、普通はF~Sまでが一般的だ

と、いってもA以上は天災級なのでめったにないが


だが、このランクは防衛軍が基準になっている

Fが成人男性の戦闘力で、F以上は軍の戦闘力で対応すべき内容だからだ


しかし、成人男性の戦闘力以下の駆除対象も存在する


G 野犬やカラス、ワニ亀などの害獣や特定外来種の生物

H ネズミやヒアリ等の昆虫系など小型の生物

I 細菌やウイルス等の目に見えない生物郡

…が、大まかな戦闘ランクとなる


普通は市役所などの行政機関や消防災害機関が対応するので、防衛軍でこのランクを使うことは少ない

だが、必要があれば防衛軍にも応援要請が来るのだ


一匹一匹は弱くても、大量発生したりパンデミックを引き起こしたりすれば、危険性はAランクを越えることもある侮れないランクなのだ



今日は、戦闘班であるサイモン分隊長、カヤノ、ロゼッタが防衛作戦に出動している


新たな突発事案の対応は、待機中の俺の出番となる

ランクアップ後の初出動だ、頑張ろう




・・・・・・



ミッションの内容は異常発生した混乱茸の駆除だった

枯葉剤を散布しようとしたところ、繁殖しすぎていて焼却が必要なことが判明したことで、防衛軍に応援要請が来たのだ


…疲れた


市役所の職場キプロさんと、ひたすら火炎放射して三時間

混乱茸がかなり広範囲の繁殖していて、そこら中菌糸と胞子にまみれていた


火属性増幅回路に繋がった焼却用火炎放射器は、カートリッジがキャンプ用ガスコンロのガス缶を燃料にしている

火属性増幅回路の魔石を使い切るまで、ガス缶の火力を百倍に上げる優れものだ


「役所の方も、いろいろなお仕事あって大変ですね」


「いやいや、防衛軍の方こそ危険なお仕事だから大変ですよ」


公務員が集まると、決まってお互いに苦労を労い合う

自分の普段やらない仕事は難しく見えるというのもあるが、一つの仕事に習熟する苦労をお互いに知っているからというのもある


汗だくになりながら、帰る際に名刺交換をしてガッチリとと握手をして別れる


年も近く他機関の知り合いというのはお互いに新鮮だ

ぜひ今度、一杯やりながらお互いの仕事の話をしてみたい



夕方近くに、隊舎に戻って来た

昼はキプロさんがくれたおにぎりしか食べられず、めちゃめちゃ腹が減っている


早く帰って飯食いに行こう…なんて思っていたら、隊舎の入り口でエマを見つけた


「エマ、戻りました!」


「ラーズ…お帰りなさい…。倉庫で装備外してシャワー浴びて…?」

エマは相変わらずオドオドしながら話す


「え、何かあるの?」


「そう…食堂にいるから…」

そう言ってエマは食堂の方に行ってしまった


日勤が終わるこの時間に食堂で何があるんだろう?

とりあえず、言われた通りシャワーを浴びて食堂に向かうか




私服に着替えて、帰り支度はOK

エマに呼ばれた食堂によって、それからメイルとエレンに今日のミッションの結果を報告して…ご飯食べに行く!


食堂に行くと、中に大勢の人がいる

何だろう?


俺はドアを開けて中に入る

すると…



「みんな、ラーズが来たわよ!」



パーーン! パンパーーーン!


「うわっ!?」


突然鳴り響くクラッカー



「せーの…」

「ラーズ、Dランク昇格おめでとうー!!」



響くお祝いの言葉


「え? え!?」


何と、小隊のみんなが俺の昇格祝いを準備してくれたらしい

サプライズってやつか…!



「さ、ラーズ。一言挨拶を」


メイルに連れられて、皆の前に出される


「…」


視線集中して緊張する

深呼吸して…


「えー、今回、二ランクも昇格できて、とても驚いてます。これは、間違いなく皆さんのご指導のお陰です、本当にありがうございます」


俺はペコリとお辞儀をする


「特に、私の指導担当として、直々に、粘り強く、何度も指導してくれたサイモン分隊長!」


突然ふられたサイモン分隊長がビクッとする


「何度も命を救っていただき、感謝してもしきれません。あなたの指導方法が私は大好きでした。これからも、ご指導宜しくお願いします!」


「お、おう」

サイモン分隊長は、歯切れ悪く返事をしながら目をそらす


横を向いて表情はよく見えなかったが、耳が赤くなっている…?

感謝が伝わったのなら嬉しい


「もちろん、戦闘技能、サイキック、情報、MEB、新装備など、やりたいことは沢山ありますので、皆様のご指導宜しくお願いします」


俺は隊員みんなを見渡し、息を吸い込む


「サプライズ嬉しかったぞ、ありがとー!」


周囲から笑いと拍手が起こる

挨拶って本当に難しい、こんなので大丈夫だったかな?


「真面目な話、ラーズって死んでてもおかしくない状況が結構あったわよね」

「固有特性と固有装備が揃ってるんだ、Dランクは妥当だな」

「そろそろ情報班としての斥候やレンジャーの指導も始めるか…」

「いや、モンスターハウスのあるダンジョンにぶっ込んだ方が、サバイバルも戦闘も訓練できて一石二鳥だろ…」

「パニックになれば、恐怖でサイキックも強くなるかも」


…後半、危険な会話が聞こえたが、聞こえないふりして挨拶を終える



その後は、隊員全員で飲んで食べて笑った


ちなみに、サイモン分隊長とカヤノは出動があった場合の当番なのでウーロン茶で我慢している

サイモン分隊長が、自分が飲めない分を俺に飲ませるもんだから思いっきり酔っ払ってしまった


自分が防衛軍の組織から評価されたこと

そして、小隊の仲間がサプライズで祝ってくれたこと

本当に嬉しかったんだ



…宴もたけなわの頃


「この小隊は、実力は有るけど個性が尖ってる隊員が多いのよ。特に、戦闘職にね」


ゼヌ小隊の顔が、ほんのり赤くなっていて色っぽい

大人の色気だ


「サイモン分隊長、ロゼッタ、カヤノ…、全員が固有特性と固有装備持ちで目立ちますよね」


「そうなのよ。だから組める人が少なくてね。新人で、器用で温和で人に合わせられる子が欲しいってお願いしたのよ。そうしてあなたが選ばれたってわけね」


「そうだったんですか。未だに、あの三人のような火力を出せてないですけど大丈夫ですかね…」


「あなたの強さは火力じゃないわ。他の人の火力を上げられることよ? 身が軽く機転が利くから、偵察や情報収集、囮や補助が味方に合わせて使い分けられる。これは、あの三人には出来ない強みなのよ?」


「は、はぁ…」


「人柄を含めて連携を強化できる人材は貴重よ。 経理の仕事まで手伝ってくれる戦闘職なんていないもの。みんな期待してるから頑張ってね、道化竜ラーズ?」

いたずらっぽくゼヌ小隊が笑う


道化役はサーカスの花形ではないが、サーカスの質を決める重要な脇役だ

空中ブランコや猛獣使いなどの花形だけでは二流、おどけて失敗して笑わせるピエロがいるからこそ、花形がより輝くのだ


「あなたにピッタリよ?」

そう言ってゼヌ小隊は行ってしまった


ゼヌ小隊長、わざわざ俺に話に来てくれたのかな?

別に脇役でもいい、部隊として勝てれば、そして全員で生きて帰れればいいんだしな



「はい、今日はそろそろお開きにしましょう。最後に、ここの隊舎の改装が決まったわ。個人の机も置けるようになる予定よ。改装中の手伝い宜しくねー!」

ゼヌ小隊のお開き宣言


「やった!」「仮眠室も新しくなる?」「医療器具が増やせる…」

隊舎は古かったから、みんなの歓喜の声が上がる




帰り道

夏に向かっていく季節が、心地よい夜風を届けてくれる


俺は1991小隊に配属されて、改めてよかったと思う


同僚で戦友、上司で先輩、今では本当に家族のようにさえ感じる時もある


そして、俺達の仕事で助けられる人がいる

公務員冥利に尽きるってもんだ


さ、早く帰ってフィーナにランクアップのことを話そう




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