69話 ランクアップ
用語説明w
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
メイル:1991小隊の経理と庶務担当、獣人の女性隊員
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
ロケットハンマー:ハンマーの打突部にロケットの噴射口あり、ジェット噴射の勢いで対象を粉砕する武器
出勤すると隊舎に献血の車両が来ていた
防衛軍の地域貢献の一端として、年に一回献血に協力するらしい
防衛作戦が発令された時の当番要員以外は献血に並び始める
確かに、戦場で貧血になったら大変だもんな
俺は下っぱということで献血第一号となった
輸血には人工血液を使っているが、これに本物の血液を混ぜることで血液の質がかなり良くなる
そういうわけで、献血の需要はまだまだあるのだ
献血が終わるとゼヌ小隊長に呼ばれた
「何だろう?」
特に心当たりはない
「そっか、ラーズは昨日出動してたから知らないんだっけ」
メイルが給料明細を各隊員のレターボックスに突っ込みながら言う
「俺、何かやりましたっけ?」
「違うよ、いい話だから大丈夫。堂々と行ってきなよ」
俺は首を捻りながら小隊長室に向かった
・・・・・・
小隊長室に入るとジードもいた
「ラーズ、あなたに辞令を交付します」
改まってゼヌ小隊長に言われる
「辞令ですか?」
まさか出向させられる?
最悪、転勤で別の小隊に異動とか!?
ゼヌ小隊は頷いて口を開く
「ラーズ隊員、本日をもって単独でのクエスト受注を正式に許可する。これに伴い、戦闘ランクをDランク相当と認める」
「は、拝命します」
俺は敬礼を返す
とりあえず、防衛軍の礼法に合わせた
えーと、見習いを卒業して戦闘ランクが上がったのは分かる
俺は見習いだったから戦闘ランクが最低のFだった
普通ならEになるはずだが、一つ飛び越えたってことか?
「…お前、意味分かってないだろう?」
ジードが呆れた顔をする
「いや、すみません。いきなりだったので…」
「要は、正式に見習いを卒業。更に戦闘ランクがDとして認められたってことね」
「はい、ありがとうございます」
メイルが言っていた良いことって、こういう意味ね
見習い卒業は素直に嬉しい、後で指導してくれたサイモン分隊長にお礼を言いに行こう
「…」「…」
ゼヌ小隊とジードが、微妙な顔で俺を見てくる
「…?」
「…やっぱり分かってないか。お前、戦闘ランクの2ランクアップって凄いことなんだぞ?」
「2ランクアップなんて普通はあり得ないわ。かなりの実績が認められた、例外中の例外でしょうね」
最近、やっと防衛軍の組織のことが分かってきたのだが…
戦闘ランクと防衛軍の称号はほぼ比例する
称号とは、防衛軍によるその兵士の「扱い」のことだ
称号と戦闘ランクが上がれば、それだけ難しいミッションやクエストに参加できるのだ
この称号の他に軍隊の階級も存在するが、これは指揮権限の有無に関わるものなので、戦闘力やミッション・クエストとの関係は薄い
防衛軍では、戦闘ランクと称号…、つまり扱いはこんな関係だ
F → 見習い兵士
E → 一般兵士
D → 上級兵士
C → 達人兵士
Eランクは大多数を占める一般隊員
Dランクは、高難度ミッションに挑む一流隊員
Cランクは、防衛軍の選ばれし最高位の戦力だ
戦闘ランクがその兵士の扱いに直結し、参加する戦場までが決まるのだ
それだけ、戦闘ランクのアップは慎重に行われるのだろう
それなのに戦闘ランクが二つもアップなんて、いったい何の実績が認められたんだ!?
「オートマトンの集団を一掃して部隊を救った功績と、Bランクモンスターを誘き寄せて討伐に貢献した功績が評価されたらしいぞ」
ジードが教えてくれた
「えぇ、それって…」
…どっちも、俺は囮になっただけじゃねーか!
倒したの俺じゃないのに、何で俺が評価されたの!?
「で、更に凄いことに通り名まで登録されたのよ」
ゼヌ小隊長がにこやかに言う
「通り名ですか?」
「通り名は、簡単に言うとあだ名よ。Dランク以上は人事部があなたの功績を聞き取り調査して、通り名が浸透していれば隊員人事記録に登録するのよ」
通り名
その隊員の、特性、戦術、装備、功績などによって、他の隊員に付けるあだ名のことだ
防衛作戦は、お互い名前も知らない状態で従事することが多い
特徴が人目で分かる通り名は、防衛軍ならではの慣習だ
更に、通り名が付くということは、実際に一緒に戦った隊員が尊敬(または軽蔑)の意を込めて付けたということで、実力の証明として信頼性がかなり高いのだ
よって、通り名が確認できた場合は、本人の意思に関係なく隊員人事記録に登録される
…本人の気に入らない通り名が付いてしまった場合は諦めるしかないという、冷酷な制度でもある
通り名を決めるのは周囲の隊員なので、しょうがないことなのだが
「…それで、私の通り名って何なんですか?」
変な通り名だったらどうしよう…
本気で嫌なんだけど
「ふふふ、それはね。道化竜、よ」
「ど、道化竜って、Bランクのチャラい人が口走ってたやつですよ?」
「そのまま浸透したのかもしれないな。囮役で貢献した竜人のお前にピッタリじゃないか。あの状況で囮をやって生き残るのは誰にでもできることじゃないしな」
ジードが頷きながら勝手に納得している
「通り名が付くのは名誉なことだし、かっこいいから良いと思うわ」
「はぁ…」
「あ、ラーズ。サイキックの件はとりあえず黙ってるから。ちゃんと使いこなせれば固有特性として申請してもいいけど、全ての情報を登録する必要もないからね」
「分かりました」
「あともう一つ。Dランク以上は、必要に応じて個人を指定する指名クエストの要請が来る可能性があるの。個人の技量、固有特性、固有装備で決まるから、装備を変えたら隊員人事記録の情報を更新してね」
隊員人事記録には固有装備が登録される
俺の固有装備は鎧のフェムトゥだ
それを今回、ホバーブーツとロケットハンマーの二点を固有装備として追加登録してくれたらしい
アーマー系と違い、武器や移動手段としての固有装備は、ある程度使いこなしていると認められないと登録されない
アーマーと違って身に付ければすぐ使えるわけではなく、習熟が必要となるからだ
確かに、装備によって出来ることが変わるし、実力も推測出来るからこれは納得できる
ゼヌ小隊長はここまで話すと、立ち上がって俺に向き直る
「ラーズ隊員。今後のあなたの活躍を期待します」
ゼヌ小隊長が敬礼する
「はい!」
俺も敬礼を返す
「Dランクになったんだ、防衛軍の上級者の仲間入りだ。しっかりな」
「はい!」
ジードにも敬礼を返して、俺は小隊長室を後にした
情報量が多過ぎて、頭がついていかない
お茶でも飲んで一服しよう
今日だけで人事記録がだいぶ変わったな、俺…
隊員人事記録(※見習い卒業、ランクアップにより更新)
氏名 ラーズ・オーティル
人種 竜人
所属 1991小隊
称号 見習い兵士 → 一般兵士(上位兵士に申請中) New!
通り名 道化竜 ←New!
戦闘ランク F → D ←New!
固有装備 ←New!
・フェムトゥ R3
・ホバーブーツ
・ロケットハンマー
固有特性 ナノマシン統合集積システム
得意戦闘 ←New!
・囮、味方の編成に合わせた柔軟な立ち回り
・攻撃: 遠、中距離の射撃、杖とモ魔の魔法、近接
・ホバーブーツでの高機動戦闘、補助も可能