67話 消耗戦1
用語説明w
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
偵察用ドローン:カメラ付きドローンで、任意の場所にとまらせて偵察カメラとして使い、PITで画像を受信する
今回は合同ミッションに参加している
俺は南側の防衛作戦に従事している
だが、戦闘が始まって気が付いた
ここは外れの戦場だ
外れって何かって、負け戦ってことだ
完全な負けではないが被害が大きすぎる
ゴーレムとミノタウロス、それにゴブリンの混成部隊が今回の敵だ
自然発生ではない構成なのだが指揮官は無く、友軍の三個小隊で特に被害無く殲滅していった
だが、横からハカルの戦闘員率いるミノタウロスの新たな部隊に襲撃を受けた
現在、都市部でにらみ合っている状況だ
一番の問題は、補給部隊との連携を断たれていることだ
もうすでに味方戦車とMEBの燃料が尽きかけ、弾薬が底をついてきている
「ブモォォォォ!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 「来るなぁぁぁ!」
右の瓦礫をバリケードにしていた友軍が突破されたらしい
すでに、三個小隊のうち一小隊が壊滅している
今ので、もう一小隊が壊滅したということだ
「くそっ! 補給さえ出来れば…」
ノーマンの兵士が悔しそうに言う
「まだ弾は残っていますか?」
俺は自分の弾薬を確認しながら言う
「あとマガジン一個で終わりだ」
「俺も似たようなものですね」
「…」「…」
二人で顔を見合わせてため息をつく
先ほど偵察用ドローンを飛ばした
映像をデータに確認してもらっている
「ご主人! 右翼の部隊は全滅だよ! ただ、ミノタウロスを相討ちにしたみたいだよ! 敵の生存も無し!」
「了解、敵の数は?」
「ドローンで確認できるのは、ミノタウロス三体、魔術師一体だよ!」
「分かった、ありがとうデータ」
ハカルの戦闘員は魔術師だ
こいつの補助魔法がやべぇ…
ミノタウロスに身体能力の強化、硬化、防御の魔法をかけてくるのだ
近接攻撃しかないミノタウロスが突っ込んできても、本来はアサルトライフルで蜂の巣にして終わりだ
だが補助魔法で強化されると、アサルトライフルを撃っても倒しきれないで接近を許してしまう
接近されるとミノタウロスの片手斧を防ぐ術がなく、被害が大きくなっているのだ
「くそっ、どうする!?」
ノーマンの兵士がうめく
「ドローンで確認したところ、ミノタウロスはあと三体です。最初に来るミノタウロスに魔石を使うので集中攻撃してください」
俺は、周りの兵士に声をかける
三個小隊中二小隊が壊滅し、俺達の小隊も9人中6人しか生き残っていない
「魔石って何の…」
ノーマンの女性兵士がいいかけた時、
「ヴモォォォォ!」
ミノタウロスが一体突っ込んできた
やはり動きが早い、補助魔法でステータス増し増しになっているようだ
「いきますよ!」
俺は、魔石装填型小型杖を振る
装填した魔石は無属性解呪の魔石
昨日もらったばかりの、エレンが仕入れた新しい魔石だ
シュゥゥゥゥ…
解呪の魔法弾が当たると、ミノタウロスの動きが遅くなる
ダダダダッ ダダダダッ ダダッ
一斉集中砲火…ミノタウロスは一瞬で血だるまになった
開けた場所で、アサルトライフルに片手斧が勝てるわけは無い
普通ならね
「おおっ!」 「今の何!?」
味方が驚いている
悪い気はしないが、今はそんな事言ってられない
「解呪の魔石ですが、試供品なのであと一個しかありません」
俺はもう一個の解呪の魔石を装填する
「ブモォォ!」 「ンモォォォォ!」
すると、二体のミノタウロスが同時に突っ込んで来た
決着を着けるつもりらしい
「一体は任せろ! もう一体は頼む!」
大柄な兵士が、大盾を構えて片方のミノタウロスを迎え撃つ
ボシュゥゥゥ…! シュゥゥゥゥ…!
と同時に、二発のロケットランチャーがもう一体のミノタウロスに向かう
「ごめん、これで弾切れ!」「同じくだ!」
魚人の女兵士と神族の男兵士が叫ぶ
俺は、イズミFを構える
貫通能力の高い疑似アダマンタイト芯の徹甲弾だ
「準備できたわ! どいて!」
その時、ノーマンの女兵士が叫んだ
片方のミノタウロスと盾で押し合っていた大柄の兵士が、サッと身を引く
ボオォォォン!
「ブモォォッ」
女兵士の持つ杖から火の玉が放たれ、ミノタウロスに直撃した
ミノタウロスは仰け反り、苦しんでいる
ドォン…!
俺はミノタウロスの頭を徹甲弾で撃ち抜いた
ドゴォォォン! ダン! ダダンッ!
もう一体のミノタウロスを見ると、それぞれの兵士がハンドグレネードや射撃で止めを刺していた
「…やった! ミノタウロスを全滅させたぞ!」
「後はハカルの魔術師だけね」
神族の男兵士とノーマンの女兵士が声を上げる
「仲間を何人も失った…、あいつは許せねぇ、やるぞ!」
大柄の兵士も口を開く
「だが、弾薬が少ない。残りの弾薬を一人に集めるべきだ。銃以外で攻撃方法を持っているのは?」
ノーマンの男兵士だ
考えてみると、今日会ったばかりの仲なので、お互いまだ名前も知らないんだよな
俺は手を上げる
「ホバーブーツでの高機動、近接武器、モ魔の範囲魔法、魔石装填型の小型杖が使えます。後は、スナイパーライフルの弾が少し残ってます」
ノーマンの女兵士も手を上げる
「火属性の投射魔法、範囲魔法、それにモ魔の範囲魔法が使えるわ。魔力回復薬も残ってるからそれなりに撃てるわ」
女兵士は魔法使いタイプか
最後は大柄の兵士だ
「俺は、高機動アーマーでシールドによる防御ができる。背中のジェットスラスターで短距離の高速移動も出来るぜ。メインは銃を使ってるから、弾薬をもらえれば戦えるぜ」
この兵士の鎧はおそらく機械式の固有装備なのだろう
「なら、戦えるのは三人だな。私を含めて、弾薬がなければ戦力になれない残りの三人は撤退して助けを呼びに行かせてもらう」
ノーマンの男兵士が結論を言う
俺達は、互いに頷いて弾丸を大柄の兵士に渡す
同じ防衛軍の兵士は同じ規格の弾薬を使っているので、こういう時は便利だ
相手は魔術師、単独なら攻撃魔法さえ気を付ければ苦戦はしないだろう
魔法は部隊対部隊でこそ脅威だが、個人対個人なら一発の銃弾で勝負が付ついてしまうからだ
「ご主人! 魔術師が魔法を発動したよ! 水属性の魔法みたいだよ!」
データの声に、俺は戦闘に行く二人に合図する
大柄の兵士が防御しながら射撃
俺が中距離から、魔法の攻撃と飛び込んでの近接を狙う
ノーマンの女兵士は遠距離からの魔法攻撃
大雑把に役割分担をして、戦闘に入る
撤退する三人は、
「後で名前を教えろ! 死ぬなよ!」
そう言って、走っていった
さ、魔術師狩りだ