66話 一人クエスト
用語説明w
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ドラゴンブレイド:ロングソードの一種ドラゴンキラーの特性がある
霊札:霊力を込めた徐霊用の札
承認待ちとはいえ、俺は見習いを卒業した
クエストはもう一人で受けていいということなので、さっそく受けてみた
海岸沿いにある、過去の放棄された都市郡に出る幽霊退治だ
近くに海水浴場があるので、危険防止のためシーズンを迎える前に依頼が来たらしい
ここら辺は自殺者も多く、アンデッドが度々沸くのだ
今回は、強力なゴーストが現れたらしい
俺は霊視アプリを起動し、映像をヘルメットの仮想モニターに重ねる
「ご主人! ボクのアバターにも霊視カメラ入れてよ! そうしたらボクもゴースト系が見られるよ!」
データから珍しくお願い事
今回は、目では見えにくいゴースト系が相手だ
霊視カメラがない、通常のカメラしか付いてない今のデータのアバターでは索敵がほぼできないだろう
「そうだなー、早めに買おうな」
俺は徐霊用の霊札を腰のホルダーにセットして用意する
当然、この霊札にも経費がかかっている
この霊札の使用数を、徐霊したゴースト系の数 + 規定枚以内で済ませられれば、クエスト達成報酬全額
一枚増える毎に、報酬を下げられていく条件になっている
更に俺は、魔石装填型小型杖に聖属性回復の魔石を装填する
聖属性と魔属性
この属性は、火属性と冷属性の関係に似ている
相反し、かつ同種の表裏一体の属性だ
聖属性は生命力を上げる属性
魔属性は生命力を下げる属性だ
生物の生命力はゼロより高い数値であり、ダメージを受けてゼロになれば死に至る
そして生物の生命力が、何らかの理由でゼロを越えてマイナスまで行った状態がアンデッドとなる
アンデッドのマイナスの生命力を聖属性で上げることで「ゼロ」にする、これが徐霊という行為である
聖属性は光属性や神属性とも呼ばれ、魔属性は闇属性等とも呼ばれるが、本質は同じ属性だ
これが、アンデッドに聖属性の回復の魔法効果がアンデッドにダメージを与える理由だ
「アンデッドは、魔法系しか効かないからめんどくさいよな…」
俺は、更に左腕に取り付けたもう一本の魔石装填型の小型杖に火属性照明の魔石を装填する
前から頼んでたもので、今日メイルから渡されたもう一本の小型杖だ
普通の杖と違い、前腕にベルトで取り付けるタイプだ
更に念のため、ドラゴンブレイドを背中に背負っている
半分以上が海に沈んだビル郡の中まで来た
海水浴場から離れているとはいえ異様に静かだ
倒壊したビルの壁が日の光を遮り、辺りは薄暗い
「ご主人! 討伐対象の出現ポイントだよ!」
「うん、警戒を頼むな」
今にも何か出そうな雰囲気だ
ヒュオォォ…
気配がする方向を向くと…
…っ!
何年物かも分からないゴーストがいた
もはや生前の記憶は失われているのか、体の形を保てずに崩れている
恐らく人形であったであろう体型だが、頭が腹辺りに落ちて左腕もその腹の横から生えてしまっている
もはや二足歩行くらいしか、人の特徴が残っていない
顔は崩れてよく見えないが、それでも悪意が伝わってくる
ろくな死にかたしなかったんだろう、生者は絶対許さないという意志が伝わってくる
とりあえず霊札でぶっ飛ばすか
ボッ!
俺は、ホバーブーツのエアジェットで一気に突っ込み、霊札を貼る
ボッシュゥゥ…!
白い爆発が起こり、悪霊と化したゴーストが怯む
だが、徐霊までは至らなかったようだ
「っ…! …っ……!!」
何かを叫んでいるが、声帯が無いのか声としては出ていない
だが、分かる
これは精力の腕だ
この悪霊、テレキネシスをつかうのか!
精力の腕が、瓦礫のコンクリートを掴んで持ち上げる
精力の腕は二本だ
ゴウッ!
コンクリートの塊が二つ、俺に向かって突っ込んでくる
俺は一つを避けてゴーストに突っ込…
ドガァッ!
「うがぁっ!」
少し離れた所に飛んできたコンクリートの塊が、カーブして俺に命中した
よく見ると、コンクリートの塊に精力の腕が付いたままだ
塊を飛ばす力を与えた後も、精力の腕を繋げたままならなある程度方向を変えられるのか!?
テレキネシス、厄介だな
だが、フェムトゥの装甲でそこまでのダメージはない
俺は、すぐさま左腕に付けた小型杖を振る
バアァッ…!
照明の魔砲弾がゴーストに飛んでいき、弾けて光が炸裂する
「……っ!」
相変わらず声は出ないがゴーストは苦しんでるように見える
日の光はアンデットの霊体構造を破壊するが、照明の魔砲弾でも多少効果はある
大学時代に、バイトでゴーストハンターの真似事をしていた俺をなめるなよ?
俺は、怯んでるゴーストに突っ込んで右手の小型杖を振る
パァッ…パァッ…… パァッ…!
「…っ! …! ……っ!」
ゴーストは、霊体構造を回復の魔砲弾によって消滅させていく
しかし、まだ消え切らない
くそっ! 霊札を使ってもいいが、報酬のためには節約したい
ここは、ドラゴンブレイドで切りまくるしかないか
ドラゴンブレイドは、物質的にはただのロングソードだがドラゴンキラーの効果がある霊的構造を併せ持つ
霊的構造があれば、ある程度はゴーストなどの実体を持たない対象にもダメージを与えられるのだ
「はぁっ!」
ブンッ ブンッ ブンッ!
「…っ! …!」
ドラゴンブレイドが空を切る音がするが、ゴーストは苦しんでいる
ダメだ、やはり効果は薄そうだ
ゴーストは、ダメージを負いながらも精力を放って何かを狙っている
またコンクリートでも飛ばす気か?
テレキネシスまで使える悪霊と化したゴーストに手間取っていると危険だ
俺は霊札を取り出して、ゴーストに張り付ける
ボッシュ……!
ゴーストは、白く爆発して消滅した
「ふぅ…」
俺は、大きく息を吐く
一人クエストは、何かあったときに助けを呼び辛い
やっぱり不安は大きいな
その時…
周囲のコンクリートの瓦礫の上に、大量の気配に気が付いた
黒い小さい影、チゥチゥという鳴き声…
凄まじい数のネズミだ
ネズミの群れを、全体的に薄く精力が包んでいる
「まさか、テレパスか…!?」
あのゴースト、こんなに大量のネズミを操れるのか!?
ザァァァァァ…
大量のネズミ達は、一斉に散っていく
「た、助かった…」
どうやら、ゴーストを徐霊出来たことでテレパスの効果も途切れたらしい
もし、あの大量のネズミに一斉に襲われてたら…
「あれ、俺死んでた?」
ここは逃げ場もない
一斉に襲われたら、すぐに骨以外は食い尽くされただろう
背筋に冷たいものが流れた
怖っ…、運で生き残ったことにゾッとする
「ご主人! センサーを追加してね!」
データの声に大きく頷く
サーモ、霊視、暗視、各カメラを買いに行こう
そうすればネズミ集まっていることにも気がつけただろうし
情報が無いって恐ろしい
しかし、あれだけのネズミを操れるゴーストってヤバい
報告して調査した方がいいだろうな
何がBランクを倒すだ
集団の低ランクの方が絶望感ハンパなかったぞ?