5話 いきなり初陣2
用語説明w
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主
オーガの姿を目視で確認
俺は慌てて装備を掴み、サイモン分隊長に付いて行く
「ラーズ、行くぞ! 気合い入れろよ!」
サイモン分隊長が一歩踏み出す
「はい!」
ついに始まった
行くぞ!
俺は重心を前に倒し、ホバーブーツのエアジェットで前に進む
ホバーブーツ
圧縮空気を放出して少し浮くことで地面との抵抗を無くし、後部からエアジェットを噴出させて高速で移動できるブーツ
バランスをとるのが難しいが、使いこなせれば高機動力を実現する
オーガがこちらに気付く
怖っ! 近づいてくるなよ!
目的は死なないこと…、行くぞ!
オーガが牙を剥き出して吠える
「ゴアァァァァ!」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
…ゴンッ!
「痛ぁっ!!」
「うるせぇ! 落ち着けバカ!」
サイモン分隊長の拳が降ってきた
「いきなりビビるな、落ち着け。ホバーブーツのお前の方が機動力は圧倒的に上だ」
「は、はい! びびりました、すみません!」
「オーガも命を賭けてるんだ。死なないために必死で来る、気合いで負けたら押し切られるぞ」
「…はい!」
確かに、オーガだって必死なはずだ
気合いで負けたらだめだ
ファーストコンタクトはサイモン分隊長だ
「オラァッ!」
ガンッ!
サイモン分隊長がオーガの拳を受け止める
凄い、全然力負けしてない!
俺も続くぞ
俺は別のオーガを左に回りながら、モ魔で風魔法を読み込み始める
接近してきた一番近いオーガにアサルトライフルを撃つ
ガガガガが…
「グガァァッ!」
オーガは怯むが、そのまま向かって来る
こ、効果が無い!?
3メートルの巨体には12ミリの銃弾なんか針で刺されたようなものなのかもしれない
「ウガァァァァァァ!」
吠えて向かってくるオーガ、怖ぇよ!
やべ、左回りで距離を取れ
左側に体を倒して急カーブする
ブオン!
オーガの爪が俺の肩をかすめる
「危ねっ! 無理無理無理!」
アサルトライフルじゃだめだ、豆鉄砲だよ!
どうする?グレネードか!?
どうするどうするどうする…
「落ち着け! ショットガンで膝を狙え!!」
サイモン分隊長の声がインカムから聞こえる
…膝!?
とりあえず、まとまってるから風魔法発動!
モ魔が風魔法を発動させる
ビュオォォォォォォォッ!
「ギャアァァッ!」 「ガアァァァッ!」
手前の2匹のオーガを竜巻が包む
おぉ! 肌を切り裂いて結構血が出てる
オーガには攻撃魔法が効いてるようだ
この隙に陸戦銃に散弾を装填
アサルトライフルを撃ちながらオーガに接近する
ガシュッ!
「ギャアアァァァァ」
襲ってきた一匹を右に避け、避け様にオーガの左膝に散弾を発射
近距離で命中し、左膝が肉と血の固まりに変わりオーガが倒れる
続けて、その横のオーガに混乱の魔石を装填した小型杖を振る
フィン…!
混乱の魔法弾が前のオーガに当たり、動きが止った
オーガは佇んで空を仰いでいる
ラッキー、一発で混乱したな
精神属性に弱いのか?
防衛軍では、特殊な技能や才能が無くても使える一般兵用の武器が支給されている
俺が使っている武器は三種類だ
まずは、シグノイア純正陸戦銃
連射の効くアサルトライフル、グレネードと散弾が装填できる砲の二連装銃だ
小型のモンスターにはアサルトライフル、大型にはグレネード、動きの速いモンスターには弾が広がる散弾を使い分けている
次に、魔法武器であるモ魔と魔石装填型小型杖
魔法を使えない俺の必須武器となっている
モ魔とは、魔法が封印された通称「巻物」と呼ばれる使い切りの呪文紙を読み込むモバイル型呪文発動装置
これを使えば、巻物に封印された各属性の範囲魔法(小)が発動できる
魔石装填型小型杖は、「魔石」という単発魔法を封じた使い切りの石を装填して使う携帯用の短い杖だ
魔導士の杖と違い魔法強化の機能はないが、その分、魔導士の杖よりも短く、腰のベルトに取りつけられる
魔石は巻物と違い単発魔法の魔法弾を撃つことができ、直接攻撃用の魔法は少ないが、種類が多く使い勝手がいいのが特徴だ
固有装備ほどではないが、一般兵を支える信頼できる武器だ
「ヴガアァァァッ!」
「うおっ!?」
後ろにいた三匹目のオーガが走って殴りかかってくる
バックステップで躱す
こいつは小柄だな
体が小さいとリーチが短い
体格は、残酷と思えるほど近接戦闘には重要な要素だ
ガシュッ!
すぐに膝に散弾を発射
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
左膝に命中
オーガが片膝をつく
散弾は弾切れ!
すぐに、アサルトライフルで膝をダメ押しで撃ちまくる
ガガガガ…!
アサルトライフルじゃ仕止められそうないか…
「っ!?」
視界の端に何かが動いた
バサッ!!
「ぐぁっ!」
痛ぇ、何かが飛んできた
土と砂利か!?
オーガが地面をえぐって投げつけたようだ
最初に膝を撃ち抜いたオーガか!
ブァサッ!
「くっ…!」
土を投げつけられるだけだが、オーガの力だとかなり痛い
しかも視界が遮られるのが危険だ
「ガアァァァッ!」
「…えっ!?」
しまった、もう一匹オーガが近づいて来てた!
ドッゴォッ!
「ギャアァァッ!」
攻撃を喰らったと思った瞬間、オーガが突然爆発で吹き飛んだ
「えっ!?」
「ラーズよくやった!」
サイモン分隊長が、バズーカを撃ち込んでくれたようだ
た、助かった…!
ドガァァァァァァァン!!
「うわっ!?」
えっ!? 何! 何!?
突然、膝を撃たれて倒れていたオーガが爆発
ヒュルルルル・・・
ドガァァァァァァァン!!
遠くから戦車が迫撃砲を撃っている
味方の狙撃かぃ!
「足止め完了だ。後は戦車の仕事だ、任せよう」
サイモン分隊長が俺の所に来る
「あ、は、はい…」
俺は状況が飲み込めず、間抜けな返答をしてしまう
…迫撃砲により、生き残っていたオーガの処理があっという間に終わってしまった
凄くあっけない
あれ、オーガリーダーとかどうなったんだ?
・・・・・・
「がっはっはっはっは! よく生き残ったな、ラーズ」
サイモン分隊長が俺の肩を叩く
「最初から戦車で戦えば良かったんじゃないですか!?」
「何言ってんだ。俺達が足を殺してダメージを与えたから一方的に撃ちまくれたんだろうが」
「…」
「正面からバカみたいに撃ちまくってみろ。敵が動いて砲撃はあたらない、投石やとかで反撃もされる、最悪接近されれば戦車が壊されるんだ。 特にリーダーは魔法も使うんだぞ」
「近づく前に倒せたんじゃないんですか?」
「倒せなかった時を考えるんだ。接近を止める歩兵がいないと戦車兵が死ぬんだぞ? しかも、操縦は整備のクルスとホンで戦闘員じゃないんだ」
な、なるほど
確かにそうかもしれない
「…はい」
「正直、ここまでやれるとは思わなかったぞ。自信を持て! 今日はお前が仲間を守ったんだ、よくやったぞ」
「はい、ありがとうございます」
「だが、大物は足の関節を狙うのは基本だ。複数の場合は特にな。覚えとけよ」
「はい、勉強になりました」
「ところでお前、回復薬とかカプセルワームとか持ってるのか?」
「え? まだもらってないですけど」
「…一撃喰らったら死んでたな。基本から教えなきゃだめだな、お前」
あ、アイテムくらい渡してから出撃させろや!
基本なら先に教えとけ、このハゲ!
「…お前、今失礼なこと考えただろ?」
「な、何のことかさっぱりです!」
醜態はさらしたが…
防衛軍に本採用後、初戦闘は勝利で終われた
見習いとは全然違う、危険な任務
手応えはあった、が…
生きる術(味方からの情報収集)が足りないことを痛感した