61話 オルハリコン
用語説明w
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
メイル:1991小隊の経理と庶務担当隊員
カヤノ:MEB随伴分隊の隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
シリントゥ整備長:整備班の整備長。ドワーフのおっさん
クルス:ノーマンの男性整備隊員、車両の運転も兼務
ホン:ノーマンの女性整備隊員、車両の運転も兼務
「お、おまっ、こ、こっ、こ…」
シリントゥ整備長が目を白黒させている
「…鶏のまねですか?」
「ば、バカ野郎! お前、これオルハリコンだぞ!?」
「え?」 「うん?」 「へ?」
俺と同時にクルスとホンが反応する
「…」 「これが?」
クルスとホンは、オルハリコンと呼ばれた金属の支柱を眺めている
俺は、神秘的な輝きを持つ金属の支柱を整備班で見てもらおうと持ってきた
ハチオウの町で倒壊した魔導電波塔から、こっそり拝借してきた物だ
「間違いねえはずだ。俺も数えるほどしか見たことはないが、この輝きは忘れねえよ」
シリントゥ整備長が、腕を組ながら困った顔で言う
「…勝手に持ってきちゃったんですけど、まずかったですかね?」
「だが、オリハルコンがあると分かってる塔を戦闘現場にするとは思えねえ…。多分、これがあることは知らなかったんだろうな」
「返した方がいいですかね?」
「いや、今さらややこしくなるだけだ。しらばっくれよう」
「…だ、大丈夫ですかね?」
「万が一の時は、支柱を記念に持ってきただけで価値があるとは思えなかったってことにするしかないな」
俺は頷く
まあ、嘘ではないしな
「お前、オルハリコンの価値分かってるか?」
「いや、知らないですが高そうですよね? 有名な希少金属ですし」
「この支柱一本で一億ゴルド越えるんだぞ」
「え!?」
木刀くらいの太さ、長さ1.5メートルくらいのただの支柱が一億ゴルド!?
さすが、最高級の武器防具に使われるだけあるな…
「何でこれを持って来ようと思ったんだ。お前、鑑定の経験とかないだろ?」
「多分、どっかの博物館とかで似た輝きの金属を見たことあったんですよ。 心引かれて、瓦礫内に放置するのが勿体なく思ってしまいました」
「なるほどな」
「整備長、このオルハリコンって凄い硬度なんですよね? 武器にできたりするんですか」
俺は思い付いて聞いてみる
オルハリコンの武器って凄そうだし
「このままでは厳しいだろうな。よほどの腕力で叩きつけることが出来れば武器にはなると思うが。加工にも当然金がかかるしな…。売り払っち待った方がいい気もするぜ?」
「うーん…、こんな高額商品売り払うのも怖いですよ。そもそも盗品に近い物になっちゃいますし」
「ま、しばらくは寝かしといた方がいいかもな」
「そうですね。分不相応な物ですから寝かしておきます」
横を見ると、クルスとホンがオルハリコンの支柱をなで回していた
メカニックにとっても希少素材は価値のあるものだったようだ
・・・・・・
カヤノにサイキックの訓練をお願いした
「前回、訓練後に熱が出て頭痛になって散々だったんですよ」
「それだけ、今まで無かった力に覚醒することは体への負担が大きいんでしょうね」
「なれるしかないんですよね…」
「焦らずゆっくりやりましょう」
前回と同じようにカヤノに精力を放出してもらい、それを感じる
うん、やっぱり何かが自分に当たっている感覚がある
しかも、今回は目の前の方向から、波のような何かが来ていることが分かる
………
……
…
前回は精力の放出されている方向は分からなかったと思う
少し慣れてきたのかな
「感じられる事が増えたのはいいわね。やり過ぎるとまた熱が出るからここまでにしましょう」
「カヤノ、ありがとうございます。上達を実感できてちょっと嬉しいですね」
「もう少し上達してからでいいんだけど、ラーズがどういう風にサイキックを使いたいかを考えてみたらどうかしら?」
「どういう風に、ですか?」
「サイキックは精力のイメージが重要なの」
テレキネシスなら、
大きい一本の腕で物を持ち上げる
小さいたくさんの腕で、たくさんの物を持ち上げる
捻る力、破裂する力、切断する力等を物体に与える
テレパスなら、
一人の思考を深く読み取る
複数人の思考を浅く読み取る
動物の思考を読み取る
透視能力で物体の向こうを見る
透視能力で物体の内部構造を見る
物体や場所の残留思念を読み取る
などなど、自分の才能にあった、自分の欲しい能力をイメージしながら訓練していくらしい
俺はテレキネシス型のサイキックが発現したらしい
残念ながらそこまでサイキックの力は強くないらしいので、自分の三本目の腕として使えればいいのかな?
サイキックのタイプや能力によって精力の形が変わる
これって、まさにスタンd…
「ご主人!? 変なこと考えたらダメだよ!」
データの声で、俺は我に返った
…AIのくせに、俺の思考を具体的に読みすぎじゃないだろうか?
「私の場合は、飛行ユニットの羽から精力を放出するイメージで自分の体を浮かしているわ。イメージは人それぞれだから、色々な人に聞いてみるといいと思うわ」
「なるほど…。でも、うちの隊のサイキッカーってカヤノだけですよね」
「あら、エマもサイキッカーよ。 攻撃には使えないけど、面白い能力だから聞いてみるといいわ」
「エマがサイキッカー!?」
し、知らなかった
ちなみに、他人のサイキック能力を他言するのはマナー違反らしい
今度、エマに聞いてみよう
・・・・・・
経理室
勤務終了までバイトでもしようと来てみた
「ラーズ、ありがとう。助かるよー」
メイルは、相変わらず書類と領収書の束に埋もれていた
「やっぱり、一つの小隊で買われる領収証ってとんでもない量ですね…」
俺は、領収証の束を前に立ち止まる
「防衛軍は公務員の中でも特殊だからね。現場出ることも多いし、それだけ突発で買われるものも多いんだよね」
「それを経理一人で処理するって凄いですね」
「うちは少人数だからね。他の小隊はもっと人数がいるから経理の人数も何人かいるんだろうけどね」
経理を一人でやっているメイルのために、俺は時々領収証の入力作業を手伝っているのだ
戦闘職の俺にとっては業務外の仕事なので、バイト代ももらっている
ありがたやー
「そういえば、メイルにお願いがあったんですよ」
「何?」
メイルは、書類の束から顔を上げる
「魔石装填型の小型杖がもう一本欲しいんですよ」
「もう一本?」
「そうなんです。今回、Bランクモンスターから逃げ回ったんですが、小型杖の魔石効果がかなり優秀だったんですよ。実力差に関係なく効果ありますしね。ただ、魔石を装填する余裕が無くて、杖がもう一本欲しいなって思って」
「なるほどねー。在庫あったかな…」
メイルが情報端末で在庫を検索してくれる
「どっかから仕入れた、前腕装着型の奴があるけど。使ってみる?」
「前腕装着型ってどうなってるんですか」
「その名の通り、前腕部に取り付けられるベルトがついてるわ。手がフリーになるから、銃を構えながら魔法弾を撃てるんだけど合う合わないはあるかもね」
「面白そうですね、使ってみたいです」
「オッケー、用意しとくよ」
そういうわけで、経理と仲良くしとくといろいろ面倒を見てもらえる
戦闘だけで小隊運営はできない
必要な弾、装備、燃料が用意できなければ、現場では死を意味するからね
それだけ物資の流れを管理する、経理のメイルの仕事は重要だ
よし、この領収証の束だけ入力しちゃおう