59話 Bランクモンスター2
用語説明w
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
ロケットハンマー:ハンマーの打突部にロケットの噴射口あり、ジェット噴射の勢いで対象を粉砕する武器
偵察用ドローン:カメラ付きドローンで、任意の場所にとまらせて偵察カメラとして使い、PITで画像を受信する
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
展望台は塔を囲むようなドーナツ型をしている
近づくと展望台の内側から熱を感じる
この壁は、本来は見晴らしがいいようにガラス張りになっているはずだ
だが今はほぼすべてのガラスが割れている
内側から外側へとガラスが吹き飛んでいる感じだ
原因は展望台内の熱源に他ならない
俺は音をたてないように気を付けながら割れた窓から侵入する
内側にはガラスの欠片がほとんど落ちてないから助かった
「…」
周囲を探る
熱を感じる方向に意識を向ける
…いる
そして、向こうも気づいたようだ
熱源に動きがあることが分かる
気合いを入れろ俺
相手はBランクの化け物だ
喰らったら一発で死ぬ
不意を突かれたら逃げることも出来ないだろう
見つかったら外に飛び出そう…
ズシッ ズシッ ズシッ…
足音が聞こえる
俺はチラッと右側の窓を見る
距離2メートルほど
エアジェットでジャンプすれば外に飛び出せるはずだ
「ご主人! 偵察用ドローンを転がしといて!」
音が漏れないように、データがインカムのマイクで伝えてくる
展望台内に「目」を残すということか
確かにいいアイデアだ
俺は壁際の床にドローンを置き、すぐに小型杖を構える
ズシッ ズシッ…
「グルルル…」
熱風が俺の方に流れてくる
ワニのような顔と体に、ライオンのようなたてがみと足が生えている
ちなみに足は6本だ
これがテスノトリウか…
牙も爪も鋭く、体長5メートルくらい
まさに人間を一番美味しく食べてしまいそうな風貌だ
ガパァ……
「…っ!!」
ボッ…!
ガッシャーン!
テスノトリウが大口を空けた瞬間、俺はホバーブーツのエアジェットを噴射して窓ガラスに体当たり…、展望台の外に飛び出る
ボオオォォォォォォ……!!
展望台内に炎が走る!
炎が窓からも飛び出してくる
熱っ!!
飛び出して高さ150メートルの空中に飛び出す
すぐ小型杖を振り、引き寄せの魔法弾を展望台の屋根へ当てる
ビョォォォォ~~~ン!
屋根方向へ引き寄せられる力が働き、一気に上方向へ体が動く
そのまま慣性に身を任せて展望台の屋根の上へ上がる
「グガアァァァァァァァァァッーーーーー!!」
空気を震わせるような雄叫びが響く
…めっちゃ怒ったらしい
何で? 獲物が逃げたから? いや、逃げるだろ!
「データ、ドローンのカメラ生きてる?」
「ご主人! 生きてるよ! 炎の周りは思ったより熱が高くないのかも!」
生きてるのはありがたい!
俺は目の前に集中させてもらって、カメラ映像の確認はデータに任せよう
「あれだけの熱量でカメラが無事だったのはラッキーだな。データ、奴が動いたら教えてくれ!」
「ご主人、分かったよ! でも、周囲に熱が拡散してないってことは中心温度がそれだけ高温って事だから気を付けてね!」
「…気を付けようが無いよね!?」
直撃 = 死 をこれ以上確実にしてどうする!
「ご主人、窓から出てくるよ!」
「分かった!」
塔の上へ上がるのは、両腕を使って登る以上すぐに小型杖が振れないので危険だ
かといって、不用意に下に降りるとさっきの炎で狙い撃ちにされる
この展望台の屋根の上なら平らなので動き回れる
杖とホバーブーツでとことん逃げてやる
そして、テスノトリウの隙を突いて一気に飛び降りる!
俺が奴から離れれば、一斉攻撃でBランクの先輩方が仕留めてくれるはずだ
ズズズズ…
「グルルルルルル…」
テスノトリウが上がってきた
うん、めっちゃ怒ってる
目が真っ赤だし
俺、お前に何かしたか?
エアジェットっで移動し、テスノトリウ鼻先から逸れる
あまり離れない方がいいか?
だが、飛びかかられたら危ないしな…
「グアァァァァァァッ!」
テスノトリウが飛びかかって来る
バックステップから左周りに移動
よし、動きは俺の方が早い!
さっきの炎を誘って、奴の脇に抜けて飛び降りよう
ガパァッ
…って! 口開けた!!
テスノトリウが大口を開けている
さっきの炎か!?
俺は、杖を振って引き寄せの魔法弾をテスノトリウの横の地面に当てる
ビョンッ!
ビクッ!
「…っ!?」
引き寄せ効果で突然真横に移動した俺にビックリしたのか、テスノトリウが一瞬動きを止める
俺はすかさず杖を振る
二発目は、拘束の魔法弾を装填している
ぼわぁっ…
よし、当たった!
行き掛けの駄賃で、ついでにロケットハンマーも一発!
ボッ…! ゴガァッ!!
ぐわっ…固ってぇ
まさかのノーダメージ!
分かってたけど無理だ、Bランクのバリアは俺じゃ越えられない
ボゥッ!!
すぐホバーブーツのエアジェットで離脱!
俺は脇目も振らず、ひとっ飛びで展望台の屋根から飛び降りる
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
高けーよ! 景色よすぎるよ!
百五十メートルからの紐無しバンジーだよ!!
空中で杖を振る
三発目は引き寄せの魔法弾だ
ビョォォォォンッ!!
展望台の下端に着弾し、そこからターザンの如く塔側に引き寄せられる
「グガアァァァァァァァァァァァァッーーーーー!」
…上の方から怒りの咆哮が聞こえてきた
知るかバーカ
勝手にそこで狩られてろ!
…それどころじゃない
スピードが付きすぎたまま塔の鉄骨に突っ込む!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ゴーーーーーーン……!
両足でエアジェットを噴射してブレーキをかけたが、止まらずに鉄骨に突っ込んだ
「足がしびれる…」
何とか生きてる
死んだかと思うほどの勢いで突っ込んじまった
だがほっとしてる暇はない
早く塔を降りて逃げないと
一応、小型杖に魔石を装填しておこう
次は三発とも引き寄せの魔石でいいだろう
…よし離脱だ
「グガアァァァァァッ!」
うん?
さっきよりも奴の声が近くね?
「ご主人! テスノトリウが追いかけて来るよ! 逃げて!」
俺はデータの言葉で、上の方に目をやる
…まじだ
展望台の壁面から奴が姿を現した
「あの足の形で何で壁を歩けるんだよ!? おかしいだろ!」
Bランクなにやってるんだ、早く倒せよ!
いやダメ! 俺が巻き込まれる!
塔の鉄骨をテスノトリウと反対側に回る
このままじゃ炎で狙い撃ちされる
引き寄せの魔法弾!
ヒュゥゥゥゥゥゥン!
展望台の底に引寄せられて、そのままホバーブーツのエアジェットで移動
展望台の壁で、もう一回引寄せの魔法弾!
一気に展望台の上へ上がる
どうする?
どうする!?
こんなにしつこく追って来るのは想定外だ!
しかも全然引き離せない
距離取らなきゃどうしようもない
Bランクの先輩方が、いつ攻撃を始めちまうか分かったもんじゃないし
塔の先端まで上がって奴と距離を開けるしかないか
その間にBランク先輩に倒してもらう!
…先端だと、追い付かれたら逃げ道ないし死ぬな
意を決して、電波塔の先端に向け引き寄せの魔法弾を振る
ヒュゥゥゥゥゥゥンッ!
一気に二十メートル以上鉄骨を登る
すぐに、引き寄せの魔石を小型杖に装填
「ご主人、来たよ!」
「グガアァァァァァッ!」
うん、嫌と言うほど聞こえました
テスノトリウが、また展望台の屋根の上に姿を現したのが視界の端にチラッと見える
俺は、ホバーブーツを使いながら必死に鉄骨を登る
「データ、奴が口開けたら教えてくれ!」
「分かったよ! ご主人!」
データがいて良かった
登るのに集中できることでスピードも維持できる
「ご主人、口が開いたよ!」
早速か!?
俺は小型杖を持ち、タイミングを合わせて…
ボオオォォォォォォ……!!
ヒュゥゥゥンッ!
引き寄せの魔法弾で回避成功
俺が掴まっていた鉄骨が炎で変形する
よし! よし!
炎の狙撃が一番の危険だ、それを避けられたのは大きい
後は一気に塔の先端までかけ上がる
単純な移動速度は俺の方が上だ
ここまで上がれば、炎は届かないし大丈夫だろう
奴は、展望台の屋根から俺を見上げていた




