57話 銃創休み
用語説明w
龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
今回は、銃創の治療を受けて経過観察のために休みをもらった
しかし! 銃創なんかより頭が痛い!
これは完全にサイキック訓練のせいだろう
若干熱もあるし、知恵熱が酷くなった感じだ
慣れないことはするもんじゃないってことか…
「ラーズ、ブドウ糖買ってきたよ。ラムネでいいんだよね?」
フィーナが買ってきたラムネを渡してくれる
「ありがとう、フィーナ。やっぱり寝てるだけじゃ頭痛が取れないみたいだ」
俺はラムネを齧りながら答える
「サイキックに目覚めたばっかりって、そんなに頭痛くなるんだね」
フィーナは魔法が得意なBランクの戦闘員
そして、サイキックも使える完璧超人だ
しかも、俺みたいな後天的に発現したサイキッカーと違って生まれつきサイキックを使える
だから、俺の頭痛の症状を聞いても、
「あー、サイキック使いすぎるとちょっと頭痛くなることあるかも…」
って感じで、サイキック初心者の気持ちは分からないみたいだ
俺は冷えた発熱時用のシートをぺたっと額に張りながら横になる
「サイキックの練習、フィーナにも手伝ってもらおうと思ったのに無理だわこれ。頭痛ひくまで無理しない方がいいな」
「サイキックって、普段使ってない脳の領域を動かしてるから負担は大きいと思うよ? 慣れるまで焦らない方がいいよ」
「確かに、なんかサイキックっぽいのを感じられて、調子に乗ってやり過ぎたのかも」
「脳のサイキック領域が発現しても、刺激しないとまた閉じちゃうらしいから間違いではないと思うよ。でも、無理すると脳への悪影響が怖いからダメだよ」
「あー、確かに脳への悪影響って怖いね。ボケたら嫌だもんな」
「まだ痛そうだね」
フィーナが俺の額を見ながら言う
多分、俺の精力を見ているんだろう
「俺のサイキック、ちゃんと発現してる?」
まだちゃんと発現してるのか、ちょっと心配になってくる
「してるから大丈夫だよ。でも、何でいきなり発現したんだろうね? 今までにラーズからサイキックを感じたことなんかなかったけど」
そりゃ俺だってそうだわ
だけど、実験部隊で怪しげな薬を飲まされたら本当に発現したとは言えない
また防衛軍辞めろとか言われちゃう…
「………いや、なんか戦場のストレスが原因じゃないかって」
「今、明らかに間が無かった?」
「無いよ? 全然無いよ? あるわけ無いよ?」
「…」
「だって、戦場って怖いんだよ? 弾や魔法が飛んでくるんだよ? 怖いに決まってるじゃん?」
こいつ、俺が隠し事するときだけ鋭くない?
まさか、テレパスで俺の脳内をハックしてるんじゃないだろうな
「…ま、いいけど。でも戦場のストレスで覚醒って、凄い怖かったんだね…。今日は奢ってあげようか?」
「…そういうかわいそうな感じの奢られ方嫌じゃない? でも、怖さは分かるだろ?」
「Bクラスからしたら、遠距離ってあまり警戒対象にならないから…。 私からしたら、闘氣纏った近接攻撃の方がよっぽど怖いからね」
「うーん…、Bランクとは戦い方が違いすぎて分かり合えないか」
Bランク以上が使う闘氣は、使用者の防御力を飛躍的に高める
闘氣の防御力は、生半可な銃弾や魔法じゃダメージを与えられないんだ
更に、闘氣を纏った近接武器は硬度を飛躍的に高め、結果的に攻撃力を高める
闘氣を纏っていない個体なんか一撃で破壊する
闘氣は、纏うという性質上闘氣を発生する肉体と触れている状態が一番強化の効果が高い
更に、闘氣を突破するには同じ闘氣をぶつけることが一番簡単だ
よって、Bランク以上の戦闘員同士の戦いは、お互いが闘氣を纏い近接武器を強化しての攻撃がメインとなる
ランクが上がれば上がるほど、剣や拳で戦う英雄がいた超古代の時代の戦いに近くなる
銃弾や魔法が飛んできても闘氣の鎧が弾き返すBランクのフィーナに、俺の恐怖は伝わらないよな
べ、別にひがんでないし!
「ね、ラーズ。少し頭痛が良くなってきたんじゃない?」
フィーナがまた俺に額を見ながら言う
「…うん、そういえば大分ましになってきたかも」
「少しサイキックの発動が治まって来てるよ。私も小さいときそうだったんだけど、サイキックって自分の意思で抑えるのが意外と難しいの。抑えられないで発動し続けると、脳のキャパがオーバーして頭痛がになったりするの」
「うん」
「だから、サイキックを抑える練習もした方がいいかも。仕事中に勝手に発現して頭痛で動けないとかなったら大変でしょ?」
「た、確かに…! さすがサイキック歴長いだけあるね。フィーナ先輩、これからもサイキック指導よろしくお願いします!」
「えへへ、しょうがないね」
フィーナはちょっと嬉しそうだ
フィーナは昔、サイキッカーってことでいじめられたりしたこともあったからな
勝手に心読まれるとか、物を動かして壊すとか、根も葉もないことを言われてたいた
魔法でぶっ飛ばして以来、誰も何も言えなくなったんだよな
・・・・・・
頭痛がおさまってきたので、夕食を食べに行くことになった
「美味しい!」
フィーナがマグロを頬張りながら言う
「うん、美味しい。生魚って美味しいよな、特に奢りだと」
俺もイクラを食べながら言う
回るタイプの寿司屋
ただ、ここは注文した寿司がレールを運ばれてくるシステムなので実際には回っていない
「奢ってもらいたくなる気持ち分かるでしょ? そのタコ一個ちょうだい」
「居直ってやがるな…」
しばらく二人で無言で食べる
「そういえば、ラーズって今戦闘ランクは何になったの?」
フィーナが思い付いたように聞いてきた
「戦闘ランク? …まだ一度も上がってないからFだと思う」
「え!? 銃やモ魔使っててFはないでしょ? 防衛軍に採用された段階でEランクにはなりそうだけど」
Fランクとは、成人の素手での戦闘力を表す最低ランクのことだ
銃を装備した段階で、普通はEランクになる
「いや、俺は正式採用はされてるけど、まだ見習い期間なんだよ。見習い卒業のためにはクエストを規定回数受けなきゃいけないんだけど、出撃が多くて全然消化できてないし」
「でも固有特性もあるし、サイキックにも目覚めてるのにFのままっておかしくない?」
「そうは言ってもなぁ。とりあえずは、見習い卒業のためのクエスト回数の消化をするよ」
「ふーん、防衛軍ってめんどくさいんだね」
正直、ランクアップなんかいつでもいいとは思っている
ただ、ランクアップすると給料上がるというメリットもあるから、しないというわけではない
「そういえば、ピンクが夏に卒業だって」
「へー、もうそんな年なんだ。進路どうするって?」
「結局龍神皇国の大学だって。家柄がやっぱり、ね」
ピンクは、龍神皇国の貴族の家系であるカイザードラゴンの家柄だ
カイザーの名は伊達じゃなく、すでにBランクの実力を備えているらしい
セフィ姉の家系とは仲が良いらしく、昔からセフィ姉になついており、俺やフィーナにもなついている五歳年下の女の子だ
セフィ姉の周辺はそんな化け物しかいないから困る
いい娘なんだけどね
その時、寿司が十皿ほど俺たちの席に運ばれてきた
「…おい?」
「…そういえば、さっき頼んでたお寿司がまだ来てなかったね」
「今からキツくね?」
「ごめん、私はもう無理…」
「いや、おかしいだろ!?」
「残すのは好きじゃないけど…ちらっ」
「ちらっ…じゃねーよ! …だが、残すのは倫理的にダメだ」
「ラーズって、食べ残しには昔からうるさかったもんね。ごめんね?」
女って奴は…
腹八分からの寿司20貫はめちゃめちゃキツかった