閑話6 住宅復興
用語説明w
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
現在、シグノイアとハカルは実質的な戦争中ではあるが、開戦宣言されていないことから小競り合い程度の戦闘しか起こっていない
シグノイアでの街や村の住宅被害は、自然災害やモンスターを起因とするものが圧倒的に多いのだ
今日のミッションは、ズバリ住宅復興でしょう!
この世界は定期的に強力なモンスターが現れる
核分裂や核融合を操る物理属性のモンスター
台風や洪水を引き起こす、液体や気体を天候ごと操る物質属性を司る精霊
死を撒き散らす魔属性のアンデッド
強力なモンスターは、当然ながら人だけでなく住宅にも甚大な被害を残していく
通信技術の発達により、住民の避難はスムーズに出来るようになったが、住宅までは移動させられないからだ
住宅やインフラが破壊された街は、その後の復興に時間を要し、治安の悪化や疫病の蔓延等により結果的に死傷者を出してしまう
だが、人類はこの問題に一つの解決策を導き出した
それが高速復興だ
その名の通り、住宅からインフラに至るまで、一週間ほどで一つの街を復興するという技術だ
人が作り出した「国」が、竜や巨人と同格と見なされる理由の一つに、この高速復興の技術を挙げる人もいるほどなのだ
「ノクリア属性のエルダードラゴンか。被害はでかそうだな」
「東西南北へ大暴れでしたからね…」
ノクリア属性のエルダードラゴンが、最終的にメルトダウンを起こして大爆発
町の二割が吹き飛び、更に三割がガラスが割れたりなどの被害出ている
崩壊した地域は電気や水道などのインフラも死んでしまっている
この復興作業の補助としてサイモン分隊長と俺が派遣されたのだ
逃げ回った思い出が甦るな…
俺達は目の前の爆心地にできた大きなクレーターを見下ろしている
クレーター内に土属性で作られた簡易的な車道を通って、大量のトラックが土砂を運び込んでいる
ある程度土が運び込まれたら水を流し込み、水魔法で土の攪拌、土魔法で小規模な地震波を起こして、一気に整地が終わる
魔法技術とMEBという機械技術で、土木作業の効率と速度が凄まじく上がったことが高速復興を支えている
爆心地のクレーター近い居住区では仮設住宅が次々と立てられている
仮設住宅と聞いて、プレハブみたいな簡易な住宅を想像するかもしれない
だが、現代の仮設住宅は一般住宅と変わらない
ただ、規格が均一の住宅という意味なのだ
土魔法で整地→水魔法で液状のコンクリートを操作→火魔法と風魔法で高速乾燥
MEBという巨人が次々に柱を建て、屋根を置いて壁を作る
風魔法で外壁の塗装と乾燥を同時に行い、水魔法で接着剤を内壁に塗りクロスを貼っていく
モ魔でプログラムされた魔法を併用することで、広い面積に対する作業や長時間待たなければいけない乾燥などの作業が短時間で終わるようになった
流れ作業のように職人の専門分野の作業をリレーして行くことで、二日ほどで一軒の家が建ってしまうのだ
インフラ整備も同様だ
水道管や電線の埋没工事や道路の整備も、風水土の物質三属性と火冷の熱属性の併用で短期間に終えられるようになった
道路は、壊れたアスファルトを土魔法で破壊、アスファルトの下に土魔法で滑り台のような土斜面を作り、砕いた破片を一気に集める
粘土の高いアスファルトを水魔法で平らに整地して風魔法と火魔法で乾燥させる
土中の水道管や電線は、区画ごとに分けて土魔法を発動
地面の下の本物の土の下に土魔法で作った柱を構成し、一気に持ち上げる
露出した電線と水道管をMEBが交換していき、また埋め直す
MEBの巨体が作業することで、人間の何倍もの大きさの部品を扱え、作業行程が大幅に減るのだ
「いやー、圧巻ですね。家がどんどん建っていくし、道路がどんどん延びて行くし。うわっ、あの巨大なクレーンは何ですか?」
「市役所とかのビル用だろうな。さすがにMEBでもビルの上層は届かないからな」
市役所のビルも三階までは作られていて、周囲をMEBが作業している
まるで、巨人が集まって建物を建てているようにも見える
今は三階から上の上層階を作っているようで、空を飛ぶ箒やじゅうたんが次々と資材を上層階に運び入れているのが見える
「やっぱりMEBってかっこいいですよね。私も免許取りに行きたいですね」
「いいじゃないか。うちの小隊はパイロット一人しかいないから、使ってない機体で練習できるぞ」
1991小隊のパイロットは、現在消防防災庁に出向している
俺もまだ会ったことがない
「免許ないのに乗っていいんですか?」
「隊舎内なら大丈夫だ。外出ちまうと、道路交通法とかに引っかかるけどな」
「無免許運転ですもんね…」
俺は今、サイモン分隊長と小高い丘の上から作業風景を見ながら警戒に当たっている
防衛軍の仕事はこの復興作業の警戒なので、トラブルがなければ特にやることがない
だから暇潰しに色々な場所の復興作業の様子を見ている
少し離れた場所では、高速道路の支柱が次々建っている
土魔法で基礎部分の土をどかし、MEBで基礎の鉄骨を組み立て、水魔法でコンクリートを操作し…
この工法って誰が考えたんだろう?
数日でこの距離の高速道路が作り替えられるって、昔の人は想像もしないだろうな
土魔法は魔素で固体を作り出す魔法
風魔法は魔素で気体を操る魔法
水魔法は液体を作り出し、操る魔法
固体液体気体の持つエネルギー量によって、作り出す、操るという魔法が作用する効果が変わってくる
直接地面の土を操作することは難しいし、気体を魔素で作り出すことも難しい
この魔法効果の法則を上手く使った作業行程だ
完成した遠くの支柱の上では、クレーンとMEBが既に橋梁工事を始めている
支柱の上に次々と高速道路が置かれていた
「…面白いのか?」
サイモン分隊長が暇そうに俺を見る
「面白いですよ、見ていて飽きませんね。やっぱり工事と飛行場には男の子のロマンがありますよ」
「なんだそりゃ?」
ピーピー! ピーピー!
その時、無線で通信が入った
「ファイアースケルトン発生! 第二区画の防衛隊員は直ちに現場に向かえ!」
「ちっ…、やっぱり出やがったか。行くぞ!」
「はい!」
俺とサイモン分隊長は現場に向かった
ファイアースケルトン
高熱や火に巻かれて死んだ人間が、そのあまりの激痛と苦痛で怨霊化して発生するアンデッドだ
骸骨が火を纏ったモンスターだが、元は被害に遭った住民だ
可能なら遺体を残して退治してやりたい
死体から身元が分かれば遺族が見つかるかもしれないからだ
「お願いします!」
既に来ていた防衛軍の水魔導師が手を上げる
後ろには消防隊員が消火液を持って待機している
「ラーズ、体が燃えてるから霊札は無理だ。回復の魔法弾で削れ」
「分かりました」
サイモン分隊長が強化紋章を発動し、盾でファイアースケルトンにぶつかっていく
消防隊員が消火液を噴射し、水魔導師が水魔法で消火液を操作し、ファイアースケルトンを包み込む
俺も聖属性の回復の魔法弾を小型杖で撃ち込む
ファイアースケルトンの火すぐに消え、黒焦げの骨となって崩れ落ちた
「終わりですね! あまり暴れなくて良かった」
「魔導師の兄ちゃん、水魔法が上手いな。完全に消火液で包み込めてたからすぐに終わったぜ」
「消火液の粘度を水魔法で上げているんです。当たれば表面張力が働いて勝手に対象に引っ付いてくれるんですよ」
このように大規模な災害が起こると、アンデッド発生したり、死体に釣られたモンスターが来ることがある
そのために俺達防衛軍が呼ばれるのだ
俺達は、防衛軍の隊員や消防隊員、現場の作業員に挨拶をして、また警戒を続けるのだった