54話 被爆休み
用語説明w
シグノイア:惑星ウルにある国
ハカル:シグノイアの北に位置する同国と戦争中の国
龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
久々に医療カプセルに入った気がする
でも、被爆の影響って目に見えないから怖い
回復溶液は細胞の再生を促す
そして、細胞の癌化チェックをも促すのだ
ちゃんと治療した方が安心だよね
今回も経過観察という事で休みをもらったので、フィーナと遊びに来ている
「ねぇラーズ。最近の戦況ってどうなの?」
突然フィーナが聞いてくる
戦況っていうのは、この国であるシグノイアと隣国ハカルの戦争のことだ
「どうだろうな? うちの小隊の出動は相変わらずモンスター討伐とかが多いから、戦況が悪化したとかは感じないけど」
「そうなんだ…」
「何で急に?」
フィーナはこの国に住んでいるとはいえ、隣国の龍神皇国で就職している
そこまでシグノイアとハカルの戦況に詳しいとは思えない
「うん、前々回くらいから出入国の検査が明らかに厳重になったと思うんだよね。二回連続だったから間違いないと思う。だから、戦況が変わったのかなって思って」
「そうなんだ…。今度、隊で聞いてみるよ」
今日は博物館にいく予定だ
こう見えて俺は、大学時代は考古学の先史文明を専攻していたんだ
シグノイア国立博物館でギアのミイラ展が始まったんだよね
「そういえばデータの調子はどうなの?」
「うん、いい調子だよ。防衛作戦に出る度に無理して買って良かったって思うよ」
「そうなんだ。でも、データが前より話しかけてこないね?」
データは俺専用の個人AI
高かったけど無理して買ったんだ
AIの最優先事項は「マスターの成長」らしく、マスターが自分で選択するための情報を提供することに専念する
最初はマスターを理解するためにデータから話しかけてきた
しかし、それが終わると基本は俺が話しかけて回答をするスタイルで、データから話しかけることはない
だが、戦場では命の危険があるため、ガンガン話しかけてきて情報をくれる
「ご主人! 今は博物館混んでるみたいだよ! 時間ずらした方がいいかも」
データ、こういう便利情報は助かるぜ
「そうか、ありがとうデータ。フィーナ、早飯食ってから行こうか?」
「うん、そうしよー」
・・・・・・
昼食は何にしようかー、と二人で歩いている
ちなみに、よく二人で出かけるが俺とフィーナは兄妹だ
彼女は欲しいが、仕事に慣れるまでは探す気にもなれない
正直、妹と出かけるのは気を使わないから楽だし楽しい
…大丈夫なのか、俺?
「ラーズ、あれ…」
フィーナが何かを指す
「え!?」
いきなり話しかけられてビックリした
示された方を見ると、魔導師のローブを来た男がふらふらしながら立っている
男は街灯に両手をかざして、何かを言っている
「何だろう、頭のかわいそうな感じかな?」
「…魔力を感じる? 呪文を詠唱してるよ!?」
フィーナが慌てて言う
ボボォォォッ!
街灯に火属性と思われる魔法が発動した!?
マジか、街中で魔法を撃ったのか…!
「止めるぞ、フィーナ!」
「うん!」
男は頬がこけ、目の下には濃いくまが出来ていて目はギラギラと見開いている
「ぶつぶつ…ぶつぶつ…」
分かりやすく病んでるな
男がふらふらと歩き出す
周りには子供連れの家族もいる
「…ダメだな、俺が止めるわ。フィーナは周りの避難と万が一の防御を頼む」
「え!? 私が止めるよ、私は魔法が使えるんだし!」
「Bランクが街中で魔法使っちゃダメだろ。後で大問題になるし、俺は防御魔法も使えないからな」
そう言ってっる間に、男が歩いていく
「でも…」
フィーナが心配そうに見てくる
魔法も使えない俺が心配なんだろう
「いいから頼むぞ! 警察を呼んどいて!」
そう言って、俺が男を追う
フィーナは龍神皇国のBランクの騎士として働いている
そのBランクの騎士が、シグノイア国内の街中で力を振るうことは国際問題となりかねない
出来れば避けた方がいいだろう
「あの、大丈夫ですか?」
ふらつく男に声をかける
「あ…ぶつぶつ…か?」
男が振り向く
明らかに様子がおかしい
「…ここは…いつも…? …お前は俺を殺すんだな…」
男は俺を見ながら、意味不明なことを言っている
「は?」
「俺は死なない…死んでたまるか…!」
男は俺に両手を向ける
魔法を使う気か?
正気じゃないな
「…魔力がっ! ラーズ、危ない!」
フィーナが叫ぶ
話は通じなさそうだ
俺は男を取り押さえることに決めた
「…ぶつ…ぶつ…」
男は呪文らしきものを唱えている
魔法で攻撃するつもりなのは間違いないな
…どうしよう、全然怖くない
本来、攻撃魔法を撃たれようとしている状況は、銃口を向けられているのと同じだ
だが、ぶつぶつと呪文を唱えていて撃つタイミングは丸分かり、そして撃ってくる方向も丸分かりだ
戦場だったら、お前なんか陸戦銃のヘッドショット一発で終わりだぞ?
魔法の怖さは、障害物の向こうからの攻撃と複数の仲間を巻き込む攻撃範囲だ
目の前で堂々と呪文を唱えて、魔法に当たってもらえると思うなよ?
俺は左足を踏み込みながら、右手で男の右袖を掴んで引く
そして、左拳をボディに突き刺す
「かはっ…!」
男が、肺の動きを止めた音を出す
更に男のフードが付いた襟首を右手で掴み、前に引き倒す
男は両手を地面に付いて倒れた
抵抗がほぼ無く、体も軽い
病人かと思うくらいだ
左腕を男の首に巻き付け、背後から締め上げる
チョークスリーパーだ
「…!……っ!!」
しばらくもがいたが、すぐ男は動きを止める
体の弛緩を確認して俺は手を放す
男の息を確認する
息はちゃんとしているな
「終わった? 警察はもう呼んだからね」
フィーナが近づいて来る
「ああ、ありがとう。こいつ異常に痩せてるよ。病気なのかも」
「救急車呼ぶ?」
「いや、怪我はしてないはずだから、警察に判断して貰えばいいでしょ」
「うん、分かった」
その後、警察に男を引き渡して事情を説明した
一時間ほど状況を説明した後、連絡先を聞かれて解放された
「なんだったんだよ一体…」
俺は時間が取られたことを愚痴る
しょうがないけどね
「さっき、警察の人があの魔法使いの薬物検査したら陽性だったって教えてくれたよ」
フィーナも解放されたらしい
目撃者として事情を聞かれたんだろうな
「ラリって魔法乱発とか危なすぎるだろ…」
「これから確認するみたいだけど、あの魔法使いって防衛軍の人かもしれないらしいよ」
「え!? それが本当なら大不祥事じゃん!」
「止めといて良かったんじゃない? 一般人を防衛軍の隊員が襲いましたなんてことになってたら、とんでもないことになってたでしょ」
「た、確かに…。良かった被害者が出なくて」
こういうバカのせいで、防衛軍全体の評価が下がるのは納得できない
俺達は命をかけて仕事してるんだぜ
「それより、よく生身で魔法使い相手に制圧できたね」
「え? あんな目の前で呪文詠唱して当たるわけないしね、余裕でしょ」
「…なんか、ラーズ変わったね。魔法を詠唱されてるのに凄く落ち着いてたしさ」
「まぁ、いつも銃弾と魔法が飛んでる中で任務についてるわけだしね。あれくらいならなんとでもなるよ」
「ふーん…」
フィーナがちょっと見直した感じで俺を見てくる
…闘氣が使えない、Bクラス未満の兵士だってそれなりには戦えるんだぞ!
「ご主人、そろそろ博物館がすいてきてるよ!」
データがミイラ展の情報をくれる
「よし、飯は博物館内の食堂で食べよう」
「そうだね」
俺とフィーナは博物館へ
今日は非番だ、切り替えて楽しもうっと
ミイラ展は数千年のロマンを感じれることができて面白かった
風化したミイラって、ネクロマンシー効くのかな?