53話 被災地
用語説明w
魔導法学の三大基本作用力:精神の力である精力、肉体の氣脈の力である氣力、霊体の力である霊力のこと
魔力:精力と霊力の合力で魔法の源の力
輪力:霊力と氣力の合力で特技の源の力
闘力:氣力と精力の合力で闘氣の源の力
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
ジード:情報担当の隊員、補助魔法が得意
エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
俺とウカムは生き残った
あの時………
ピカァッッッッッッッッ!
…
ドドドドドドドドォォォォォォーーーーーーー!!
閃光が町を襲い、その後熱風と爆風が町を襲った
凶悪な風をビルが受け止めてくれたお陰で、俺達の逃げ込んだ穴の中には風の音しか伝わって来なかった
しかし、しばらくは何も聞こえないくらいの爆音が響いたんだ
ノクリア属性は一時的に核分裂反応を作り出す
作り出された放射性物質は、いずれ魔素や輪素に戻り消える
生成され飛び散った放射性物質も例に漏れず魔素や輪素に戻って消えるので、放射能汚染が残らないだけましなのかもしれない
輪素とは、チャクラと言われる現象を構成する魔法文明の概念である
魔法を構成する魔力とは、精神の力である精力と霊体の力である霊力の合力である
チャクラを構成する輪力とは、霊体の力である霊力と肉体の氣脈の力である氣力の合力である
魔力と輪力、魔法とチャクラは根本的に違う現象なのである
そして、ドラゴンのブレスは属性に関係なくチャクラの一種だ
同様に、人類がチャクラの現象を利用して使うものは特技と呼ばれていて、魔法や闘氣とは区別される
特技には、近接戦闘職の火炎切り、仙気発勁、暗黒剣、ホーリーエッジ等々が有名だろう
Cランク以下の戦闘は遠距離がメインになるため、銃と魔法がメインウェポンとなることが多い
しかし、Bランク以上の闘氣使いの戦闘は防御力が格段に上がる
そのため、遠距離攻撃では勝負が付かず、闘氣で強化したチャクラの技、つまり特技がメインウェポンとなっているのだ
ちなみに闘氣とは、精神の力である精力と肉体の氣脈の力である氣力の合力である
精力、氣力、霊力、この三つを魔法文明のもっとも基本的な要素として、魔導法学の三大基本作用力と呼んでいる
・・・・・・
俺達が穴を這い出ると、周囲は爆風の影響で瓦礫が散乱していた
しかし、爆心地からはある程度の距離があったようで、思ったほどの被害は無さそうだった
しかし、エルダードラゴンの歩き去った西方向からは黒煙が上がり続けている
爆発の凄まじさを表しているようだ
どうやら、全力で走り続けた甲斐はあったようだ
「ご主人! 討伐完了連絡が来たよ!」
「おお、ありがとう」
データの声に、俺はPITに届いた作戦本部からのメッセージを確認する
『討伐完了、至急本部に帰還されたし』
「さ、帰ろうぜ」
ウカムがやれやれと歩き出す
「了解です」
巻き込まれた住人の救助任務が続くかもしれないが、少しは休まないと体が持たないよな
戻る途中で避難所を通る
「あっ、あなたはあの時の兵隊さん!?」
「あ、お婆ちゃん。ちゃんと避難できたんですね、良かったです」
避難区域で逃げ遅れていて、俺達が避難させたお婆ちゃんだった
「退避できてなかたったって聞いて心配してたのよ。私のせいで逃げ遅れたんじゃないかって…」
「大丈夫、怪我一つないですよ!」
俺はお婆ちゃんを安心させるために、ガッツポーズを取る
「本当にお世話になったね。人のためにあんなに頑張ってくれるなんて、若いのに大したもんだよ。ありがとうね」
感謝されるって、こそばゆいというか何というか…
でも、頑張った甲斐があったと思えるな
お婆ちゃんと別れ、作戦本部へ戻る
作戦本部に帰還後、俺達は各自の小隊に帰隊することになった
爆心地に近い場所でメルトダウンの爆発を受けているため、被爆の危険性が高いらしい
自小隊で被爆の検査と治療をすることになった
「ウカム、あなたの回復と補助魔法は心強かったです。ありがとうございました」
「こっちこそだ。お前の指示とAIのナビがなかったら爆死してたぜ」
俺達はガッチリと握手をかわす
「また会おう。死ぬなよ、ラーズ」
「はい、ウカムこそ元気で」
こうして俺達は自分の小隊に帰る
一期一会の出会いは素晴らしい
だが、戦場に居続ける限りいつかまた会えるだろう
・・・・・・
「ラーズ、任務を終え帰隊しました」
俺は敬礼して、帰隊を報告する
「お帰りなさい、ラーズ。大変だったみたいね」
ゼヌ小隊長が笑顔で迎えてくれる
「ずっと走りっぱなしでしたよ。巨大ドラゴンの影がトラウマになりそうでした」
「メルトダウンの爆発があったんでしょう。生き残って無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」
「ええ、何とか退避できました。そういえば、討伐にあたっていたAランクとBランクの戦闘員は爆発に巻き込まれてないんですかね? エルダードラゴンのすぐ直近を飛んでいましたけど」
「Bランク以上は闘氣で自分を包んで守っているし、メルトダウン対策に上位補助魔法の防御魔法(大)とか耐熱魔法(大)をかけてるでしょうから無傷だと思うわよ」
「やっぱり高ランクの戦闘員は凄いんですね。こっちなんか爆風だけで吹っ飛んでたかもしれないのに」
「いくら高ランクでも、エルダードラゴンのブレスが直撃したらただじゃすまないと思うわよ? 指向性を持つブレスは、拡散するメルトダウンの爆発の何倍もの威力でしょうからね」
「…高ランクの戦いに巻き込まれてたら、生き残れていなかったことだけは分かりました。無事に帰れて良かったです」
「後は被爆の程度だけが心配ね。ちゃんとエマの所に行って検査をしてきてね」
「はい、分かりました」
俺は小隊長室を出て、先に倉庫へ向かう
物資を置いて装備を脱ぐためだ
倉庫に行くと、ジードがいた
「ジード、エルダードラゴンの討伐作戦から戻りました」
「ああ、ラーズ戻ったか。相変わらずスリリングな体験をしてきたらしいな」
ジードもメルトダウンの話を聞いているらしい
「何とか生きて帰ってこれましたよ。AIのデータがかなり役立ってくれました」
俺は、肩に停めているデータのアバターを示す
「AIは気に入っているようだな。どうだ、自分の他に平行で作業してくれるもう一つの脳があると思うと便利だろう?」
「そうですね、逃げるのに集中している時にナビを自動でやってくれたのは本当に助かりました。あまりに頼っちゃうのもよくない気がしますけどね」
「そこは大丈夫だと思うぞ」
「え?」
「AIは、マスターをより良くすることを目的としている。マスターがAIに依存しないように、対策はされているさ」
「な、なるほど…」
「AIの開発は、むしろマスターの依存を防止するのが難しかったらしいぞ。マスターが判断のすべてをAIに任せる、そうならないように接し方を模索する…、マスターの数だけ答えがある難しい機能だ」
「なんか哲学ですね…」
「ま、最初はどんどんAIを使って自分好みに変えていけばいいさ」
「はい、分かりました」
俺は、倉デバイスの中身を取り出して、フェムトゥを脱ぐ準備をする
まず霊札をフェムトゥに貼る
そして、フェムトゥの呪いを霊札で弱めてから脱ぎ始めるのだ
フェムトゥの呪いにも慣れてきたな…
そろそろ次の霊札を買いにいくかな
装備を脱いだら医療室へ
「お帰りなさい…」
「エマ、帰りました」
エマは、相変わらず不器用にコミュニケーションを取りながら俺の被爆量を調べてくれる
「一応医療カプセルに入った方がいいかも…。皮膚に若干の刺激の後が見られるから…放射線の影響かもしれない…」
「そ、そうなんだ。一瞬光った程度にしか感じなかったんだけど、影響があるんだね」
「ナノマシンの治癒力で治りかけてるだけかもしれない…。ちゃんと治して影響を取り除いた方がいいと思う…」
「分かったよ、よろしくね」
「…」
エマは頷いて、医療カプセルの準備をしてくれる
こうして、今回の俺の派遣は終わった
死にかけた
でも、助けられた人もいた
頑張って良かった